* バレンタイン3
「バレンタインって別に女子が男子にあげるんじゃなくて、男子が女子にあげてもいいと思うんだよねー」
シィーナの発言に、誰もが黙った。……あぁ、カイアは元からか。
俺は目だけシィーナにうつす。翡翠は苦笑、リフィネはきょとんとしていた。カイアは反応なし。
とりあえずくだらないと判断したので、すぐさま本に目線を戻した。
「ちょっと真面目に聞け! 特に蒼輝! 君は翡翠のように少しは話を聞くべき!!」
「くだらない話を聞くぐらいなら、本を読んで自分の知識を増やす」
「聞けよ!!」
「ってぇ!!」
頭を強く叩かれ、元凶のシィーナを睨む。
シィーナは素知らぬ顔で勝手に説明を続けた。
「世の中には逆チョコというのもある! だからベテルギウスは逆チョコバレンタインにしよう!!」
「お前はただ食いたいだけだろうが。つーかお前らに作ったとしてもシィーナはムダに消費するだけだし、リフィネに至っては下手物かけられる。何でそれを分かってて作んなきゃなんねぇんだよ」
「下手物って何よ! 普通でしょ!? ていうか本当に美味しいんだって!!」
「黙れ味覚音痴」
またリフィネが騒ぎ出したが、こればっかりは翡翠も公認している。……まあ、翡翠はわざわざリフィネを庇って「リフィネさんの味覚は凡人と違う」と言っているが、明らかにリフィネの味覚がおかしいだけである。
シィーナは小さく「まあそりゃそうだけど……」と言った。全員が公認してんじゃねぇか。
「とりあえず! チョコを作れ!!」
「断る。碌なことにならねぇ」
さっきも言ったとおり、どうせ悲惨なことになる。そんなチョコを何でわざわざ作らなければならないのか。
「えっと……僕、作ってきましょうか?」
「グッジョブ!」
「気ィ遣わなくていいぞ、翡翠。遣うだけムダだ」
「いや、でも……」と翡翠は迷っている。でもムダな物はムダである。
「あっ、じゃあ私が作ってこよっか?」
「「「遠慮する(します)」」」
「何で!?」
リフィネが作ると立候補したが、全員が拒否。当たり前だ。下手物をかけられたチョコなど誰も食べたいと思わない。
つーかリフィネが作るくらいだったら自分で作った方がマシだ。
「つーかんなに物が食いたきゃシィーナ、お前が自分で作って食べりゃいいだろうが。お前、料理できただろ」
「できるけどさー、作ってる途中で気付いたら全部なくなってるんだよね。何でだろー」
「ただの摘み食いだろうが。摘みともいわねぇけど」
てか馬鹿だろ。なくなるわけねぇだろうが。馬鹿だろ。
「つーか、バレンタインなんてどうでもいいだろうが。馬鹿らしい」
「今バレンタインを馬鹿にしたな……!? 恋する乙女の告白イベントを馬鹿にしたな……!!」
「お前らは恋する乙女じゃなくて、馬鹿食いする馬鹿と味覚がおかしい馬鹿だろ」
「「馬鹿いうな!!」」
叩かれそうになったが、何とか避ける。二度も喰らって溜まるか。さらに2発。
「ま、まあとりあえず僕が作ってきますから」
「翡翠、気ィ使う必要はねぇっつうの。この馬鹿どもの頼み聞くだけアホらしいんだから」
「ぶっ飛ばすよー、蒼輝くんやい」
「くん付けすんな、気持ち悪い」
というかバレンタインって女子が男子にチョコ渡すイベントだろ。
……まあこの2匹を女としてみてないので、そんなイベントなど頭になかったが。それに渡されたとしてもシィーナはどうせ自分で食うし、リフィネに至っては下手物がかかってる。碌なことがない。
そんなんだったらこんなイベントに参加しないのが1番賢い。
「……そんなに欲しけりゃ街でも歩いてきて頼んで来い。俺らに期待すんな」
「もらえるとでも?」
「無理だろ」
第一、外で待ってんのはチョコを欲しがった奴らである。
「でも外で女性からなら頂けるんじゃないですかね?」
「おぉう! ナイスだよ、翡翠! そうと決まれば行くよー、リフィネ!」
「りょうかいっ!!」
そう言ってドタバタしながら♀2匹が出て行った。
すると今まで会話に入ってこなかったカイアがぽつりと呟いた。
「……なぜもらえるとかくしん…………」
「やめてやれ、カイア。どうせ絶望した顔で帰ってくんだから」
「そ、蒼輝さん……」
どうせ貰えないだろうけど、せめて夢を見せてやろうと止めなかった。
よく考えろ。見知らぬ他人にチョコをやる奴なんてじょのいない。つーかいたらビックリだ。
「……じゃあアイツらなにしに?」
「現実を見にいった」
「…………」
もう何も言うこともない。そう思って本に目を戻した。
カイアも興味がそれたのか、手元にあった地図を見出した。翡翠はもうフォローするのが無理と考えたのか、苦笑いを浮かべていた。
ハッピーバレンタイン!
リフィネとシィーナの結果は、まあご想像にお任せする。
感想をいうと、アホみたいだった。
ベテルギウスのバレンタインは冷めていた……。
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