素良にとって、城前は突然現れた新しい選択肢の一つだった。GODによるループ世界を渡り歩き、失敗し続け、そのたびに妹をみとる羽目になり、精神的に疲弊してきた彼にとって、城前の知るいくつかは初めて見る選択肢だった。
デュエリストならば器さえ用意できれば蘇生ができる超科学を知った。GODの力を借りてその世界によく似た次元を作り出せばその技術を盗むことだって、再現することだって可能かもしれない。リアルソリッドヴィジョンの技術を応用すれば、妹を蘇生することだってできるかもしれない。もっとも、妹に拒否権があるみたいだから、ごめんね、と泣かれるのが怖くてその先を考えることはまだできていない。
そもそも城前の次元に転移できることが大前提なのだ。素良たちにとってはその次元自体城前のいた次元に移動できることが大前提なのだから。イヴと話し合った結果、やはりGODを目覚めさせるのが第一条件になるだろう、ということになった。今の段階で城前の次元を補足できない時点で、可能性の話でしかないのだ。オカルトと片付けられてしまうような戯言でも、GODの力を知っており、その力の大きさを誰よりも知っている素良には視野を広げる貴重な機会だった。
同時に、城前の絶望もわかってしまう。この一年と半年、素良が希望を抱くほどの知識を持ちながら、そのひとつひとつをこの次元にあるかどうか必死で調べて回ったのだ。たった一人で。元の世界に帰るというただ一つの願いをかなえるために。そして、この次元には城前が願ってやまないものがない、類似するものすらない、なにもないと知ってしまった時点で、自分の持っている別次元の知識をフル活用せざるを得なかったのだ。
人間関係すら下心ありで構築しなければならない覚悟もあっただろう。それすら前提となる次元ではなかった、あてが完全にはずれた、となったときの絶望ははかりしれなかったはずだ。別の次元に飛ぶ方法を知っているのに、その方法を再現できるものがこの次元にはなかったのだ。
さいわい、今までの経緯や歴史、そしてかかわる人々が何一つ同じではないとはいえ、次元転移という城前が願ってやまなかった技術を素良たちが持っていたのは不幸中の幸いだった。
城前はうれしかったに違いない。素良が妹との未来を考える選択肢を無数に増やしてくれた代わりに、城前に同等のものが渡せたのはなによりの幸運だった。
事実、城前は未練といったものはあったものの、自ら切り捨てていった。それだけ覚悟がったということだし、理解されなくてもいいと割り切っていたのだ。城前は素良が考えている以上に冷静で、落ち着いていた。何をすべきかわかっている人間だった。土壇場で絆されて迷ってしまう自分の性質をわかっていたから、初めからそこまで遊矢たちとの親交を避けたともいえるかもしれない。
いい意味でも、悪い意味でも、城前はいいやつだった。ほっといてくれ、という顔をして、GODの邪魔立てをする勢力の戦力を削ぐという名目でアダムの因子と関係がないデュエリストたちを排除していった。
ワンキル館のデュエルデータを収集するという任務を同時にこなすあたりちゃっかりしてるとはおもったが、やっぱり巻き込みたくはなかったのだろうと思うのである。
「な、城前、いいの?遊矢に啖呵きっちゃってさ」
「なにが?」
「結構辛そうだよ」
「いーんだよ、事実なんだから」
城前はいたって冷静だった。
「たしかにそだね」
「にしては嬉しそうだな」
「だってさ、城前が僕たちを頼るってことは間違ってないのは事実じゃない?いろんな方法知ってるはずの城前が今ここにいるってことはさ」
「なんも嬉しくねえ」
「うそつけ、一人じゃないのが嬉しいくせに」
「……」
バツ悪そうに城前はほほをかいた。
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