「(眠れない・・・・・・)」


布団にくるまって横になって2時間ほどたったが、いまだに意識を手放せない。何度も寝返りを打って寝やすい体制を探すが、なかなか見つからない。ひどく疲れていて眠いのに寝れないなんて、なんてひどい拷問だ。

疲れすぎて逆に眠れなくなった独歩は、ベッドの中一人深いため息を落とした。

すると玄関のほうから鍵が開く音と扉が開いた音がした。同居人の一二三が帰ってきたのだ。ベッドの片隅にある時計をのぞくと、いつもより帰りが少し早いことに気づくとともに、こんな時間になっても眠れないのか、と落胆した。

そこでいつもとは違う違和感を感じた。

いつもなら帰ってくるなりすぐにリビングに向かうのに、その足音はしない。いまだ玄関のほうにいるみたいだ。それに加え、誰かと話しているのか一二三の声がするし、ドタバタと騒がしい。
どうせ眠れないし、と独歩はベッドから抜け出して玄関へと向かった。


「ひふみ、お帰り・・・・・・え?」
「あ、独歩くん!」


玄関へ行くと、独歩は目を丸くした。

一二三は玄関のところでしゃがみ込んで、様子を見に来た独歩を見上げた。それだけならいい。が、問題がひとつ。一二三以外にもう一人いた。
一二三は肩に腕をまわしてそいつの体を支えていた。体が小さくて華奢で、全身ずぶ濡れだった。顔はほんのりと赤く染まっていて、ぼんやりとしている様子だった。


「・・・・・・え? は?」
「独歩くん、お風呂の湯舟はまだ張ってあるよね?」
「あ、ああ」
「すまないが、すぐに沸かしてくれ」
「わ、わかった!」


状況を理解できないまま、一二三に指示されたように独歩は急いで湯を沸かしに洗面所へと向かった。仕事で帰ってくるのが遅かったし、入ったばかりだ。すぐに沸くだろう。

一方、一二三は玄関でしゃがみ込んだ神影の体を支えて家の中へと入ろうとしていた。


「ほら、立てるかい? すぐに着替えて体を温めないと」
「いいってば・・・・・・」
「ふらついておきながら何を言ってるだい。ほら、こっちが洗面所だから」


言葉では拒否するものの、頭がぼんやりとしてうまく体が言うことを聞かない。力ないまま、神影は一二三に支えられながら立ち上がる。


「ひふみ、風呂沸いたぞ」
「ありがとう、独歩くん」


一二三はすぐさま神影をつれて洗面所へと向かった。


「それじゃあ、ちゃんと湯舟に浸かって温まるんだよ。タオルはそこにあるのを使っていいから。良いね?」


洗面所に神影を押し込んで、ピシャリと扉を閉める。
洗面所に押し込められた神影はしばらく閉められた扉を見つめた後、濡れた服に手をかけた。



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