ビスみたいな夜 | ナノ


どく、どく、と心臓が脈打つ。
耳にまで音が聞こえる。

人の前で話す訳にはいかないからと、適当に話をつけて、人目のない、教室に入る。

放課後だけあって、廊下と校庭からは人の声が聞こえた。
それでも、こちらの声は聞こえないのだろう。

「…話って、なに」

ぐずぐずする俺に、丹澤は机の上に座って、促した。

「……ごめん」
「何が」
「この間の、保健室で」
「あれが、お前の本心なんだろ」


違う、と言おうとして、言えなかった。

全てが、まるで俺が俺じゃなくなるような気がして、一緒にいたくない、一緒にいたい、そんな風に浮かんでは、消える。

「…ほらな」
「……」
「何のために、呼んだんだよ」
「……」

「また、仲良しごっこでもしようってか?」

机から降りた丹澤が、近くの椅子を蹴る。
大きな音がして、机と椅子がちぐはぐになった。


「ッいい加減にしろよ!!」


胸元を掴まれ、呼吸が一瞬止まる。
それに気付いたのか、すぐに離されてかわりに胸を強く押され、後ずさる。

苦しそうな、顔。
お互いさまに、過去最低な、顔。

「…振り回される、こっちの身にもなれよ」
「……」
「お前が、何考えてんのか、全然わかんねぇ」

俺だって、わからない。
どうしたいのか。
お前と、どうなりたいのか。

「……藤井」
「………うん」
「お前、どうしたいんだよ、」
「……あのさ、丹澤」
「なに」


「好きなんだ」


震える。
手も足も、指先も、声も、心臓も。

きっと、数分。
何時間にも、何秒にも感じる時間。



「きもちわるい」



丹澤は俯いて、そう、呟いた。

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