バレンタイン前日物語

〜スウィートのばあい〜


「ギルドで15……あとセフィンさんとか刃さんとか……トレジャータウンの人たちにも渡したいし……」

 うーん、と言いながらスウィートはメモに書いていく。
 メモのいちばん上には「あげる人リスト」と書いてあり、その下に名前が書いてある。それは結構な数になっていた。
 それを見てスウィートは満足げに頷く。

「よしっ、頑張って全員分つくろう。あと……一応予備に何個か作っておけばいいよね」

 相当な数でも減らそうとしないスウィート。どうあってもメモに書いてある全員に渡すつもりらしい。
 それは教えてもらった情報に原因があった。

 バレンタイン≠知らないスウィートは他から色々と教えてもらったのだが、色々な情報があり、とりあえずアルの情報を信用することにしたのである。因みに色々な情報とは、色事や交友関係などなど色々な項目であった。
 アルは「世話になった人にチョコレートをあげるイベント」という、いたってシンプルな説明をした。スウィートもそれがいちばん分かりやすかったようで、それを信用することにしたのだ。
 そのときにフォルテに「男にあげるときは義理っていうのよ絶対よ分かったわね?」と凄い剣幕で言われたのは記憶に新しい。

「皆には普段からお世話になってるから、頑張って美味しい物を作らないと申し訳ないよね。
 うんっ、がんばろう!!」

 そう言いながら、スウィートはチョコ作りを開始する。
 目は本気である。こういった誰かに贈り物をするイベントに気合をいれるスウィートは、バレンタインにも真面目に取り組むのだった。





〜フォルテのばあい〜


「よしっ、これでオッケー。我ながらよくできたわ」

 ふふん、と得意気にフォルテが笑う。目の前には装飾が施された、綺麗なブラウニー。

「渡す奴はまあ……ギルドの奴ら、かしらね。ていうかロードの場合はセカイイチの方がよかったかしら」

 今更おそいか、とフォルテはその考えをやめる。
 そしてブラウニーの数を数え、あげる者を考える。計算して作ったわけではないので、ブラウニーの数は大量にはない。

「とりあえず……女子はくれるだろうから、そこらは全部渡さなきゃね。男からはホワイトデーに3倍返ししてもらおうっと」

 おそらく此処に誰かいたのであれば、フォルテにツッコミを入れたことだろう。しかし残念ながら誰もいない。
 鼻歌まじりでフォルテがラッピングを施していく。綺麗にできたブラウニーがおいてある机の隅には、焦げた何かがあるが、フォルテはそれをほぼ無視している。火加減を間違えてしまったブラウニーになり損ねたソレは、どうなるのか知る由もない。

「そういえば……スウィートにハート型は男に渡すなって言うの忘れた。……まあ、スウィートはそれくらい分かってるわよね、うん」

 そう言いながら、ラッピングを施す。
 しかし、ピタリとフォルテの作業の手が止まった。

「……本当に分かってんのかしら。タラしこんで変な奴に付きまとわれなきゃいいけど」

 天然だからな。それに恋愛のれの字も知らないような彼女だもの。
 そう考えているうちに、フォルテはだんだんと自信のリーダーが心配になってきた。もっとバレンタイン≠ニいう行事について教えておくべきだったか。今になってそんな後悔がうまれてきた。

「ま、まあ大丈夫よね」

 考えても仕方ない。
 とりあえずフォルテは心配の種であるリーダーのことはおいておくことにした。





〜シアオ・アルのばあい〜


「ねえアル……。僕さ、明日のバレンタイン超不安なんだけど」

「知るか」

 部屋でゆっくり読書をしているアルに、不安げな顔をしたシアオが話しかける。
 ばっさり切り捨てられたシアオだが、そんなことでめげることもなく、何故かそのまま続ける。アルは本から目を放さなかった。

「スウィートのは楽しみだよ!? けど、けどさ!! フォルテとかホワイトデーに3倍返し要求してきそうじゃん!」

「今更だ」

「いや、そこ納得する!?」

 シアオがアルにツッコむ。そしてようやくアルが本から目を放した。完全に呆れた顔をしている。
 そして小さなため息をついてから、シアオの話題にのることにした。

「貰った物に少しでもケチをつけたら確実に火の粉か火炎放射がとんでくる。3倍返しを嫌といってもとんでくる。お返しに3倍返しで変な物を渡してもとんでくる」

「何その理不尽オンパレード! ていうかそんなの貰いたくない!!」

「因みにいらないといってもとんでくる」

「それこそ本当の理不尽じゃない!?」

 しかし考えてみたらその理不尽が実現しそうで怖い。
 そして何故かシアオの頭に自分がフォルテの火炎放射を食らう光景が頭を過ぎった。慌ててシアオは頭から振り払う。しかし本人が無意識にイメージしてしまうのだから、実現される可能性は高いということだろう。
 そんなシアオを白い目で見てから、アルはまた本に目を移した。

「まあいらないとは言ってやるなよ。流石のフォルテもそれは嫌だろうから。3倍返しに文句言うぐらいならいいが」

「えぇ……。3倍返ししないといけないんでしょ?」

「作った奴の気持ちも考えろ。あとスウィートは「お返しはいらない」とか言うだろうけど、貰ったらちゃんとホワイトデーに返してやれ」

「そりゃちゃんと返すつもりだけどさ〜」

 3倍、3倍返し……とシアオが戯言のように呟く。シアオにとっては3倍返しがいちばん重要な部分らしい。
 アルは一度だけシアオに目をやってから、本に目を戻した。

「……一応いっておくが、お前手作りの菓子はやめろよ」

「えっ、何でバレたの!?」

 その言葉を聞いて、アルが盛大に顔を顰める。
 シアオの料理の出来なささは『シリウス』のメンバーがよく知っている。おそらくそれをお返しなどと言って渡すと、フォルテの火炎放射がとんでくる。そんなのは簡単に予想ができた。
 そんなことを考えながら、言っておいてよかったとアルは思った。それでシアオが攻撃されることはないだろう。
 するとシアオが不満げな顔で言った。

「せめて3倍返しはよそうよ」

「それはフォルテに言え」

 これを見るとシアオの安全は確保できそうにないな、などとアルは頭の片隅で考えながら、再び本に集中するのだった。
 シアオはバレンタインというイベントに不安を抱きながら、「あー」などと呻くのだった。







バレンタイン前日じゃないけど投下。前日も当日もテスト期間に入るため来れないので。
バレンタイン話は15日くらいにあげれたらなぁ、と。下手したら2月の終わりになるかもしれないです。




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