short | ナノ




つめたいおもちゃ箱(臨也)




ああ、勿体ない。と、思う。

「…なに見てんの、」
「いえ、別に、何も、」

避妊具の口を器用にまとめ、ぽい、とそれを投げ捨てる彼を見ていた。
それがゴミ箱に投げ捨てられた瞬間、やはり、ああ、勿体ないな、と思った。

「俺、少し寝るから、勝手にシャワー浴びてきていいよ、」

言いながら彼はベッドに沈み込む。

はい、と返事をしながらベッドの下に落ちた下着を拾い上げる。

「2時間したら起こして、」
「わかりました、」

部屋から出る間際、もう一度ゴミ箱の中を確認する。ぐしゃぐしゃになったコンドームが、死んだように落ちているのが見えた。再度もったいない、と思ってから、彼の精子を余すことなく受け止めることができるそれをうらやましく思う。それから、バスルームへと歩をすすめた。


折原臨也との情事が好きだ。
普段は飄々とした彼の必死な表情を垣間見ることのできる最中はもちろんだが、わたしはどちらかというとその行為の後の、こんな瞬間を愛していた。
一緒に風呂に入ったことも、ベッドでべたべたと会話を楽しんだ事はない。むしろ寂しさばかりの広がるこの瞬間を、わたしはたまらなく愛している。

蛇口をひねり、ぬるま湯を体に当てながらその火照りを冷ます瞬間は、堪らなくわたしを孤独にする。だが、この瞬間を与えてくれるのは臨也だけだ、とも同時に思うのだ。わたしを満たしてくれる人は沢山いても、ここまでの孤独を味合わせてくれるのは彼一人だ、と再認識する。

臨也の部屋はおもちゃ箱みたいだ、と思う。大事そうに見える書類やよくわからない難しい本、そんなものが乱雑に散らかっている。一見大切そうなものが、彼にとっては紙屑と一緒だったり、がらくたのようなものが彼にとってとても大事なものであったりする、そんな、おもちゃ箱。
いい歳をしながら彼は、そんな部屋でしか生きることができない。

そんなおもちゃ箱の中で、わたしはどういう存在なのだろう、と時々思う。正直臨也にもわかっていないだろう答えを、わたしはぼうっと、シャワーの水に当てられながら考える。長く、とても長く、考えている。

不意に、ガタリと、扉の外で音がした。

「名前?死んでるの?」

なかなか出てこないわたしに痺れを切らしたらしい臨也の声が、扉の外から聞こえた。寝ると言っていた癖に、と、小さくくすりと笑う。

「今出ますよ、」

そうしてわたしは、バスルームから足を踏み出す、寂しさばかりが転がっている部屋へと。こどもみたいな大人の元へと。

[ 24/57 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -