スケール4 疾走決闘
一番隅っこに佇むDホイールが自分のものだと愛着が湧くくらい、城前は前の持ち主の走行技術をそれはもう気が遠くなるような回数繰り返し学び、感覚を会得する訓練を積んだ。これだけのログを所有している蓮に戦慄するくらいには、この陣営が保有するオーバーテクノロジーな技術力を知った。ついでに何巡したのだと問うと、所詮は最初の模倣だと気づく位だと笑われた。いやというほど思い知らされた。容易に想像がつく。蓮の時代にはこれがDホイーラーの一般的な練習方法だったというのだ、さすがに絶対違うと気づいた城前だったが、こうしてアクションフィールドに立つと、その成果が如実に表れていると感じる。

蓮から借りたDホイールが車一台分のスペースを我が物顔で陣取っており、むき出しの車体を休めている。ヘルメットを最後までかたくなに手放さなかった城前に蓮は残念そうだが、勘弁してくれという話だ。いくら恐怖心を克服し、これから始まるデュエルに高揚しか覚えていないとしても、途方もない速度の中でデュエルをするという事実から膜を張りたい。周りの煩わしさから現実味を遮断し、デュエルに集中させてくれるトリガーですらあるのだ。それに城前にとって、デルタ・イーグルの姉妹機はヘルメットありきという先入観がある。むしろこれがないとしっくりこない。形から入るを物理的にやってしまった城前からすれば、もう当然の流れなのだ。この締め付ける感じがないとライディングデュエルの開始に思考へのシフトを促してくれない。

愛機に乗り込み、城前は準備に入る。キージャックに慣れた城前にはオートでパワーオンするのは初めこそ違和感があったが、今はむしろバイクに違和感を感じてしまうまでになっている。目覚めを知らせる振動、緑色のランプがギアのポジションを知らせる。セルを回して、一発で始動が始まる。デルタ・イーグルの系譜のくせにやけにカスタムの嗜好が城前のバイクに似ているのは、昔のモデルが好きなDホイーラーだったからなのだろう。おかげで慣れるのが早かったのもあるのだ、きっと。

駐車場を助走速度で進み、合流した道はやがてライディングデュエルのフィールドに城前を連れて行く。ヘルメットバイザーを開けっ放しにしているのは、このフィールドがいつだって夏を想定しているからじりじりとした暑さが不快なのだ。冷水を被ったような気持ちよさが体を満たしていく。すでに先人はいた。

指定された位置につくと、しばらくの沈黙のあと、スタートを知らせる音声が鳴り響いた。

城前的には攻め気味に走行するが、機影が前方にちらつく程度の距離をとられてしまう。近づこうとペースを上げてもなかなか捕まえられない。なるほど、後攻前提の構築にしろという発言は、蓮なりの初心者への気遣いだったらしい。今日、初めて見たモデルのDホイールだった。蓮の愛機だろうか。城前は追いつくのに必死だが、蓮はこちらを煽る気配はなく、間隔を開けて走行している気配がある。無駄な紳士ぶりだな、おい、と城前は笑う。いつも後攻はつまらないといいながら、初めから先攻を譲る接待はしてくれない癖に。歩く者であって走る者ではないってか?お上品なこって。その精神は大陸を征した余裕から来るのだろうか。前方がクリアなのに飛ばす気配がない。悠々としていて、気持ちのいい速度の領域で飛ぶように楽しんでいた。たしかにこの余裕ぶりを見せつけられたまま、先攻でソリティアされたら後攻を強いられるDホイーラーはたまったもんじゃないだろう。

そんなことを考えながら、城前は蓮のデュエルを最前席で初めて目撃することになる。蓮のデッキは《ホワイト・モーレイ》と呼ばれる白いウツボのようなモンスターを使用するデッキだった。蓮がいうには召喚に成功すれば直接攻撃できるらしいが、素良のシンクロの指導者でもあるのだ。海竜族のシンクロデッキだろうか。それなら、城前は初めてシンクロモンスターである海竜族を目撃することになる。レベルは2。手札補充のコストとして墓地に次々と送られていく《ホワイト・モーレイ》。やがて布陣が整ったのだろうか、蓮は動いた。墓地から復活するとチューナーになるという効果に、思わず城前は反応する。チューナー再利用は嫌な予感しかしない。シンクロ後の素材が墓地に行くことを考えれば連続シンクロを前提としたなかなか凶悪な効果だ。再利用できればかなり美味しいし、デッキトップを操作するカードがあれば悪用ができそうだ。過労死枠を把握したところで、蓮は最初のアクションカードを入手した。先攻有利は変わらない。

「シンクロ召喚!現れろ、レベル6!《ホワイト・オーラ・ドルフィン》!」

城前の進行を邪魔するように、真っ白なイルカが空中を泳ぐ。攻撃力は2400、先攻で立てるには物足りない攻撃力だ。おそらく目的はモンスター効果。罠が3枚伏せられる。ターンを渡された。

「さあ、君の番だ、城前」

「おう!」

城前は笑う。連続シンクロが見たい。どこまで行けば蓮のエースまでたどり着けるだろうか。今はレベル6。デュエルモンスターズの最高レベルは12。∞なんてとんでもないモンスターでもない限り、2ずつ増えていくと考えれば、4回攻撃を行う。あるいはその根幹を根元からぶったたくようなことをすれば反応してくれるだろうか。序の序、というモンスターなのだ。きっと蘇生、あるいはチューナー化、どっちにしろシンクロの布石になる効果のはず。ならそれを封殺するのは野暮というもの。見せてくれたらその限りではないが!

城前のはやる気持ちを代弁するように、乱暴な追い越しが始まる。

蓮の視線を感じる。ついにじれったくなって追い抜きたくなったと思ったのだろうか。

蓮の走行姿勢が変化した。紳士モードを振り捨てて、その暴力じみた動力性能に任せた爆走が始まる。その姿は今まで城前にライディングデュエルを指導してくれた優しさは微塵もない。素人が追い抜けるとでも?と言いたげな大人げない容赦の無い、実力の片鱗が後ろから感じる。急速なスロットルの解放のせいだろうか、エンジンノイズのプレッシャーがどんどん大きくなる。追いかけるつもりで果敢に走るが、コーナーを過ぎるとすでに先のコーナーにかかっていく。ようやくそこにたどり着くともうコーナーの先に消えていく。なんとか姿だけは捉え、おいて行かれないよう食いつく。ライディングの実力の差はわかっているのだ。城前がすることは、デュエルである。



「さあいくぜ、蓮!おれのターンだ、楽しませてくれよっ!ドローッ!!」

デュエルディスクからカードを手にした城前は視線を走らせる。きた、と口元がつり上がる。


「おれはスケール3《マジカル・アブダクター》をライト・ペンデュラムゾーンにセッティング!そしてスケール8《EMドクロバット・ジョーカー》をレフト・ペンデュラムゾーンにセッティング!この瞬間、《マジカル・アブダクター》のペンデュラム効果を発動!こいつはペンデュラムゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法を発動するたびに魔力カウンターを1おく効果がある!よって魔力カウンターが1のるぜ。そして、手札からフィールド魔法《天空の虹彩》を発動!これで魔力カウンターは2!《天空の虹彩》の効果により、《EMドクロバット・ジョーカー》を破壊し、デッキから《EMオッドアイズ・ユニコーン》をサーチ!そして《EMオッドアイズ・ユニコ−ン》をレフト・ペンデュラムにセッティング!これで魔力カウンターは3つのった!そして、《マジカル・アブダクター》のペンデュラム効果により、魔力カウンター3つを取り除き、おれはデッキから魔法使い族・レベル1モンスターを1体手札に加えるぜ!」

ぐるぐるカードが回り始める。

「そして魔法カード《竜呼相打つ》の効果を発動!これで魔力カウンターはまた1おかれる。さて、ここに2枚のペンデュラムモンスターがあるぜ。どっちがいい?」

「どちらもやっかいなカードだが・・・私は《竜剣士ラスターP》にしよう」

「了解!なら《竜剣士ラスターP》をおれはフィールドに特殊召喚するぜ!そして残りのペンデュラムモンスターをエクストラデッキにおく。さあて、お膳立てはこれで完了だ!」

オッドアイの竜の幻想が見守るフィールドで、城前のデュエルディスクがPENDULAMをきざむ。《マジカル・アブダクター》と《EMオッドアイズ・ユニコーン》が光り輝く支柱となり、門が形成される。

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!ペンデュラム召喚!こい、おれのモンスターたち!」

城前のフィールドには、エクストラデッキと手札から瞬く間に4体のペンデュラムモンスターが並んだ。

「《EMセカンドンキー》は特殊召喚に成功し、ペンデュラムゾーンにカードが2枚存在する場合、デッキから《EM》モンスターを手札に加えることができる!おれがサーチすんのはもちろん《EMペンデュラム・マジシャン》だ」

次なる布石も同時にこなす。

「レベル4《竜剣士ラスターP》にレベル4《EMドクロバット・ジョーカー》をチューニング!シンクロ召喚!こい、レベル8!《爆竜剣士イグニスターP》!!」

城前のフィールドには、機械化された深紅の竜人が併走する。その巨大な刀と一体化した豪腕を奮い、効果を発動する。

「《爆竜剣士イグニスターP》のモンスター効果を発動!1ターンに1度、デッキから《竜剣士》モンスター1体を守備表示にして特殊召喚するぜ!そしてフィールドのレベル4《相生の魔術師》とレベル4《竜剣士マスターP》でオーバーレイ!こい、ランク4!《昇竜剣士マジェスターP》!!」

颯爽と現れたのは、ペガサスを乗りこなす勇猛果敢な青の装飾が施された白い鎧に黒い翼をもつ竜人だ。彼は風を纏う剣を振るい、効果を発動する。

「さらに効果を発動だ!エクシーズ素材である《竜剣士ラスターP》を取り除き、エクストラデッキにある表側表示の《竜剣士》ペンデュラムモンスターを1体特殊召喚する!もちろんリクルートだぜ。そして、フィールドの《EMセカンドンキー》と《竜剣士ラスターP》をリリース!この条件でのみ、融合召喚!いでよ、《剛竜剣士ダイナスターP》!!」

全身を青の装甲で覆い尽くした竜人とおぼしき機械仕掛けのロボットが、ジェットエンジンを吹かせながら走り出す。

「《剛竜剣士ダイナスターP》のモンスター効果を発動!墓地にある《竜剣士マスターP》をフィールドに特殊召喚するぜ!さあ、《爆竜剣士イグニスターP》のモンスター効果を発動だ!ペンデュラムゾーンのモンスターを破壊し、蓮の《ホワイト・オーラ・モーレイ》をバウンス!エクストラデッキに戻ってもらおうか!」

「そうはいかないな!私は罠カード《白の防衛線》を発動!そのモンスターを裏側守備にし、このターン、私のモンスターは効果によるダメージを受けない!」

「まだまだぁ!《爆竜剣士イグニスターP》と《昇竜剣士マジェスターP》をリリース!」

「なっ!?せっかく召喚したエクシーズモンスターとシンクロモンスターをリリースだって?!」

「融合召喚!こい、《旧神ヌトス》!」


槍と剣を持ったローブ姿の美女が現れた。


「さあ、バトルだ、蓮!」

「おや、素良にみせたあのえげつないコンボはしないのかい?」

「とっておきはあとでみせてやるよ」


シロイルカが串刺しにされて消滅する。


「この瞬間、《ホワイト・オーラ・モーレイ》のモンスター効果を発動!墓地の《ホワイト・モーレイ》を除外し、ふたたびフィールドに特殊召喚する!」

「うっげ、これはチューナーか!」

「さあ、どうだろうね」


「じゃあ次なる布石を整えるだけだ!おれはレベル4《旧神ヌトス》と《竜剣士マスターP》でオーバーレイ!エクシーズ召喚、ランク4《深淵に潜む者》!カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

「これはまた・・・・・・これが君の全力か、城前」

「んなわけあるか、まだまだこれからだよ!」

城前の笑顔に蓮は末恐ろしいなと苦笑いした。

「望むところだ」

蓮のターンが回ってくる。さて、どうやってこの布陣を突破しようか、蓮は思考を巡らせる。《剛竜剣士ダイナスターP》の効果でペンデュラムゾーンは守られている上に、《天空の光彩》効果で《EM》はカードの効果を受けなくなっている。《深淵に潜む者》はエクシーズユニットを取り除くことで墓地によるあらゆる効果が発動できなくなる。しかもその取り除く《旧神ヌトス》は相手のフィールドのカードを破壊できるという効果を持っている。フリーチェーンで相手カードを破壊しながら墓地効果封じというえぐい効果を使ってきた。さあ、突破して見せろといわんばかりの展開である。蓮はカードをドローした。





またさっきの紳士的な走行に戻っている。さっきの鬼神じみた走行はなんだったんだと思いたくなるが、この二面性が無性に面白い。ここまでくれば、城前だってわかる。蓮はライディングデュエルをしてくれているのだ。城前のペースに合わせて、わざわざ疾走してくれているのだ。延々走らされたコースはもう慣れきっている。上下左右に振られながら、必死で蓮のDホイールに追走する。もう何もかもが楽しかった。何でもかんでも面白くて笑い転げた子供時代のように、なんでも信頼しきって楽しんでしまうそんな感覚だった。見守られている感覚がたまらなくうれしかった。こっちとの距離を離しすぎないように気を遣いながらも観察している様子が見て取れる。ここまでの実力者にそうするに足ると言われているようで、高揚感は振り切れる寸前だった。

疾走だけが城前と蓮が互いに共有できた一時の淡いつながりだった。初めてのライディングデュエルである。反芻するたびに重みを増していくだろう。そんな予感がする。蓮のDホイールとの疾走の余韻に支配された城前には気分を騒がせるものはなにもなかった。

まだまだデュエルはこれからだ。

ちょっかいを掛けたい。怒らせたい。くだらない好奇心ばかりが城前を満たしていく。


蓮からすれば、爆音のようなノイズをまき散らしてぞんざいに追い抜いていく無粋な初心者だろう。Dホイーラーを侮辱している、ライディングを踏みにじるような、そんな走行だろう。でも、蓮は先ほどの鬼神じみた追走は見せない。城前の布陣がそれを邪魔している。蓮の目の色が変わるのを目撃した城前は、きたあっと無邪気に笑った。


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