GODの悪あがきがはじまった。遊矢が望む世界を与えてやれるとGODはいうのだ。そして失われたはずの遊矢の世界が目の前で構築されていく。
ユーゴのDホイーラーとしてのデビュー戦に城前の前任者がいて、初勝利をかざる。応援にいった遊矢が表彰式がおわったユーゴと合流してみんなで見晴らしのいいところでお昼ご飯を食べていたら。ユーゴ、ユーリ、ユーゴ、そして遊勝が誕生日おめでとうといってくれた。平和な世界のある一日の中に遊矢はいた。
「バカにしないでくれよな。ここまできて、みんながオレに託してくれた全てを捨ててまで、都合がいい世界に生きようなんて思わない!」
遊矢は高らかに叫ぶ。世界が崩壊する寸前に兄たちが、父親が、自分の命とひきかえに自分を生かしてくれた。この世界のことを頼むとカードを託してくれた。この世界で生きるということは遊矢の大好きな人たちの生き様や覚悟そのものを否定することになるのだ。あったことはなかったことにはならない。なかったことにはできない。それゆえに生きなければならないのだ、遊矢は。みんなの分まで。
「それにオレはまだ止まる訳にはいかないんだ。城前も零次もオレはまだ心の底から笑顔にできてないからな!父さんと約束したんだ。オレはエンタメデュエルで笑顔にしたいやつがまだまだたくさんいるんだからさ!」
内側からぱきんとガラスが砕ける音がした。そして瞬く間に世界が崩れていく。気づけば遊矢はGODとのデュエルの空間に戻っていた。
そのとき、ユートたちは力の逆流を感じた。遊矢も何かを感じるのかあたりを見渡す。
「誰だ!」
「水さす真似は許しませんよ」
「全くだぜ」
イブを生贄に顕現したGODと遊矢のデュエルは苛烈を極めている。これ以上邪魔だてされるわけにはいかない。遊矢の邪魔をするやつが現れたのかとユートたちはその気配の先をみるのだ。そして目をみひらく。
「お前は......」
そこにいたのは、褐色の男性だった。黒いくせっ毛で黒い瞳を持つ、イブと同じ研究者の姿をしている男性だ。まさか、と誰もが遊矢とデュエルしている女をみるのだ。
「私はアダム」
「なんです、今更。イブに会いたくなったんですか?さっさと現れればイブもGODに体を乗っ取られずにすんだものを」
「私たちの戦いに何の用だ」
「返事によっちゃ考えなきゃいけねーんだが」
ピリピリしているユートたちにアダムは首を降るのだ。そんなつもりは無いのだと。どういうことだと詰め寄るユーリにアダムはいうのだ。
「君たちに私の因子を預けようと思う。榊遊矢をささえられるのは君たちだけだからな」
「なんだと?」
「どういうことなんですか?」
「意味がわからない」
「詳しくは赤馬零次に聞いてくれ。私は彼に全てを託したのだから」
「赤馬に?」
「そう。私はGODを封印するためにエネルギーを3つにわけた。今、赤馬零次と榊遊矢に存在する訳だが、3つめとなる私の因子は赤馬零次に託した。GODの封印が解かれた今、私の実体を保っているエネルギーすらもったいない。だから私という存在が消えればそれなりの力が3つに還元されることになる。これはそのためだ」
ユートたちは掌を見るのだ。今まで何度も消えかけていた霊体が明らかにこの世界に来た頃くらいまではっきりと見えるようになっている。そしてアダムという男の霊体はすさまじい勢いで消えかかっているのがわかる。
なぜ、どうして。いきなり現れてそんな大事なことを今ここで告げるのか。
ユーゴの問いにアダムは答えない。時間が無いのだと話し始める。
「確かに君たちは死んでいる実体を持たない霊体だ。だが榊遊矢の家族でもある君たちはかけがえのない支えでもある。これから途方もない旅にでる遊矢には1人でも同行者が多い方がいい」
途方もない旅路という言葉に誰もが息を飲み、互いに顔を見合わせるのだ。
「気づいてるんじゃないか?ここでGODを完全に破棄しても終わりじゃないということが」
「それ、は」
「うすうす感じてはいましたが、やはりですか」
「まじかよ、まだ終わらねーってのか」
冷や汗が浮かぶ。無意識のうちに手が汗を握ることに気づく。幽霊は汗をかかないというのにだ。それほどまで実体化できていることにユーリは驚く。
「城前克己くんはゲートの向こう側に行こうとしている。赤馬零次くんはGODを研究し、ゲートの向こう側にいる勢力を倒すためにどうしたらいいか考え始めている。君たちはどうするんだ?ここで歩みを止めて歴史がそれなりの修正を経て未来に向かって歩きだすのを見届けるつもりなのか?」
「それは遊矢が決めることだ」
「ここでGODを倒すことが決着だというのならば、アダムの因子を返して欲しい。これ以上君たちに迷惑はかけられないからな」
「まだGODとのデュエルがまだ終わっていないというのに随分と急ぐんだな」
「時間が無いものでね。どうだろう、榊遊矢。君はこれからどうするんだい?」
遊矢は迷うことなく言い放つのだ。
「そんなこと言われなくてもやることは変わらないね。城前も零次もまだデュエルで笑顔にできてないからな、それが出来るまでは止まるつもりは無いよ。ここで生きるつもりは無い」
「さすがだぜ、遊矢」
「ふふ、無用な心配だったか」
「いうまでもありませんでしたね」
「へへ、そうだよ!」
ウインクする遊矢にアダムは笑った。
「そうか、君の気持ちはよくわかった。なら私はその言葉に答えなくてはならないな」
消えゆくアダムがなにか手から光を放つ。突如、GODが苦しみ始めたではないか。
「イブ、聞こえているだろう?今まで辛い思いをさせて済まなかった。やっと迎えにこれたよ、イブ」
アダムの言葉が空間全体に広がっていく。
「アダム!」
「またせてすまなかった、イブ。さあ、いこう」
その言葉を最後に2人は消えてしまったのだった。
×