* 0821~0902
「………………暑い」
「知らん」
ばっさりと切り捨てたシルドに、スウィートはむすっとした表情になる。
この暗黒の世界では季節などないのに、シルドとスウィートが進んでいる場所は他の場所より温度が高かった。
おそらく炎タイプがここに集まっているのだろう。太陽というものも出ないこの世界ではそう考える他ない。それ以外の考えなどありえないのだから。
流れる汗を拭い、スウィートは黒いコートを脱いで自分の腰に巻きつける。幾分マシになると思ったが、あまりかわらなかった。
スウィートは項垂れて、今度は袖をまくる。そしてシルドを見た。
「……シルドは暑くないの?」
「暑くない。ていうかお前はそれのせいだろ」
シルドがそれ、とさしたのはスウィートの腰までのびている髪だった。
それを一瞥してから、彼女は自身の髪をくぐりはじめる。涼しくなるようにとポニーテールにすると、首あたりが随分と涼しくなった。
わぁ、と感嘆の声をあげている彼女に、シルドは小さく溜息をつく。
「凄い、髪くぐっただけでこれだけ変わるんだ」
「お前の髪は見てて暑い」
シルドがそう言うと、スウィートはまたむすっとした表情になる。
それをスルーし、シルドは彼女の髪を見た。
「何でそこまで伸ばす必要がある? 鬱陶しいだろ」
「う、鬱陶しいって……」
何故か軽くショックをうけているスウィートにシルドは首を傾げる。意味がわからない、と。
それからスウィートは自身の髪を見ながらうーん、と言って質問に答えた。
「そりゃあシルドはポケモンだし、更に男の子だから分かんないだろうけど……」
「人間の女限定なのか?」
「男の子で髪を伸ばす子はほとんどいないよ。女の子はオシャレのために伸ばしている子がいるから。それに女は髪が命っていうし」
そう言うとシルドはますます分からないといった表情になる。スウィートはそんな彼を見て困ったように笑った。
「私はお母さんが「綺麗」って言ってるから伸ばしてるだけで……。あとここまで伸ばすともう伸びないからね。勿体無くて」
スウィートはそう言って苦笑いした。
確かにスウィートの髪は長い。これを切って、また同じ長さにするには結構な時間がかかるだろう。
しかしシルドには分からないらしい。
「……いや、切ったほうがいいだろ。すっきりするから」
「だーかーら、男の子には分からないの。女の子は大変なんだから!」
少し胸をはったスウィートを冷たい目で見てからシルドは止まっていた足を再び動かした。慌ててスウィートもついていく。
そして少しの沈黙の後、スウィートが不意に「あ」と声をあげた。シルドはまた変なことを言い出すのか、と思いながらも「何だ」と横目でスウィートを見た。
そんなシルドを気にせず、スウィートは笑って
「ポニーテールにしたらシルドとお揃いだね」
なんて言うものだから
「お前は前世でも馬鹿だっただろうな」
「え……ば、馬鹿……!?」
冷たくそう言ってやった。
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