「おかえりなさい、遊矢。どうだった?」
「ただいま。うん、振られた」
「えっ、振られた!?城前さん敵になるの?」
「……譲れないことがあるんだってさ。あーもう仕方ない。これから忙しくなるよ、柚子」
「どうするの?」
「イヴたちが何処にいるのか調べなきゃいけない。アイザックと零児のデュエルを見返そう。それで逆探知するんだ。突然リアルソリッドビジョンでできてる宇宙船がなくなるなんてハッキングしないとできないからね」
「え、あれもソリッドビジョンだったの!?」
「そうだよ、レオコーポレーションの大型施設はだいたいそうだ。だからGODによる大打撃がそのまま世界の崩壊に繋がったんだよ」
「そうなの?」
「うん、よく考えてみてよ。ソリッドビジョンは投影してはじめて実体化するんだ。投影機が破壊されたらみんな消えちゃうよ」
「な、なるほど」
柚子は青い顔をする。遊矢は笑った。
調査には数日要した。
「南極だ」
「南極?!」
「次元転移装置があるからって遠すぎないかなあ。宇宙の次は南極かー、どんどん大規模になってきたぞ」
「どうして南極なのかしら」
「うーん、一般人は入れないからかな。あるいは次元転移装置の座標のズレを最小限にするために向いてるとか?わかんないな。でも思いつきの割に当たってる気がする。ワンキル館の仮想現実にログインするときもだいぶずれちゃったし」
「えっ、うそ!?私、ちゃんと正しい番号いれたわよ!?」
「あーうん、柚子はちゃんとやってくれたよ、ありがとう。ただ、それでも外国人墓地からMAIAMIビーチまでズレちゃったからなあ」
「えっ、そんなに?」
「うん、不法アクセスてはいえずれすぎだから、たぶん似たような原理なんだと思うよ。どちらもリアルソリッドビジョンの技術を発展させて生まれた技術のはずだから」
「どうするの、遊矢」
「うーん、南極、南極かあ。さすがに遠すぎるなあ。零児にお願いして連れてってもらう?」
「え、あの人連れてってくれるの?」
「調べてみたら南極基地あるみたいだしね」
「どんだけすごいの、レオコーポレーション」
「ほんとだよ。宇宙ステーションにまでレオコーポレーションってあったから、あれ民間のだよね、たぶん」
「ところで遊矢、パスポートとかどうするの?」
「……えーっと、そうだな、城前のやつハッキングして」
「え゛」
「冗談だよ。レオコーポレーションはもともとリアルソリッドビジョンの技術を軍需産業から民間に払い下げる過程で生まれた会社なんだ。今でもコネはあるはずだよ。かなり強固なね。だからたぶん零児なら顔パスでいける」
「え、でも、宇宙ステーションから帰ってきて、すぐ歩けるものなの?」
「そりゃすぐには無理だよ。帰ってきてくれるの待たなきゃ」
「そっか、なら沢渡たちに教えてもらいましょう、赤馬社長の連絡先」
柚子は端末を取り出した。
「ほんと準備いいね」
「ええ、どこかの誰かさんのおかげでね」
ウインクを飛ばしながら柚子は電話アプリを起動した。
『もしもし』
「もしもし、柊柚子だけど。今大丈夫?」
『あ、お前が』
「そうよ、私。ねえ、今どこにいるの?赤馬社長に会いにいくって街を出たきり音沙汰ないけど」
『ちょうどいいところに掛けてきたな!聞いて驚け、今俺たちはロケットの発射場にいる!』
「よく入れたわね、国の施設なのに」
『赤馬社長の部下だってことで顔パスだぜ、怖すぎないか?』
『それだけあの男が異質ということだろう』
『……ほんとすげーよな、どっかのハッカーとは大違いだぜ』
「ひっどい言われようだなあ!オレは零児と違って体ひとつでこの次元にきたんだよ!一緒くたにされると結構傷つくんだけど」
『その声は遊矢!?そこにいるのか!』
「うん、いるよー」
『なら、話が早いぜ。赤馬社長は今宇宙からこっちに帰ることになったんだけど、リハビリしなきゃいけない。次は南極に行くっていってるけどリハビリ考えたらどうあがいても45日はかかるんだ』
「45日……一ヶ月半か」
『どうする、お前、イヴとかいうやつを倒さないといけないんだろ』
「沢渡もアイザックと零児のデュエルみてたんだ」
『でなきゃこんなこと言わねえっての。続けるぞ、××国経由で南極半島の軍基地まで飛行機で行って、そこから船で南極に行く民間ツアーがあるらしいけど』
「ステキな提案だけど無理だよ、オレ零児と違って戸籍がないんだ。軍にコネもないしハッキングしながら南極探索はきつすぎる。零児の力を借りないと無理だ」
『そうか、なら、お前らもロケット発射場に来い。赤馬社長がリハビリする予定のところに案内してやる』
沢渡はそういって現在地について詳しく教えてくれた。ありがとう、と言って遊矢は柚子に端末を返す。柚子はしばらくののちアプリを切った。
「さーこれから忙しくなるわね!旅行鞄どこだっけ」
「え、ついてくるの?」
「え、おいてく気だったの、遊矢!?これからの長旅だっていうのにお金どうするつもり?」
「……城前のクレジット使わせてもらおうかなって」
「そんなことだろうと思ったわ!出世払いにしてあげるから、やめなさい!」
ビシッと指を突きつけられ、遊矢は困ったように頬をかいた。
「でも旅行にいくんじゃないんだ、そのまま船かな。次元転移装置なら一瞬なんだろうけどなあ」
「まだいいよっていってもらってすらないのに」
「零児ならOKしてくれるさ、交渉材料はあるしね」
「城前さんのこと?」
「それもあるけど、城前経由で入手したイヴの新しい情報とかね。さーてまずは帰還の日程を調べないと」
そして遊矢たちは軍にいた。
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