カウンター≒クロックワイズ | ナノ


2005.07.07 18:11:42  




 作戦を実行するために半間を人気のない場所へ呼び出し、ひとつひとつ計画の流れを話していた時、軽い足音がコツン、と聞こえてきた。それに視線を向けると、視界の隅で揺れる制服のスカートが見えた。


「へえ、上手く懐柔できたんだ。さすが稀咲」
「あン?」


 そう言って笑みを浮かべる小鳥遊は、揺れる髪を耳に掛けながら俺たちに視線を向けた。

 半間は突然現れた小鳥遊をじっと見つめながら、短く声を零す。小鳥遊の言葉が癇に障ったのかもしれないが、声に抑揚は無くその感情は読み取りずらい。こいつら二人は感情を他人に読み取らせない質だ。ある意味で似た者同士とも言えるだろう。


「誰?」


 半間はその抑揚のない声音のまま小鳥遊に投げかける。抑揚は無いが、感情が読めないせいで体格差も有り威圧感は凄まじい。それでも小鳥遊は怖気づくことも無く普段の調子で続けた。


「はじめまして、半間修二。私は小鳥遊知沙、稀咲の第一協力者ってところかしら」
「勝手に肩書付けてんじゃねぇよ」


 顎に指添えてそんなことを口にする小鳥遊に、俺はすかさずそれを否定した。それに小鳥遊は面白そうふふっと笑みを零す。そんな俺たちの会話を半間は観察するようにじっと見つめる。その視線に気づきながら、小鳥遊は改めて口を開く。


「まあ、稀咲の駒の一人であることは変わらないんだから。駒同士よろしく、半間修二」


 小鳥遊は最後にそう言って、にこりと半間に笑みを浮かべた。それを黙って煙草を吸いながら半間は見つめる。そうして煙を吐き出すと、ふうん、とたいして興味も無さそうな相槌をする。


「稀咲って女も使うんだな」
「使える奴なら誰でも使う」
「へえ」


 本心では思っていなさそうなことを呟く半間に、使えるモンに性別もなにも関係ねぇ、とはっきりと言いきる。すると半間はにやりと口角を上げた。そうして多少は小鳥遊に関心が行ったのか、二人は勝手に会話をしだす。

 半間修二と小鳥遊知沙。この二人は駒としては優秀で使える人間だ。使えなくなれば用済みとして捨てるが、今のところ一番使える手駒と言えるだろう。仲良しこよしをするつもりはないが、ある程度こいつらも意思疎通が出来るようになってもらわないと困る。


「ンで、お前はなんで稀咲に協力してンの?」
「半間はどうして受け入れたの?」
「面白れぇから?」
「っは、分かりやすい答え」
「で、そっちは?」
「稀咲が辿り着く先が見たいから」
「ばはっ」


 盛り上がってる、とは言わないが、まあ見た限り関係は険悪ではない。ある意味似ている二人が同族嫌悪をする場合も密かに考えたが、お互いそこまで他人に興味を示さない淡泊な人間だ。嫌悪するもなにも、そこまでの感情は持ち合わせないのだろう。


「……で、本題は」


 よく分からない会話をする二人に、そろそろ本題に移るために手短に声を掛ける。そうすれば二人はぴたりと会話を止め、こちらに視線を向けてくる。そして小鳥遊は俺からの視線を受けると、頷く代わりに身じろいでから話し始めた。


「やっぱり集団って膿が生まれるのね。加えて人と人同士が関われば因縁も生まれる。いくらでも利用できる」


 小鳥遊は一言目にそう言って続けた。詳細な中身が見えてこない話し方だが、大方のことは伝わる。そのまま小鳥遊は続けた。


「手始めに使えそうなのは末端の清水将貴、通称キヨマサ=B副総長の龍宮寺堅、通称ドラケン≠ノコンプレックスを抱いてる。たった今日に問題を起こして確実な亀裂が入ったよ」


 ふふっと最後に笑みを零す小鳥遊。どうやらこいつの情報だと、さっそく東卍はある問題を抱えているようだ。小鳥遊の情報を鵜みにする気は無いため後から裏は取るが、信憑性が高く俺に嘘をつかないことも理解している。だからこの情報は正しいだろう。


「ドラケンに成り代われば、一番マイキーに近しい存在になれる」


 不良界の中で最強を謳うマイキーの力、その天性のカリスマ性。それに付け入るためには、その傍にいる人間が邪魔だ。それさえ崩してしまえば、後はこっちのものだ。


「下準備だ」


 ここからが本番だ。ここから、俺の計画は動き出す。




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