バレンタイン

※エンディング後・卒業前
※シアオ視点
※ちょっとだけシリアスだけどほぼギャグ



 朝おきたら誰もいなかった。
 ギルドは今日お休み。ディラがバレンタイン云々だから、って言ってた。
 詳しく言うとバレンタインは好きな人に送るとかそっちの印象が強いけど、お世話になった人へ送る義理チョコもあるから、ギルド宛に毎年何個かくるんだって。それの対応に追われるから今日はお休みなんだ。

「でもさぁ……」

 スウィートもアルも起こしてくれればいいのに。そして今日は珍しくフォルテもいない。バレンタインだからってチョコ配りにいったのかな……。
 とりあえず体を起こして伸びをする。僕もそこらを歩いてこようかなぁ。暇だし。

「……って、あれ? ま、まさか……日の射し込みを見るからに、もう昼!?」

 そんなに寝ていただなんて!
 何で起きなかったんだろう……。そんなことを思いながら朝礼の場へと続く道を歩く。
 そしてそこに出ると、何でかある2匹が打ちひしがれていた。

「おはよー。何やってんの? ラドンもイトロも……」

 ラドンとイトロ。何か暗いオーラが見える。
 するといきなりラドンががばっと起き上がって、僕の肩を勢いよく掴んだ。

「お前も仲間だよな!?」

「は?」

 意味が分からず首を傾げる。ていうか音量が大きいよ……。

「ヘイ! シアオは仲間なはずだ!! 負け組だろお前も!!」

「負け組って何!?」

 何かすごい失礼なこと言われてるのは理解した!!
 よく見るとラドンもイトロも涙の跡があった。あぁ、話しかければよかった。なんて思ってしまった。ほら、何か面倒そうじゃん。
 僕が理解していないことを悟ったのか、イトロが説明してくれた。

「いくら馬鹿のシアオでも今日は何の日か知ってるよな? ヘイヘイ!」

「馬鹿じゃないし! バレンタインでしょ?」

「そうだ。このイベントはな、モテない奴イコールチョコがもらえない! そういう奴らはな、負け組なんだよ!!」

「へー。つまりラドンとイトロは誰にも貰えず負け組ってこと?」

「「ぐっ!!」」

 まとめて言ってみると、何故か2匹は地面に沈んでしまった。何でだろ?
 つまり僕が仲間ってことは……まあ確かに貰ってないけどさ。でも負け組って言われるのはヤダなぁ。

「まぁいいや。とりあえず僕ちょっと外に出てくるね」

「やめとけシアオ! 辛い現実を見ることになるだけだ!!」

 後ろでラドンの引き止める声が聞こえたけど、もう構ってられない。ていうか辛い現実って何なんだろう。
 梯子を上って1階にあがると、アメトリィとルチルと目があった。「おはよー」とだけ言って梯子を上ろうとすると、2匹に止められた。

「ちょっと待ってください、シアオさん。シアオさんの分もあるんですよ。はいっ、ハッピーバレンタインです」

「わたくしからもハッピーバレンタインですわ。シアオたちはギルドに来てから初めてのバレンタインですわね」

 可愛らしいラッピングをされた袋を渡された。……ごめん、ラドンとイトロ。僕もうチョコ貰っちゃったや。

「ありがと。2匹はギルドの皆に渡してるの?」

「まさか! ラドンとかにあげたら何ていわれるか分かりませんもの。あと勘違いされても面倒ですし。後輩だけにしかあげていませんわ」

「あとディラさんと親方様に。お世話になってますからね」

 ……あぁ、だから2匹ともあんなに凹んでたのか。義理チョコすら貰えないんだもんな……。

「とにかくありがと。美味しく食べさせてもらうね!!」

「えぇ。そうしてくれれば作ったこちらとしても嬉しいですわ」

「引き止めちゃってごめんなさいね」

 2匹から貰った袋を落とさないように、梯子を登る。そしてギルドを出た。
 それにしてもスウィートたち何処いったんだろ。まあ休みだし、どこに行くも勝手だけど。

「あっ、シアオ先輩! お出かけですか?」

 後ろから声がかけられる。そちらを見ると、メフィがギルドから出るところだった。メフィも今から出かけるのかな……。
 メフィは大きい袋を抱えながら出てきた。そして「あっ」といって袋を探る。

「ハッピーバレンタイン! いつもお世話になってます!」

 またしても可愛らしいラッピングの袋を渡された。何ていうか、ギルドの女子は女子力がかなり高いなぁ……。

「これ、ラドンたちにもあげた?」

「はい! アメトリィ先輩とルチル先輩には朝早くにあげてたんですけど、他の皆さんには今渡してきたところです。ラドン先輩とイトロ先輩には何か崇められました!!」

 ……何ていうか、大変だなぁ、本当に。

「何ていうか……皆こういうイベントに乗っかるんだね……」

「そりゃあ女の子はそうだと思いますけど。あっ、そういえばシアオ先輩に1つ忠告があるんですよ。アルナイル先輩にもしたんですけど……」

「忠告?」

 さらにアルにまで? ていうか忠告っておかしいよね……。
 するとメフィはいい笑顔で言い放った。

「凛音には気をつけてくださいね! チョコ渡されたら3倍返しならぬ5倍返しくらいしなきゃいけない羽目になりますから!」

「5倍!?」

 バレンタインのお返しって3倍返しじゃなかったっけ!? 5倍!?
 おそらく青ざめているであろう僕の顔を見ても、メフィは表情を変えずに説明してくれた。

「凛音はできるだけ安い材料で、高く見えるようなチョコ作ってましたからねー。見た目は高級チョコですけど、中身は格安チョコですから! あっ、あたしまだ配りに行くんで失礼しますね!」

「あっ、あぁうん……。ありがとね……」

 呆気にとられながらメフィの背中を見る。
 見た目は高級チョコ……中身は格安……。一体どんなチョコなんだろ……。気になるけど貰いたくない。だって5倍返しだよ!?
 貰った3つのチョコを見る。多分ルチルとかアメトリィとかメフィは3倍返しとかきにしないだろうけど……フォルテと凛音はたぶん要求してくる。……何ていうか、それは……嫌だなぁ……。

「……とりあえず……散歩いこ」

 とりあえず動こう。折角の休みだし、のんびりしよう、うん。





「「げっ」」

 バレンタインムードのトレジャータウンを歩いていると、フォルテに出くわした。僕と同じような声をあげる。
 僕は気にしなかったんだけど、フォルテは恐ろしかった。

「その「げっ」ていう声は何かしら? 何か文句でもあるわけ?」

「フォルテだってやったよね!?」

「あたしはいいの」

 何ていう屁理屈……今に始まったことじゃないけど……。
 ていうかどうしよう。出くわしちゃったよ。3倍返しの悪魔に。出くわしちゃったよ、どうしよう。

「……シアオ、あんた今失礼なこと考えてるわよね?」

「そ、そんなことないけど!?」

 何かもう火炎放射か火の粉か知らないけど準備してるんだけど! 完全に殺るつもりだよ!!
 冷や汗ダラダラで対応していると、珍しくフォルテは「まあいいわ」と何もしてこなかった。……な、何があったんだろう。

「はい、バレンタインチョコ。ホワイトデーに3倍返ししなさいよ」

「あ、ありがとう……。あのさ、フォルテ。3倍返しはよそうよ。絶対におかしいって」

「貰った奴が何かいう権利があるとでも?」

「まず3倍返しを要求しながら渡すところから間違ってると思うんだけど!!」

「それ以上文句いうなら焼くわよ」

「そんな恐ろしい宣告いらないんだけど!」

 別に文句を言ったわけでもないのに、何故か火の粉をやられた。トレジャータウン内ということもあって、避けられなかった。
 だからフォルテから貰うの嫌だったんだよ!!





 何とかフォルテから逃げ切り、サメハダ岩付近で座り込む。

「ひ、酷い目にあった……」

 フォルテからラドンたちも貰うことになるんじゃないかな……。こんな感じでも喜ぶんだろうか……。僕はぜんぜん喜べないんだけど。
 すると「あぁ、丁度よかった」とあんまり会いたくなかった人物の声が聞こえた。振り向くと思ったとおりの人物。……5倍返しの悪魔が。

「シアオ先輩、バレンタインチョコです。ホワイトデーを期待します」

「あ、ありがとう……。……3倍返しとは言わないんだね」

 いらないと言う訳にもいかず、凛音からのチョコを貰う。袋は……豪華そうに見えるけど、絶対に安い奴だ。安いのをただ綺麗に装飾しただけに違いない。
 そして僕がぽつりと呟いた言葉に、凛音が「は?」と反応した。

「3倍返しは常識ですよ?」

「……デスヨネー」

 もう何を言ってもムダな気がする。何で常識になってるんだろう。おかしいよね、絶対に。そう思う僕は間違ってないよね。
 メフィは格安だといってけど、袋から見るにそうは思えない。でもああ言ってたし本当なのだろう。凛音なりに工夫して本来3倍返しのところを5倍返しくらいにしようとしたんだろう。見事に成功してるし。

「……凛音、これ幾らしたの?」

「ご想像にお任せします」

 あくまでも5倍返しにさせるつもりだ。あくまでも値段を想像させて5倍返しくらいにさせるつもりだ。
 フォルテより恐ろしい。悪魔だ。鬼だ。鬼畜だ……!!

「シアオ先輩」

「はい!?」

「返しが割に合わなかったら先輩といえど容赦しませんから」

「り、了解デス……」

 それでは、と言って去っていった凛音にひきつった笑みしかできない。
 怖いんだけど。フォルテより怖いんだけど。何でそんなにお返しに固執すんの。これって、義理チョコってお世話になった人へ感謝の気持ちとして渡す物じゃなかったっけ!?
 もう何も言えやしない。だって凛音怖いもん!!







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