0902~1104

「私ね。皆が大好きなの。だから、私は皆に幸せになって欲しい」

 私の願いは、それだけだよ。

 そう言って笑った彼女を「大馬鹿者だ」と誰もが笑うかもしれない。「哀れだ」と蔑んだ目で見るかもしれない。
 けれど、そう思って行動することがどれだけ難しいのか、やらずに彼女を笑った、蔑んだ奴らに分かるはずがない。
 いや、きっと誰にもわからない。

 きっとこの世界に、彼女以上の優しさをもった奴は、いないだろう。





「……ドさん、シルドさん!!」

 名前を呼ばれ、ぱっと目を開ける。俺の視界に入ったのレヴィの顔だった。
 頭を押さえながら起き上がる。まさか近づいてきたことに気付かないとは……。……懐かしい夢を見てしまったからか。それとも、この世界が平和になったからか。
 一度は消えかけた俺たちだが、ディアルガが言うに「ディアルガより上の存在」の者に俺たちは助けられたらしい。……ディアルガはその者について知っているようだったが、詳しくは教えなかった。
 それからはのんびりと過ごしている。……ゼクトと少し言い合いをしながらだが。

「昼寝ですか? 珍しい。やっぱりこの世界は平和になったんですね〜」

「……スウィートとミングがよくやってただろう」

「あの子たちは別です」

 平和になろうがならなかろうが、スウィートとミングが昼寝をよくしていたのは知っている。
 その度に叱ったのも懐かしい。「お前らはもう少し警戒心を持て」というと、ミングは「ワシは強いからの。大丈夫じゃ」と言って笑っていた。スウィートに至っては「誰も襲わないよ」と自信満々に言っていた。何を根拠に言っているのか。

 今日は晴天で、風が丁度いい感じで吹いている。
 それがどれだけ有難いことか、俺たちは知っている。この世界にいる者たち全てが、誰よりも知っている。

「それにしても……やっぱりスーちゃんとあの兄弟姉妹がいないと結構 暇なんですね」

「……いや、煩いだけだろ」

「えー、煩くても楽しかったじゃないですか」

「今だとそう言えるが、前はいえないからな。はっきり言って迷惑以外の何者でもなかったぞ」

「相変わらずあの子たちに対して辛辣ですね、シルドさん」

 クスクスとおかしそうにレヴィ。何がおかしいのか全く分からないが、何だか馬鹿にされているように気がする。
 確かにアイツらがいないので静かだ。それはあっち……シアオ達がいた世界にいった始めぐらいでも思ったことなのだが。どれだけアイツらが煩かったか分からされたときであった。
 今もスウィートは、シアオやフォルテやアル……あとギルドの奴らと賑やかに過ごしているのだろう。

「あ、シルドさん。あっちの世界ではスーちゃんどんな生活してたんですか?」

「何回目だその台詞。俺に聞くな。知るか。ゼクトなら知ってるはずだからゼクトに聞いて来い」

「えー。この前ゼクトに聞きましたけど、シルドさんと全く同じこと言われたんですけど。似たもの同士なんですか?」

「誰が似たもの同士だ」

「全くだ。コイツと同じくされたくないな」

 声のした方を見ると、そこにはゼクトの姿が。いつの間に来たんだコイツ。
 レヴィが呑気にわざとらしく「うわぁ」という声をあげたのを無視して、ゼクトを見る。すると鼻で笑われた。おい、斬るぞ。

「私がここに来るまで気付かないとは。平和ボケしたな、シルド」

「平和ボケしたっていいだろ……。どうせスウィートもいたら平和ボケ中だ。多分俺より平和ボケしてるに決まってる」

「シルドさん。スーちゃんがいたら絶対に拗ねてますよ」

「拗ねるのか……」

「おい、ホントに何しに来たんだ」

 そう言わざるをえなかった。俺の昼寝を邪魔してまで何がしたいんだコイツらは。
 するとゼクトが思い出したように「あぁ」と言った。おい、目的を忘れてんじゃねぇか。お前も十分平和ボケしてるだろ。絶対にしてるだろ。

「ディアルガ様がお前たちを呼んでいてな。呼びに来たのだ」

「珍しいこともあるんですねー。“時限の塔”に気軽に遊びに行ったら怒るくせに」

「あそこは遊ぶ場所ではない」

「一体何のようなんだ……」

 何だか面倒くさそうだ。行きたくないが行かなければゼクトが煩い。
 一度軽く伸びをしてから立ち上がる。あぁ、“時限の塔”まで行くのも結構な手間がかかるというのに。

「とっとと行くぞ。早く終わらせて昼寝の続きをしてバカ達の気持ちを考える」

「……おそらく戻ってきたら昼ではなく夕方だが」

「まあまあ。それにさっきの台詞を聞いたらスーちゃん絶対に怒って説教モードですよ」

「安心しろ。アイツは少し弄ればすぐに拗ねる」

「うわあ。スーちゃん向こうの世界で苛められてなければいいけれど」

 レヴィが心配そうな声音で言うが、顔は笑顔だ。おそらく冗談なんだろう。
 まあスウィートが苛められて……弄られているのは考えられるが、おそらく普通に幸せそうにヘラヘラと笑って過ごしていることだろう。それがアイツだ。

 俺が先に歩けばゼクトとレヴィがついてくる。
 今日も空は、青い。そして、今日も世界は沢山の色で彩っている。

 スウィート、お前が望んだ幸せは、ここに、ちゃんと、ある。









「スウィート? どうかした?」

「……さっき、何か声がした気が…………したんだけ、ど……気のせい、かな」

「ちょっと大丈夫? 何かあった?」

「シアオとフォルテに睡眠の邪魔をされて寝不足気味なんじゃないか?」

「「それどういう意味」」

(……私も、幸せです)




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