スケール27-1 vs赤馬
「私の頭の中をのぞいたな」


あまりの再現度に零児は眉を寄せた。フィールドの向こう側にいる城前は当然だろとウインクした。


「これから対戦する相手のこと研究すんのはあたりまえだろ?おればっか不公平じゃねえか」

「君は望んでやってるんだろうが、私の頭の中を勝手に覗くのはいただけないな。一緒にしないでもらいたい。許可取りもしないで」

「あはは」


スタジアムを埋め尽くす観客の熱視線は巨大モニターに表示されている二人の対戦者である。城前は見慣れたものだが零児は違う。赤馬零児の名前とデュエルモンスターズのIDナンバー、戦歴、本人しか知り得ない情報がでかでかとこれ見よがしに表示されている。丁寧に実況解説が零児について紹介しはじめたものだから大盛り上がりである。歓声が飛ぶ。


零児はためいきしかでない自分に気づく。こんな形でこのスタジアムでのデュエルなんてしたくなかった。ここで行われるデュエル大会はきっと大切なものになったはずなのだ、零児にとって。かつて交わした2度と叶わない約束の舞台になるはずだった場所なのだから。


こちらの世界では全てを投げ売ってGODの情報や遊矢について調べつづけていたのだ。あちらの転移前の世界の記録が反映されている時点で嫌な気分になる。零児自身は世界改変の対象外のはずなのだ、なのに反映されている時点で違和感しかない。


「しっかし、やっとデュエルの機会に恵まれたな、赤馬」

「ああ」

「悪く思うなよ、赤馬。余計なことされて嫌な気分になった気持ち理解してくれたみたいで嬉しいぜ。こうでもしないとデュエルしてくれねーだろ?イヴにお願いしたんだ」

「……城前、まさかとは思うが黒咲のときの仕返しのつもりか?」

「あたりまえだろ、おかげで黒咲んときも沢渡んときも微妙な雰囲気になっちまったんだから!」

「子供か」

「うるせえよ」

「遠回りなことを」

「アウトオブ眼中なお前が悪いんだよ」

「人のせいにするな、自分の環境を考えろ」

「あはは、疑われる余地しかねーな!」

「私たちの側に来てくれたなら謝罪も考えはしたがその可能性も潰えたからな。私が勝利した暁にはうちの部下たちを返してもらうぞ」

「勝ってからいえよな」

「ここまで私の精神を逆撫でしたんだ。それなりの準備はできているんだろう、城前?」


零児の言葉はどこまでも冷え切っている。永遠に敵わないデュエルの約束を完全再現されては土足で思い出をふみにじられたに等しい零児の逆鱗に触れるのは当然の流れである。


「おー怖、でも本気出してくれる気になっただろ?」

「ああ、真正面から叩き潰してやる」


零児の宣言通りというべきか、デュエルディスクは零児の先攻を告げた。


「私は魔法カード《強欲で貪欲な壺》の効果を発動!このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。さらに魔法カード《闇の誘惑》を発動!自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る」


順調に魔法カードを駆使して手札を整えていく零児を城前は期待に満ちた目をしながら見ている。切羽詰まった状況だというのになんともやりにくいのは城前のせいだろうか。


「さらに永続魔法《地獄門の契約書》を発動!1ターンに1度自分メインフェイズに発動できる。デッキから《DD》モンスター1体を手札に加える」

「げ、やっぱそこまで捲れば来ちまうか」

「ああ、その通り。どうやら次元が違う私も同じテーマを使っているらしいな、城前。これで準備はととのった!まずは手札の《DDスワラル・スライム》のモンスター効果を発動!1ターンに1度このカードが手札に存在する場合、自分メインフェイズに発動できる。《DDD》融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを手札から墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。私はこのカードと《DDラミア》を墓地に送り、融合召喚!《DDD烈火王テムジン》」


フィールドが歪み、2体のモンスターがひとつになる。そして烈火の王が降臨した。


「ここで墓地の《DDスワラル・スライム》の第2のモンスター効果を発動!墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から《DD》モンスター1体を特殊召喚する。私は手札の《DD魔導賢者コペルニクス》を攻撃表示で特殊召喚!モンスター効果を発動だ!1ターンに1度このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから《DD魔導賢者コペルニクス》以外の《DD》カードまたは《契約書》カード1枚を墓地へ送る。《DDネクロ・スライム》をデッキから墓地に送る」


どんどん墓地や手札の準備が整っていく。城前は瞬きするのも惜しいのか展開を一生懸命に見つめている。


「ここで《DDD烈火王テムジン》第1のモンスター効果を発動!このカードがモンスターゾーンに存在し、自分フィールドにこのカード以外の《DD》モンスターが特殊召喚された場合、自分の墓地の《DD》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で《DDラミア》を蘇生!」

「また来やがったな、過労死枠め」

「さあ、いくぞ。私はレベル1《DDラミア》にレベル7《DDD烈火王テムジン》をチューニング!シンクロ召喚!レベル8《DDD疾風王アレクサンダー》!」


今度は強い風を産み落とし、白いカードからモンスターが実体化する。


「ここで《DDネクロ・スライム》のモンスター効果を発動!このカードが墓地に存在する場合に発動できる。《DDD》融合モンスターカードによって決められた、このカードを含む融合素材モンスターを自分の墓地から除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。自身と《DDD烈火王テムジン》を除外し《DDD神託王ダルク》を融合召喚!」


男は咆哮する。墓地が反応し、光が走った。


「《DDD疾風王アレクサンダー》のモンスター効果を発動だ!《DDラミア》を蘇生し、魔法カード《使者蘇生》を発動!《DDスワラル・スライム》を特殊召喚!私はレベル1《DDラミア》にレベル2《DDスワラル・スライム》とレベル7《DD疾風王アレクサンダー》をチューニング!シンクロ召喚!レベル10《DDD超死偉王ホワイテスト・ヘル・アーマゲドン》」

「?!」

「どうやらお前の知らないカードが出てきたようだな、城前。さらに墓地の《DDラミア》モンスター効果を発動!1ターンに1度、このカードが手札・墓地に存在する場合、手札及び自分フィールドの表側表示のカードの中から、《DDラミア》以外の《DD》カードまたは《契約書》カード1枚を墓地へ送って発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。私は永続魔法《地獄門の契約書》を墓地に送って《DDラミア》を蘇生だ」

「げ、まだいくのかよ」

「当然だろう。さあこい!レベル7《DDD神託王ダルク》をレベル1《DDラミア》にチューニング!シンクロ召喚!レベル8《DDD呪血王サイフリート》」


気づけば赤馬の最終盤面は、《DDD超死偉王ホワイテスト・ヘル・アーマゲドン》《DDD呪血王サイフリート》《DD魔導賢者コペルニクス》となっていた。



城前はカードをかかげた。


「よっしゃあいくぜ!まずは魔法カード《光の援軍》を発動!自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送って発動できる。デッキからレベル4以下の《ライトロード》モンスター1体を手札に加える。おれがサーチすんのは《ライトロード ・アサシン ライデン》だ!」


褐色の青年が城前の頭上に出現する。


「さらに発動、魔法カード《増援》!デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。おれがサーチするのは《ライトロード ・ウォリアー ガロス》!」


白亜の鎧を身に纏ういかつい男性が城前の頭上に表示され、消えていく。


「そして魔法カード《左腕の代償》を発動!このカードを発動するターン、自分は魔法・罠カードをセットできない代わりに、このカード以外の自分の手札が2枚以上の場合、その手札を全て除外して発動できる。
デッキから魔法カード1枚を手札に加える。おれは手札を全て除外し、《同胞の絆》をサーチ!」

「……」


零児は無言のまま城前の手札を見つめている。


「さあ、はじめようか!おれは《ライトロード ・ウォリアー ガロス》を攻撃表示で召喚だ!そして発動!《同胞の絆》!このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。2000LPを払い、自分フィールドのレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じ種族・属性・レベルでカード名が異なるモンスター2体をデッキから特殊召喚する。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。おれは光属性・戦士族の《ライトロード・アサシン ライデン》と《ライトロード・モンク エイリン》をサーチして特殊召喚!」


城前のフィールドに三体のモンスターが並ぶ。


「まずは《ライトロード・アサシン ライデン》のモンスター効果を発動だ!1ターンに1度自分メインフェイズに発動できる。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。この効果で墓地へ送ったカードの中に《ライトロード》モンスターがあった場合、このカードの攻撃力は相手ターン終了時まで200アップする。よっしゃあ、これで攻撃力は1900!」


攻撃力を強化した青年は肥大化した暗具を手にかざす。


「チェーンして《ライトロード・ウォリアー ガロス》のモンスター効果を発動だ!自分フィールド上の《ライトロード》と名のついたモンスターの効果によって自分のデッキからカードが墓地へ送られた場合、自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。その後、この効果で墓地へ送られた《ライトロード》と名のついたモンスターの数だけデッキからカードをドローする。これで2枚の墓地肥やしのドロー!」


男の雄叫びがカードを墓地に弾き飛ばしていく。


「このターン、おれは特殊召喚できねえからな。そのままエンドフェイズに移行するぜ。まずは《ライトロード・モンク エイリン》のモンスター効果を発動、3枚の墓地肥やし。さらにチェーンして《ライトロード・ウォリアー ガロス》のモンスター効果で2枚の墓地肥やしと1枚ドロー。さらに《ライトロード ・アサシン ライデン》のモンスター効果を発動!2自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。さあ、もう一度《ライトロード ・ウォリアー ガロス》のモンスター効果で墓地肥やしとドローだ!」


そして墓地にあることで反応するカードが落ちるたびに特有の効果音と発光が連鎖する。


「おっと、墓地に《エクリプスワイバーン》が落ちたから、モンスター効果を発動するぜ!このカードが墓地へ送られた場合に発動する。デッキから光属性または闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスターを1枚除外する!対象はもちろん《裁きの竜》!」

零児は確信した。このターン、なにがなんでも終わらせなければ次のターンは回ってこないと。



この墓地リソースを使い相手ターンの展開を《妖精伝姫−シラユキ》の特殊召喚から妨害し、次のターンでゲームを終わらせるつもりなのだろう。この大量の墓地肥やしコンボから《妖精伝姫−シラユキ》とその除外リソースを一気に揃えられてしまった。下手をすれば《妖精伝姫−シラユキ》で凌がれてしまう。


「これでおれのターンは終了だ」


次のターンだが零児の対抗策は《妖精伝姫シラユキ》に阻まれてしまう。目の前の地雷を防ぐ手立てはなかった。

「おれのターン、ドロー!さあて、まずは《ライトロード ・アサシン ライデン》のモンスター効果で自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送るぜ。チェーンして《ライトロード ・ウォリアー ガロス》のモンスター効果を発動!同名以外の自分フィールド上の《ライトロード》と名のついたモンスターの効果によって自分のデッキからカードが墓地へ送られた場合、自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。その後、この効果で墓地へ送られた《ライトロード》と名のついたモンスターの数だけデッキからカードをドローする」


手札増強を始めた城前だが、出たのは乾いた笑いだった。


「……ま、まあ、こんな時もあるわな!さあて、気を取り直して!《ライトロード ・サマナー ルミナス》を攻撃表示で召喚だ!そしてモンスター効果を発動!1ターンに1度、手札を1枚捨て、自分の墓地のレベル4以下の《ライトロード》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。蘇れ、《ライトロード ・アーチャー フェリス》!」

「なら速攻魔法《墓穴の指名者》を発動だ。相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。次のターンの終了時まで、この効果で除外したモンスター及びそのモンスターと元々のカード名が同じモンスターの効果は無効化される」

「だからどうした!ならこのままいくぜ、レベル4《ライトロード ・アサシン ライデン》にレベル3《ライトロード ・サマナー ルミナス》をチューニング!シンクロ召喚!レベル7《ブラックローズ・ドラゴン》!モンスター効果を発動だ!このカードがシンクロ召喚に成功した時に発動できる。フィールドのカードを全て破壊する!」

「そうはいくか、速攻魔法《月の書》を発動!フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする」

「げ!?ったく、しぶといな!じゃあ使ってやるよ!墓地に《ライトロード 》モンスターが4種類以上あるとき、こいつを特殊召喚できる!こい、《裁きの龍》 !!」

「この瞬間を待っていた!」

「なにっ!?」

「いいだろう、発動してやる。罠発動《虚無空間》!」

「げっ」

「このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。よって《裁きの竜》の特殊召喚は無効だ」

「うげっ、マジかよおっ!」

「舐めた真似をするからだ。お前のデュエルは何度も見てきた。対策してないとでも思ってたのか?」

「思ってないけど、思ってないけどー!来ねえからぬか喜びしちまったじゃねーかよ、ここでくるかっ」

「さあどうする」

「……おれはこのままターンエンドだ。それぞれのモンスター効果で墓地に送る」

「形成逆転だな、城前。次は私の番だ。ドロー!」


城前の顔は引きつっている。当然だ、全ての特殊召喚を封じられた今、棒立ちのモンスターを処理する《妖精伝姫シラユキ》はもちろんシンクロ召喚、エクシーズ召喚を全て封じられてしまったのだから。墓地に送ったカードのリソースが持つまで耐えて、デッキトップで解決するしかもはや方法など存在しないのである。


そして形勢逆転した状態でターンが消費されていく。なかなか逆転のカードがひけない城前は何ターン目か数えるのも嫌になってきたまま、エンドを宣言した。赤馬はドローしたあと、防御札が残っているか試すように何枚か手札を消費する。城前が何も反応しないのを確認して、ようやく笑う。


「これで終わりだ、城前!一斉に攻撃!」





「あー、負けた、負けた、おれの負けだわ。降参」

「私の勝ちだな、城前」

「おう、さすがだな、赤馬。つえー」


けらけら笑う城前。そして、巨大モニタには赤馬零児の勝利を告げる放送に合わせてPVが流れ、大歓声が会場を包んでいた。


「うれしそうな顔してるじゃん」

「・・・」


零児は顔を引き締めた。


「おーすげえ、これがアダムの因子の力ってやつ?」

「なに?」


城前の手には電子パネルが表示され、なにやら数値がすさまじいものとなっている。


「沢渡や黒咲でも測定してみたけど、やっぱすげーな」

「まさか、だから私にデュエルを挑んだのか、城前」

「あたりまえだろ、何度も言わせるな。おれの目的はGODの覚醒と平行世界を作る上で必要な対象座標範囲の拡大だぜ。なんのために失敗因子を取り除いて回ってると思ってんだ」


零児は眉を寄せた。


「そう怒るなって、協力してくれたお礼に有益な情報やるからさ」

「なんだ」

「ここはアンタの未練が詰まった場所だ」

「そうだろうな」

「勝ったアンタには無駄な演出だっただろうけど、人によっては精神フェイズで深刻なダメージを食らうこともある」

「お前もか?」

「んなわけあるかよ、似たようなこと腐るほどワンキル館がやってきたんだぜ?1年もやってたらそのうち慣れる」

「おれやアンタみたいに、進むべき先があってそんなことどうでもいいと切り捨てられたり、迷っても間違わないやつもいる一方で、いつもいつもその世界で生きてるから今更見せつけられたところでだからどうしたと開き直れるやつもいる。後者がGODみたいな力に興味持ったらめんどくせーぜ」

「・・・イヴたちのことだな」

「あはは、それだけだと思うか?」

「あえていうなら、おまえの後ろ盾。ワンキル館あたりか?それとも紫雲院?」

「わかってんなら言う必要ねーかな。一応忠告しておこうと思って。GODの存在を完膚なきまでに抹殺しねーと、うちは第二のイヴ勢力になりかねねえぜ」

「そこまでか」

「おう、なんだかんだで館長あたりの食いつきが半端なかったからなあ。ま、気をつけろよ」

「言われなくてもわかっている。私はあらゆるものを犠牲にして今、ここに立っている。そして、私自身、GODのことは怖気が走るほど気に入らない。それ以外に理由はいらない」

「あはは、シンプルでよろしい」

「お前に了解などとらなくてもいい」

「ま、そりゃそうだな。えーっと、あ、今、紫雲院たちはアクションデュエル中みたいだぜ。せっかくだ、見ていけよ」

「…」


大画面に表示されている遊矢と素良を見上げる零児はいつもの顔に戻っていた。相変わらず冷静沈着なやつ、と城前は肩をすくめたのだった。


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