その日は酷く、ずぶ濡れの雨の日だった。



大粒の滴が地べたや建物に吹き付けて濡らし、足元には大きな水溜りを作った。夜も深まり、そろそろ朝がやってくる時刻だと言うのに、空はどんよりとした雨雲が覆っている。朝焼けが見える様子は無かった。


「(・・・・・・今日は、運がなかったな)」


大雨が降りしきる中、ひとりで歩いた。

傘を持たない身体は雨によって濡らされ、浅い水場を作る地面のせいで靴の中までびしょびしょだ。少しでも雨をしのごうと、自分の身体よりも大きめのパーカーを羽織ってフードを深くかぶる。

止みそうにない雨に溜息を落として、立ち止まって空を見上げた。雨は、フードから覗く顔を無遠慮に濡らしていく。
さて、これからどうしたものか、と考えていた矢先に空を見上げていた視界を黒いものが覆った。


「こんな夜更けに、一人でどうしたんだい?」


間近で、声がした。声のした方に振り向けば、にこやかな笑みを浮かべる男が立っていた。その男はとても綺麗な顔立ちをしていて、金色の瞳や髪がこんな薄暗い雨の夜更けでも煌びやかさを放っていた。灰色のスーツを着込んだその男の腕を目で追えば、先ほど視界に被ったのはこの男の傘らしい。視線を戻せば、またにこやかな笑みを返される。


「ずぶ濡れじゃないか、こんなところにいては風邪をひいてしまうよ」


「家出でもしているのかい? 親御さんが心配しているよ」その男は眉尻を下げて、心配げに言葉を続けた。そんな彼を一蹴し、そっぽを向く。


「関係ない」
「え? ちょっ、君!」


そのまま傾けていてくれた傘から出ていく。背後では引き留めようとする声がしたが、知らぬふりをして、また雨に濡れながら暗い夜の道を歩き出した。



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