無茶もまた一興




「どこ行ったんだよ、アイツ…」


巡回の途中。
自分の後ろを歩いていた名前がいつの間にか姿を消していた。
舌打ちしながらも今まで歩いていた道を戻る。

それから十分経つが、見つからない。


まさか赤の奴等に捕まったとかないよな…。


一つの不安が生まれ、いやまさかなとすぐにその考えを打ち消す。








「…何やってんだよ」


「あ、先輩」


名前は木に上って、…きっと茂みに引っ掛かっている赤色の風船を取ろうとしているのだろう。
実際、俺の隣には心配そうに名前を見つめている子供がいる。


「すみません、あともう少しで届きそうなんで……」


そう言い、うつ伏せになり手を伸ばす。
何でこんな面倒なことをするのだろうか。
今日だけじゃない。
一昨日も大事なお守りを落としたという老人と一緒になってそれを探し、その前は迷子になった子供の親を探していた。
俺には名前のやっていることが理解できない。
わざわざ面倒を引き受ける彼女の思考が。



「おっ、取れたー!」


考えるのを止め見上げてみれば。名前は風船の紐を握り、笑顔で子供の方を向き取れたよー!と弾みのある声で呼び掛けていた。
子供は安心と喜びの混じった笑顔で応える。
その時だった。


「あらっ?」


名前は張りつめた緊張から解放されたからか、戻ろうとしたときに手を滑らせた。


「っ!」


気がつけば、俺は木の下まで走っていた。
そして、



「いってぇ…」


見事名前を助けることはできた。…下敷きとしてだけど。


「だ、大丈夫…?」


「大丈夫、平気平気!はい、風船」


俺は平気じゃねえよ。
そう言いたかったが、痛みのせいで口に出せない。


「ありがとう!お姉ちゃん」


子供は嬉しそうに風船の紐を握り走っていった。
名前は立ち上がり、笑顔で見送る。
俺も体を起こし、服についた汚れを手で落とす。



「あ、先輩大丈夫ですか?」


「……別に」


「すみません。痛かったですよね?」


「……別に」


「…もしかして、怒ってます?」


「………別に」



実際俺は怒っていた。
何だかよくわからないがムシャクシャして、イライラして。


「お前さ、何でいつも面倒事に自分から突っ込むの?」


「え。うーん……何となく、困っている人は放っておけない、というか…そんな感じです」


「……あっそ」


やっぱり、わからない。


「先輩」


「なに」


「探しに来てくれたんですよね?勝手にいなくなって、すみませんでした」



「…わかってんなら、自分一人でやろうとしないでよね」


“心配するから”。





無茶もまた一興。










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