カウンター≒クロックワイズ | ナノ


2005.07.19 20:07:39  




 白昼夢とは、一般的に、日中に目を覚ましたままで空想や想像を夢のように映像として見ていることを言う。また白日夢とも言い、現実から離れて何かをぼんやり考えている状態を指す。


「事は順調?」
「……ああ」


 突然視界いっぱいに小鳥遊の顔が映り込む。それに驚いて思わず身を引くと、目の前の小鳥遊は揶揄うみたいにふふっと笑みを零した。俺の反応が思った以上に大きくて面白かったんだろう。自分でもあからさま過ぎる反応をした自覚はある。しかし、そのおかげで散漫していた意識は鮮明になった。

 日が暮れ空が真っ暗になった頃、俺たちは雑踏の音に塗れた道を歩いていた。少し先を半間が歩き、俺のすぐ後ろを小鳥遊が歩く。傍から見たら不良少年と不良少女が家に帰らず遊び歩いているように見えるんだろう。くだらない。


「結構酷い有様だったらしいじゃない。酷いね」
「内容までは指示してねぇ、好きにしろと言っただけだ」


 小鳥遊が言っているのは、先日長内に指示して起こした火種のことだ。東卍と揉め事を起こすために、わざと愛美愛主に東卍のメンバーと関りがある人間を襲わせた。義理堅い東卍はこれを許さないだろう。思い描いた通りに、東卍は愛美愛主との抗争に向けて動き出すはずだ。

 小鳥遊に言った通り、俺は細かく長内に指示は出していない。小鳥遊からの情報をもとに襲う人間を指定しただけで、その後の内容までは指示していない。だが調子に乗った馬鹿どもはそのままやらかしたらしい。被害が大きければそれだけ問題のないことだから、咎めることはしない。だが、ここまでだ。


「これで長内は用済みだ」


 この先の計画で長内は使えない。踏み台として後は捨てるだけだ。


「もう捨てるの? 結構早かったわね」


 小鳥遊は目を丸くして残念そうな声色で呟く。だがその表情を見ればすぐに表面上だけだと分かり、声音も平坦なままだ。


「長く使えるような駒じゃねぇ。愛美愛主はただの余興だ」


 愛美愛主は使えねぇ。ただ土台を作るために寄せ集めただけのチームだ。それ以上でも以下でもない。用が済んだらそこまでに過ぎない存在だ。そして次の作戦に移行するためにも、愛美愛主には踏み台になってもらう。それがこの駒の役目だ。


「下準備は済ませた。これで、東卍は内部分裂だ」


 愛美愛主に襲わせた人間と親しい間柄の東卍幹部に近づき、その怒りと殺意を増幅させた。その憎悪は総長である長内に向き、後は勝手にやって転がってくれるだろう。そこまで来ればようやく、余興は終わる。


「そこで半間、お前の出番だ」


 気怠い足取りで前を歩く半間に投げかける。半間はくるりと緩慢な動きで頭だけを背後にいる俺に向ける。


「愛美愛主のメンバーを連れて抗争を起こす、お前が頭だ。その騒動の最中にドラケンを殺す」


 使えるモンんは全部使う。ドラケンと因縁があるキヨマサも、愛美愛主の抗争の最中で生まれた亀裂も、全部利用する。そうすれば、マイキーに一番近しいドラケンは排除でき、俺は晴れて東卍に加入する。全部計画通りに事は進む。

 へえ、と俺の話に適当に頷く半間に、俺は釘を刺す。


「忘れんなよ、半間。お前も道具だ、使いモンになんなかったら交換するだけだ」
「ばはっ、好きだぜ、その生き方」


 半間は楽しそうににやりと口端を上げて笑う。そして気怠い足取りはどこか上機嫌に変わった。相変わらず何を考えているのか分からない奴だ。だが、使えるのに変わりはない。


「お前もだ、小鳥遊」


 同じように今度は背後にいる小鳥遊に目を向けた。その視線を受けると、小鳥遊は「もちろん」とまた声色を明るくして頷く。添えられる微笑みは感情を読み取らせず、その真意を窺うのは難しい。だが、こいつも、同じだ。

 使えるモンは誰であろうと使っていく。ただそれだけだ。




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