綿密に組み込まれた計画と言う名のレールの上を辿っていく。たとえ不足な事態が起きたとしても、その都度修正して元のレールの上に戻って来るようにする。そうして敷かれたレールの上を、順調に、確実に、堅実に、一寸も乱れる事無く、進んで行く。
「任命おめでとう、東京卍會新三番隊隊長さん」
「おめでとー」
「ふん」
小鳥遊はガキを相手にするかのような拍手を送りながら心の籠っていない声音でそんなことを言う。それに続いて半間も微塵の心も無い声で口元に笑みを浮かべながら俺に言った。そんなそいつらを俺は鼻で笑い、吐き捨てるように眼鏡のブリッジを押し上げた。
昨日の夜にあった東卍の集会で、俺は東卍の幹部になることが出来た。反発は大きかったものの総長であるマイキーの決定に異を唱える人間はそうそういない。一瞬で騒がしい馬鹿どもの声を黙らせ、俺は東卍で確実な地位を手に入れることが出来たのだ。まあ、あいつに突然殴られるのは予想外だったが。
「つか、幹部任命ってンな簡単なんだな」
「まあ稀咲、裏で確約取ってたしね」
案外すんなり計画通りに東卍の幹部になり上がったせいか、半間はぽつりと呟いた。半間は今までチームに加わってこなかったからそう言った集団チームの事情は分からない。そこで小鳥遊が半間に答えを告げた。
小鳥遊の言う通り、長内をけしかけた時点で俺はマイキーに接触していた。そうして林田春樹の釈放を条件に東卍への加入を取り付けた。結果を言えば、マイキーは身内の説得によって釈放を受け入れることは無かったが、昨日の集会で愛美愛主の一部世代は俺と一緒に東卍の傘下になった。これから半間が仮で率いる芭流覇羅とぶつかるために、東卍は戦力が必要だったのだ。そこで俺は別の形でマイキーに取り入り、東卍への幹部として加入することを果たした。当初の計画と違えど、同じレールの上を歩いている。
「ドラケンは邪魔が入って殺せなかったが、まだ範囲内だ。軌道修正はできる」
「お、じゃあ次の作戦か? せっかく芭流覇羅っつーのも作ったしなあ」
俺の呟きに半間はにやりと笑った。半間にとってはようやく面白い舞台が用意されたのだ。実際どうだかは知らないが、楽しんでいるのに変わりはないだろう。
ただ一つ、気になる点があった。
「どうかした、稀咲?」
俺が黙り込んでいたせいか、それとも何か異変を察知したのか、小鳥遊は目敏く俺の変化に気づく。こいつは昔からよく俺の変化に気づきやすい。わかりやすく顔色を変えたわけでも無い、なにかをしたわけでもないのに、こいつは確実に気づいてくる。それは鬱陶しいものだったが、それ以上何かをしてくるわけでも無く、付き合いが長くなればそれも慣れて行った。
座っている俺を見下ろす小鳥遊を一瞥し、俺は続けた。
「壱番隊隊長の場地圭介が、東卍を抜けて芭流覇羅に行くと言った」
俺の言葉を聞くと、小鳥遊は不思議そうに首を傾げた。
「あの問題児が?」
「なんなん、仲間割れ?」
疑問を浮かべる小鳥遊と半間。小鳥遊は情報集めをしているから場地圭介がどういう人間か知っている。だからそんなことを言ったのだろう。一方で半間はなにひとつ知らないが、チームを突然抜けたという事実から仲間割れと認識したのだろう。実際、昨日の場面を見ていれば仲間割れと片付けられる。だが、実際は違う。
「俺のことをこそこそ嗅ぎまわっていやがる」
その言葉に、二人の纏う空気は若干変わった。
どこで勘づいたのか知らないが、場地は俺を疑っている。これは少し予想外だった。
「へえ……ヤっちまう?」
にやりと笑った半間が言う。それに俺は一瞬視線を半間に向けた。
半間の言う通り、邪魔な存在は排除した方が良い。余計な手間を取らせないためにも、処分するのが得策だろう。だが、場地はマイキーの幼馴染。マイキーにとってドラケンと同じくらい大きな存在だ。下手に処分すればそれこそ計画が狂う。
「いや……せいぜい利用してやる。馬鹿でもそれくらいの役には立つだろ」
なら、それすら利用するだけだ。より計画を確実なものにするための要素として取り入れてやる。そのための次の駒も用意した。そいつと場地は次の計画に役立ってもらう。
「次で、確実にマイキーを傀儡にしてやる」
そうすれば、俺の勝ちだ。
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