願い

「今年は織姫様と彦星様、会えそうだね」

 ぽつりとクレディアが晴天の空を見ながら呟く。
 いきなりのことで少しぼけっとしてしまったフールであったが、すぐに「あぁうん、」と会話にのった。

「これから天気崩れそうにないし、大丈夫でしょ」

「だよね、会えたらいいなぁ」

 にこにこと、裏のない笑顔でクレディアが言う。
 子供じみた話であるが、クレディアは信じているらしい。フールは呆れながらも、「クレディアらしい」と考えていた。
 それから少し後ろで歩いている御月に話しかける。

「御月は織姫様に会いに行かなくていいのー?」

「はぁ?」

「もち幼馴染ちゃ、」

「死ね」

「死ね!?」

 即座にそう返され、フールが憤怒の色を示し御月に文句を言う。御月もスルーすることなく、負けじと言い返す。
 クレディアは2匹のことを気にせず、鼻歌交じりで歩く。
 3匹が向かっているのは食堂。理由は御月が「レアさんが食堂で笹を飾ってて、短冊つけさせてくれるって」と言ったためだ。これはクレディアではなく、フールが興味をもち「行きたい!」と言った。

 まだ言い合いをしている2匹をよそに、クレディアは精一杯の声をだして食堂に入った。

「おはようございまーすっ!!」

「あぁ、おはようクレディア」

「あっ、おはようございますクレディアさん! フールさんと御月も!!」

「よー、って何でフールと御月は喧嘩してんの……?」

「あら、朝から元気ね」

「馬鹿とも言うがな」

 食堂に入るとすでに『プロキオン』のメンバーが揃っていた。
 机の上には色とりどりの短冊。どうやら全員短冊を書きに来たようだ。見ると他にたくさんのポケモンが机にむかって短冊を見ながら「うーん」とうなったりしている。
 クレディアはきょろきょろと辺りを見渡し、お目当てのものを見つけて声をあげた。

「笹! おっきい!!」

「これだけ集まると、さすがに大きくなくちゃね。クレディアも書くでしょう?」

「うんっ!」

「ほら、そこも喧嘩も大概にして早く書きな」

「あっ、書く! 絶対書く!」

「うっるせぇな……」

 レアら短冊を受け取り、3匹も『プロキオン』のメンバーがいるテーブルに向かう。
 渡された桃色の短冊をじーっと見てから、クレディアはフールをちらりと見た。
 フールは渡された黄色の短冊に迷わず「ポケモンパラダイス創立に尽力」と書いていた。迷うことなく、まっすぐ。それが字に表れているのか、しっかりとしたもので書かれていた。願いというか抱負に近いようなということはあえて言わなかった。
 そして今度は御月の水色の短冊を見る。しかし何も書かれていなかった。
 すーっと視線をあげて御月の表情を伺うと、視線に気づいたのかばっちりと目があった。

「……俺は楽しいこと書きゃしねぇぞ」

「だってみんな何書いてるのかなーって気になるんだもん。クーくんは?」

「えっ、ぼ、僕? 僕、は……「少しでも強くなってチームに貢献できますように」って……。え、えっと、レ、レトは?」

 自身の願いを明かしてから少し顔を赤くし、クライは話題をそらすかのようにレトに話しかける。
 レトは上機嫌でクライの問いに答えた。

「「少しでも俺の活躍が増えますように!」って書いたぞ! フッフッ見とけよ……」

「あぁ、弄られてバカやらかす活躍をきちんと見といてやるよ」

「いや、そうじゃなくて! カッコいいやつ! カッコいい活躍!!」

「だとよ、リーダー。自分から望んで人質とか囮に挙手するらしい。せいぜい使ってやれよ」

「有効活用させてもらうわ」

「何か知らないけどスンマセンでした! やめてください!!」

 ルフトとフールに弄られ、レトが土下座するかのような勢いで謝る。それを見てルフトはくつくつと笑い、フールは黒い笑顔で「使ってあげるのにぃ」という。
 うーん、と言ってからクレディアは机に身を乗り出してシリュアの短冊を見た。

「シーちゃんは?」

「私も決まってないわ。いざとなると何を書くか迷うわね……」

 そっかぁ、と呟きながらクレディアが椅子に座る。
 後ろから、というか周囲から「シリュアちゃんと付き合えますように」等と聞こえるのは恐らく幻聴だろう。
 クレディアはうーんと唸って、ペンを回しながら宙を仰ぐ。

「どうしよっかなぁ……」

「クレディアは「お医者さんになりたい」って書かないの?」

 ひょこりと顔をのぞかせたのはフール。不思議そうに、どうしてそう書かないのかと疑問に思って仕方ないという表情をしていた。
 クレディアは「えっと、」と言ってから笑った。

「確かにそれは私の夢だけど、お願いすることじゃないなぁって思って。自分の夢は、自分の力で叶えるものだから、何か違うかなって」

「……クレディアらしいわ。でもそういう考え方は私好きだなー」

 そういわれて、クレディアは「えへへ」とはにかんだ。
 ふと、フールはまたしても浮かんできた疑問をクレディアに問いかけた。

「いつもは何て書いてるの?」

「うーん……「健康にいられますように」とか、「もっとたくさんの人と仲良くできますように」とか……かな?」

「わぉ、健気。レト見習いなさいよ」

「何で俺に矛先むいてきた!?」

「お前の願いが一番くだんねぇ気がするからだろ」

「人の願いバカにすんなよ!!」

 またしても騒ぎ出したメンバーに、クレディアは「仲良しだなぁ」と微笑む。
 それから少し悩んで、クレディアは自身の手元にある桃色の短冊に、さらさらと字を書いた。


 満天の星空。綺麗にかかる天の川。空にむかってのびる、たくさんの短冊がつるされた笹。
 カラフルな短冊がつるされている中、桃色の短冊の文字が揺れた。

 「みんなともっと一緒に、笑顔でいられますように」。

 ふわりと舞ったその短冊は、風でパシッと音をたてて強く舞い、元の位置へと戻った。




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