私は、今日も、待っています。

※スウィート幼時期のお話


「…………。」

 今日も、帰ってくるのが遅いのかなぁ。

 そんなことを思いながら、スウィートは頭をテーブルの上にのせて窓の外を見る。
 年中かわることのない窓の風景。物心ついたときから、ずっと変わっていない見慣れた風景。
 つまらない風景と思いながらも、その風景をスウィートは見続ける。

 小さい頃からずっと親から言われ続けていること。

「勝手に外に出たら駄目だよ。外はとっても危ないから」

 どういう意味か分からなかった頃も、今も、ずっと守り続けている。
 外に出るときは、両親と一緒。何があっても、1人で出ては駄目。それを守り続けて、何年たっただろうか。
 今日も今日とて両親は家を出ている。スウィートは、留守番だ。

「暇だなぁ……」

 家にあった本は全て……否、読むことの許されている本だけは、全て読んだ。
 これも両親から言われていることだった。スウィートの手の届かない、高い位置にある本は読んじゃ駄目だ、と。

 一度だけ、どうして読んじゃ駄目なのか。そう聞いたことがあった。

「あの本はね、本当は読んだらいけない本なんだよ。読んだらね、罪になっちゃうの」

 そう母親が告げた。だから、スウィートは「どうしてお母さんたちは読んでいるの?」と聞いた。
 スウィートの頭を優しく撫でながら、寂しそうに笑って母親が答えた。

「貴女の未来が少しでも明るくなってほしいからだよ」

 そう、答えた。

 今でも、その意味は理解できていない。だって、知らないことがありすぎるから。
 だからといって、それ以上のことを両親に聞くことはしなかった。何故なら両親はあまり話したいような感じではなかったから。
 小さい頃から人の心情を大体だが、察するのが得意だったスウィートは、無理に聞こうなんてことはしなかった。

 だから、言いつけを守って、こうやって家の中で過ごしている。

「あ、ブイゼルだ。ねぇ、何処に向かっているの?」

 窓からひょっこり顔をだして、近くを通ったブイゼルにスウィートが話しかける。

『もう少し向こうにいったところにある森にいくんだ。今ちょうど鬼ごっこをしてて、きっと皆あそこに逃げていると思うから』

「へぇ……。何匹とやっているの?」

『僕あわせて7匹かな』

 こうやって一部だがポケモンと会話をすることは、スウィートの1番の楽しみだった。

 この世界で狂って狂気に染まってしまた者や、心が歪んでしまった者がほとんどだ。しかし、こうやって普通の者もいる。
 外に出ず、窓から会話をすることをスウィートは楽しみにしていた。

「捕まえられそう?」

『どうだろう。皆はやいから……でも森をうまく活用すれば捕まえられると思う!』

「そっか。あ、ラルトスはいる?」

『いるよ』

「じゃあかなり頑張らないと。ラルトス頭いいもん。逆に森を活用するの上手いから。引き止めてゴメンね。頑張って!」

『ありがと! じゃあ!』

 ブイゼルの後姿を見ながらスウィートは手を振る。
 鬼ごっこ、というのを聞いたことしかないスウィートは、やはり「いいなぁ」という気持ちしか思い浮かばなかった。
 しかしスウィートは首を振って、その考えを振り払った。

 けど、私は待たなくちゃ。待って、お母さんやお父さんに言ってあげなくちゃ。

 すると家のベルがチリン、と鳴った。スウィートは機敏に反応し、ドアまでダッシュした。
 そこには、大好きな両親の姿。

 パァッと明るい笑顔になり、スウィートは息を吸い込んで大きな声で言った。



「おかえり!!」





私は、今日も、待っています。
(貴方達が、無事に帰ってくるのを)





「……い、おい起きろスウィート」

「んんっ……。……シルド…………?」

「いつまで寝て…………」

「シルドさん、スーちゃん、何や、って……」

「……どうしたの?」

「そ、それはこっちの台詞よ、スーちゃん! どこか痛いの!? シルドさん何もしてないですよね!?」

「俺は何もしてない。普通に起こしただけだ」

「じゃあ何でスーちゃん泣いてるんですか!?」

「知るか!」


「レ、レヴィちゃん。違うよ、これはただ懐かしい夢を見ただけで……」


きっと私は今でも、お父さんとお母さんがいたあの頃に戻りたいと願ってる。







あの世界で生きるって、凄く大変なことだと思ったんです。
それでもやっぱり小さい頃は主人公も普通に生きてたんじゃないかなぁ、ってそう思うんですよね。




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