「(今日もダメだったな・・・・・・)」
真夜中の雨が降りしきる中、傘もささずに一人、トボトボと新宿の街を歩いていた。夜というのに町並みはギラギラとネオンの光を放っているて、雨の日でも関係なく、ここは人が多い。雑踏の中をよけながら進んだ。
最近、宿が取れない日が多いな。
無遠慮に打ち付けてくる雨を見上げながら、そんなことを思っていた。今は手持ちが少ない。安いホテルに泊まることもできそうになかった。
くしゅん、とくしゃみをした。その瞬間、一気に体が冷え込んだ気がして、両腕で自分を抱きしめる。雑踏の中、彼女を気に留める人間はいなかった。
「ねえ、君!」
「っ!」
突然うしろに腕をひかれた。
驚いて立ち止まって腕をひかれたほうに顔を向ければ、以前声をかけてきた彼がいた。
「やっぱり君だ・・・・・・またこんな時間に一人ずぶ濡れで」
その人も目を丸くして、心配そうなまなざしを向けていた。
指していた傘を傾けて、濡れないように気遣ってくれる。
「家にはまだ帰ってないのかい? 本当に風邪をひいてしまうよ」
「関係、ない」
目線を合わせるように少しかがんで表情をうかがってくる彼に対し、神影はそっぽを向いて掴まれた腕を振り払った。そのまま歩き去ってしまおうと足を踏み出すが、ガクンと体を崩した。
倒れそうになる神影に驚いて、その人は咄嗟にお腹に片腕をまわして体を支えた。
「ちょっ・・・・・・君、フラフラじゃないか!」
倒れるとは思っていなかったのか、その人は焦ったような声を上げる。「熱い・・・・・・体も冷え切って・・・・・・」体を支えて密着したことで、神影の体温が服越しに感じる。
その人が呟いた言葉を聞いて、そういえば頭がぼんやりとするし寒気もひどいなあ、と他人事のように思う。最近雨の日も多くて宿も取れなかったから、風邪をひいてしまったのだろう。
おぼつかない足に力を入れて、支えられた腕から脱出しようとする。
「ほっといて・・・・・・」
「ほっとけるわけないだろう、熱もあるのに。君、歩けそうかい?」
身体を支えなおして、その人は腕から出ようとする神影を阻止する。
とりあえず室内に行かなければと肩に腕をまわして支えながら歩きだそうとするが、身長差的にもおぼつかない足取り的にも、歩くのは無理そうだった。「仕方ないな」と神影の様子をうかがって呟くと、その人はポケットから携帯を出してどこかに連絡を入れた。まもなくすると目の前にタクシーが来て、神影は促されるまま車に乗り込んだ。