バレンタイン2

「バレンタインって何だっけ……。脅迫祭り……?」

 もうチョコ貰いたくなくなってきた……。最初の方は嬉しかったんだけど、フォルテや凛音あたりからバレンタインが何なのかよく分からない。
 せめてもの癒しを貰いにいこうと海岸に行くと、先客がいた。

「スウィート?」

「あれ、シアオ?」

 スウィートの方に向かう。まだ夕方じゃないからクラブたちが泡ふきしてないけど、やっぱり此処は綺麗だ。
 ふとスウィートの手元を見ると、瓶に小さな袋を入れていた。

「何やってるのさ、スウィート」

「え、と……袋を瓶に入れてるんだけど……」

 ごめん、スウィート。それは見たら分かる。
 言葉が足りなかったことに気付いたスウィートは、すぐに分かるよう説明してくれた。

「この袋にバレンタインチョコを入れてて、それを瓶に……」

「何で瓶?」

「流そうかなぁって……」

「へっ、流す?」

 え、何で? スウィート一体なにがやりたいの? ていうか行き着く先は見知らぬ他人じゃない?
 スウィートは手元の瓶を見ながら、とても小さな音量で言った。

「……ほら、レヴィちゃんの時の回廊≠ナこっちに来るとき、記憶があった時もなかった時も、行き着く先は此処だったでしょ?」

「え……あ、あぁ、うん」

 いきなりレヴィの名前が出てきて驚いてしまった。スウィートはあまり過去のことに……シルドたちのことに、触れないから。
 驚いている僕を他所に、スウィートはそのまま続けた。

「だから……その、シルドやレヴィちゃんに届いたらいいなぁ、って。此処なら、もしかしたら、」


 届いてくれるかな、なんて。


 そう言ったスウィートは寂しそうで、辛そうで、だけど笑っていた。
 ……スウィートは、まだシルドとレヴィが生きてることを信じてる。自分も生き返ったんだから、2匹も生きてるって。未来の世界で笑って生きてるって。
 僕もそう信じてる。……事実は分からないけど、それでも生きてると思う。
 その2匹に、スウィートは感謝の気持ちとして伝えたいんだろう。

「……届かないのは分かってるよ。気持ちだけでも、って思って」

 スウィートは言いながら、2つの袋が入った瓶の蓋をしっかりと閉めた。
 そして水の中へと入れて流した。それは波に揺られながら、どんどん小さくなっていく。どんどん小さくなって、見えなくなっていく。
 瓶が見えなくなってしまってから、僕がぽつりと呟いた。

「届くと、いいね」

「…………うん」

 ……シルドとレヴィなら、笑って受け取ってくれるだろうな。シルドの場合は苦笑かもしれないけど。

 スウィートは優しげな笑みをしてから、「あ」と言ってすぐ隣にあった綺麗な包みを取った。

「はい、シアオにもバレンタイン。シアオが最後になっちゃったけど……」

「あ、ありがとう! スウィートの前の2匹が酷すぎて涙が出そう……」

「え?」

 スウィートはきょとんとした顔をしたけど、僕の持っている袋を見てすぐに理解したのか苦笑いをした。3倍返しの悪魔と5倍返しの死神だよ、あの2匹。
 貰った包みを見ると、スウィートらしい落ち着いた感じの可愛い包みだった。

「スウィートは……何匹に渡したの?」

「んー、わかんない。とりあえずギルドのポケモンとかセフィンさんとか……あとトレジャータウンのポケモン達にもあげたし……。あ、何でかチョコをくれたポケモン達にも渡したよ」

「……何でかチョコをくれたポケモン?」

「うん。何匹かいたんだけど……」

 ……まさかの逆チョコの本命? それともただの友チョコか義理チョコ?

「えぇっと……スウィート、それって♂?」

「え、うん。3匹以外は。その3匹は『シリウス』のファンだからって貰ったの。あ、シアオ達の分はギルドにおいてあるよ」

 ほ、本命もらってる……! さ、流石はスウィート……。さらに逆チョコって……。
 ていうかファンって何。……まあ、チョコもらえるならいっか。

「それじゃ、帰ろうか。暗くなったら困るし……」

「あ、うん。そだね」

 確かにもう日が落ちかけている。あぁ、何かくだらないことで1日が終わった気がする……。……チョコ食べれるからいいことにしよう。
 とりあえずスウィートと一緒にギルドへの帰宅路を歩くのだった。





「ただいまー」

「シアオ……! ちくしょうっ、コイツも勝ち組か……!!」

 意味が分からない。
 とりあえず帰ったらラドンとイトロが死んでた。メフィから貰ったんじゃなかったっけ。あぁ、スウィートからもか。
 スウィートの方を見るとわけの分からないといった顔をしていた。当たり前だよね。
 見るとギルド全員が……あ、アルとディラとロードだけがいない。ディラとロードはまだ対応に負われてんのかなぁ。アルは……何でいないんだろう。

「あ、フォルテとシアオ。これ、『シリウス』のファンっていうポケモンから」

「わぁ、めっちゃ豪華じゃん!」

「ていうかファンて何」

 スウィートがもってきた3つの袋を受け取る。どれも美味しそうなチョコレートが入ってる。
 フォルテはファンについて疑問みたいな顔をしてたけど。僕と全く同じ反応だ。

「あの……イトロ先輩とラドン先輩は一体何が……」

「チョコの数だそうです」

「うわぁ!?」

 いきなり凛音が入ってきて驚く。ご、5倍返しの死神……! とか考えると凛音がこっちを見た。何も考えてないです。
 すると引き継ぐかのようにメフィが説明を続けた。

「あたしと凛音とスウィート先輩、あとフォルテ先輩以外からもらってるポケモンは勝ち組らしいですよ」

「あ、そっか。僕ルチルとアメトリィから……そんでさっき3つ貰ったもんね……」

「安心しなさい。本命は1つもないわ」

「……え、それ嫌味?」

 別に本命が欲しいとは思ってないけど……チョコ食べられるだけで嬉しいし。でも3倍返しと5倍返しがなぁ……。

「というか、アルは? まだ帰ってないの?」

「まだ帰ってないわよ。どこをほっつき歩いてんだか……」


「「真の勝ち組が現れやがったァァァァァァァァァァ!!」」


 うるさっ……。
 いきなり大声が聞こえて、そちらを見る。イトロとラドンが頬をひきつらせていた。
 そして2匹の目線の先には……アル。

「え、ちょ、え?」

 何あのチョコの量。おかしいよね、絶対におかしいよね。
 皆で固まっていると、メフィだけが「うわぁ!!」と声をあげてアルに駆け寄っていった。

「凄い量ですね、アルナイル先輩! モッテモテじゃないですか!!」

「…………いや、違うだろ。ていうかまず荷物おかせろ。重いんだよ……」

 邪魔にならないところにアルが持っていた……2つのでかい紙袋をおく。その中にはてんこ盛りに入ったチョコレート。
 つられるようにそちらに駆け寄る。うわぁ、凄い……。これ全部食べたら鼻血でるよ……。

「すごいね、アル。この量……。アルに感謝してるポケモンはいっぱいいるんだね」

「違うわよ、スウィート。この中には十中八九本命チョコがあるわ。……あぁ、スウィートには本命も義理もわかってないか……」

 スウィートが的にはずれた、フォルテはそんな彼女に残念そうな言葉をかける。スウィートは首をかしげているけど。
 アルの方を見ると多少げっそりした顔だった。そりゃそうだよね。この量を食べるのは絶対にキツいよ……。

「……先輩、これぜんぶ本命ですか?」

「そんな訳あるか。ほぼ知り合いからだよ」

 そういえば……アルはもともとトレジャータウンの近くに住んでるから……知ってるポケモンも何匹かいるから、この量なんだろうなぁ。……多分ていうか絶対に本命が混じってるけど。
 でもどうやってこのチョコを消費するんだろう……。飽きないかな。

「いや、でも先輩! やっぱ本命もありますよね!? 貰ったんですよね!?」

 何でかメフィが超食いついている。何でこんなに食いついてんの。
 アルは迷惑そうな顔をしている。これ以上聞くな、ってことなんだろうけど、メフィには通用しないみたいだ。

「……まあ、もらったけど…………」

 あまり言いたくないのか、アルがとても小さな声で言った。
 しかし地獄耳のギルドの面子は反応した。

「きゃーっ!! 凄いですわー!!」

「本命とは……返事は!? 返事はしたんですか!?」

「こっ酷くフッてないですよね!?」

「先輩、フるなら5倍返し位しなければなりませんよ」

「そーよ。可哀想じゃない」

 思いきり食いついてきたスウィート以外の♀5匹に、アルが心底鬱陶しいといった顔をする。……今日は大変だろうなぁ、アル。
 もう1方向を見ると、暗いオーラがあった。

「かちぐみ……つよい……」

「ありえねぇ……」

 イトロとラドンが死んでいる。レニウムが元気づけようとしてるけど、ムダだと思うよ。もう放っておいたほうがいいんじゃ……。

「ねえ、シアオ」

「ん、何? スウィート」

「……本命って何かな?」

 ……この問いに、僕は答えるべきなのかな。





Happy Valentine!



この後なんとか適当に誤魔化したけど、スウィートはずっと首を傾げてた。







グダグダで終わってしまった……。でもこんな感じな気がしたんですよ。
アンケートの結果、やはりアルが1番チョコを貰うのでは? というのが多かったです。
結果的にはアルがやはり1番でしたけどねー。その次にスウィートです。




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