* ね ん ま つ ! 2
(旅の最中に年明けというわけで宿を借りてます)
「おい、リフィネにシィーナ。やるなら真面目にやれ。やらないなら土にでも還っとけ。カイア、届かないなら翡翠と代わってもらえ」
「もうやだ、この潔癖症……」
リフィネがそういうのも無理ないことだった。
蒼輝はてきぱきと借りている宿の掃除と掃除の指示をする。翡翠とカイアはせっせと働き、不真面目なのはリフィネとシィーナの♀2匹だ。
因みに宿の掃除をしてもいいのかということだが、寧ろやってほしいと宿のポケモン達に言われたので『ベテルギウス』はこうやって掃除をしている。
「そうきー……ボクはお菓子補給しないともううごけそうにないよー……」
「さっき補給してただろうが! 働け!!」
グダーッとなっているシィーナに蒼輝が怒鳴る。シィーナは「えー……」と声をあげ、しかし起き上がる気配はない。
翡翠は苦笑して掃除を渋っているリフィネとシィーナに話しかけた。
「リフィネさんもシィーナさんも、年末ですからやりましょうよ。掃除をしてすっきりした気持ちで年をあけると気持ちいですよ?」
「すっきりするの蒼輝だけな気がするんだけど」
「どうかーん」
2匹の返答に、翡翠が困ったような表情をする。どうやら2匹はどうあってもやる気がないらしい。
別に2匹は掃除が嫌いなわけではないし、寧ろ年末の掃除は小さい頃からきちんとやっていた。それはやはり年末の大掃除は行事化しているからだろう。
しかし、そこに潔癖症の蒼輝が加わるのなら別。徹底的。とにかく大掃除というのだから徹底的なのだ。埃1つ許さない、窓の汚れも全てとる。少しでも汚れが残っていれば、蒼輝にやり直しを命じられるのだ。
だからこそ、2匹はやりたがらないのである。
「にしてもカイアもよくやるねぇ。蒼輝からダメって言われたときにやる気なくさないのー?」
「安心しろ、シィーナ。カイアは出来がいいからやったところ全てパーフェクトだ」
「…………カイアが蒼輝二号になる将来はそう遠くないかもしれないねー」
それはそれで嫌だな、とシィーナは頭の片隅で考えながらカイアを見る。表情を変えず、ただ黙々といわれた場所をしている。
そしてリフィネは翡翠を見て、そして翡翠に話しかけた。
「翡翠だってうんざりしない?」
「僕は蒼輝さんにやれと言われたらやりますので」
ニッコリ、そんな効果音がつきそうな笑顔で言われて、リフィネは「そ、そう……」と返すことしかできなかった。
そして心の中ではこう思った。翡翠の蒼輝への忠誠が重い、と。
すると蒼輝がやる気のない2匹にむかって「よく聞け!」と声をあげた。
「いいか、年末の掃除ってのは全ての汚れを取り除くんだよ! お前らこの素晴らしき言葉を知っているか、「足元のゴミひとつ拾えぬほどの人間に、何ができましょうか」お前らはここの掃除ひとつできない奴なのか! そうであればお前らは何もできないという――」
「掃除にことになったときの蒼輝ほどウザいものはない」
「右に激しく同意ー。よく掃除ごときでここまで饒舌になるよねー」
「何が掃除ごときだ!!」
何故か蒼輝とシィーナがギャーギャー騒ぎ出す。それに気付いた翡翠が何とか沈めようと、2匹に近づいていく。
リフィネははぁ、とため息をついてから黙々と掃除をしているカイアを見た。すると珍しくカイアが喋った。否、喋ったというより、呟いた。
「……くだらない」
「はぁ? 何が? 掃除のこと? 君、蒼輝に殺されてもしんないよ」
「これしきのことができないやつらが、くだらなくてしかたない」
カイアがそう呟いた瞬間、ブチッとリフィネの中の何かが切れた。
「あー……あぁ、そう。ならやってやるよ!! 君より綺麗に掃除してやるよ!!!!」
そう吠えた後、リフィネは掃除道具をもって駆けていった。
騒いでいた蒼輝とシィーナ、そして宥めようとしていた翡翠がそれを見て、そして呟く。
「あれー? 何かリフィネに火ぃついちゃったみたいだねぇ」
「問題は役に立つか立たないかだけどな。お、カイア。そこ終わったか?」
(カイアさん、絶対にあれは蒼輝さんの為でしょうね……)
シィーナは「リフィネがやるなら仕方ないかー。ボクもやろーっとー」と言いながら掃除を始め、蒼輝はカイアを褒めてから次の指示を与える。
翡翠は色々とカオスなメンバーを見てから苦笑し、自分の持ち場に戻るのだった。
きっと蒼輝は年末掃除ですごいウザイと思う。
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