スケール25 もうひとつの次元
「さあ、聞かせてもらおうかな、城前。まずはワンキル館がイヴたちに近づいた理由をさ」

「別にデュエルしなくても教えてやったのに。ワンキル館はG・O・Dあるいは《ジェネシス・オメガ・ドラゴン》のカードデータが欲しいんだよ」

「うん、予想通りだね。じゃあ、城前は?」

「おれ?」

「うん」

「おれは元の世界に帰るためだ。イヴたちは次元転移装置を持ってる」

「今ここにいるってことはそう簡単な話じゃないってこと?」

「ああ、イヴにおれの来た世界は興味深いが座標が定まらず捕捉できない領域にあるから現時点じゃ無理だと言われちまった。なら、G・O・Dを完全体に覚醒させるしかねえよな」

「よかった、イヴに一目惚れしたとかじゃないんだ」

「たしかに待望の大人のお姉さんだぜ、おっぱいでかいし。でも彼氏持ちは対象外だし、そもそも精神年齢桁が違うじゃねーか。外見はクッソ好みなのにな!!」

「あはは、相変わらずだね」

「うるせえ」

遊矢は目を細めた。憂い顔だ。

「でも城前、城前もどこかでわかってるんじゃないのか?もう帰るところはないって」

「は、いうじゃねえか。やってみなきゃわかんねえだろ。たしかにイヴには言われたよ。G・O・Dを覚醒させたところで座標が特定できるとは限らねえし、同時にG・O・Dの力の範射程圏に入るからおれの望む都合がいい世界に行けるようになるだけかもしれない。おれが転移する前の世界によく似た平行世界にしかたどり着けないかもしれないとはな。でも諦められるかよ。家族も友達も職場もなにもかも放り出してきちまったんだぞ、おれは。もう一年半だ、一年半もたってる。普通なら全国区のニュースになってるころだ。んな笑えることあるかよ」

「気持ちはわかる、わかるよ、城前。でもそれは世界が崩壊したところを見てないからそんなこといえるんだ。GODを覚醒させても世界が壊れたことに変わりはないよ。そんな力で帰れたって城前後悔しない自信ある?」

「後悔だあ?んなの後からいくらでもできるだろうが。おれにとっては最初で最期のチャンスなんだよ」

「チャンス?」

「おれがこの世界に来て、最初に拾ってくれたワンキル館は衣食住を始めとしたあらゆる融通をきかせるかわりに条件を提示して来た。猶予は3年、あと1年半、あと1年半しかねーんだよ。それを過ぎたらおれはこの世界で生きていくことを選択しなきゃならない。なにがなんでも元の世界に帰る手段を獲得しなきゃならない。G・O・Dはおれにとって最後の希望なんだ。次元転移装置のさらなる発展にG・O・Dの覚醒が不可避な以上、おれはなにがなんでも成功させなきゃならないんだ」

「それがイヴ側につく理由?」

「もしG・O・Dが未覚醒のまま倒されたとしてもカード情報さえ手に入ればどうとでもなる。でもお前らはG・O・Dの存在を抹消させたいんだろ?組する理由がねえな。一抹の可能性すら粉砕するような真似するわけねーだろ」

「そんなに帰りたいんだね」

「あたりまえのこと聞くなよ」

「……オレも世界が崩壊する瞬間を見てなきゃ期待しちゃったかもしれない。でもオレは見たんだよ、城前。G・O・Dの力の射程圏に入った次元は完膚なきまでに食い尽くされる。オリジナルの世界を食らってひとりの願いのために平行世界を量産していくんだ。それがどんなにおぞましいことか、城前にはわからない?わかるだろ?なんでイヴ側についちゃうんだよ。城前が一番嫌いな考え方だろ、あいつら」

「それでもおれは曲げる気はねえな」

「……ほんとに?」

「ああ」

「あんなに楽しくデュエルしてたのに」

「あれはあれ、これはこれだ」

「……オレたちが城前に協力するっていっても?」

「協力する?なにをだよ?この世界にあるオカルトまがいの事件はとっくの昔に調べ尽くしたんだぜ?なにを今更?ほかに方法があるならそうしたいさ、でもねえんだから仕方ねえだろ」

「……城前」

「正直おれの世界のことがG・O・Dに感知されたらヤベーなどは思ってるさ。でも会いたいんだよ、なにが悪いんだ」

城前は笑うのだ。

「いいもん見せてやるよ」

「え」

「この世界にきたとき、頭の中を全部覗かれて別次元にきたことをわかってもらえたんだ。イヴたちだけってのも不公平だからな、教えてやるよ。おれの秘密をさ」

城前がほら、と視線を投げる。

「!?」

五号館が一瞬でなにかのイベント会場となる。

「な、なにこれ」

「おれの世界だ」

「え、城前って、え、なんでオレが!?」

会場の中央には遊矢そっくりの男の子のバルーンが浮かんでいる。そして、なにかのアニメの宣伝だろうか、放送時間と曜日が載っている垂れ幕が揺れていた。

「おれの世界じゃ、これがあたりまえだった」

歩き始めた城前をあわてて遊矢は追いかける。遊矢によく似た少年が知らないEMに乗って会場をかけめぐっているのが見えた。声もよく似ている。さっきの垂れ幕はこのアニメのようだ。足を止めたいが城前がどんどん先にいってしまう。遊矢はあわてて加速した。

「待ってくれよ、城前!」

ソリッドビジョンで再現された雑踏を抜け、遊矢を待っていたのはデュエルの会場だった。仮面を被ったスタッフたちが一般客とテーブルデュエルをしている。

「これは」

「これがおれの世界だ」

「城前の……まさかオレたちを知ってたのはさっきのアニメ?」

「似て非なる存在だけどな、全然にてないし」

「そんなに?」

「ああ、おかげで大事な大事な記憶だってのに、お前らに上書きされちまって展開すらおぼろげだぜ」

自嘲する城前に遊矢は言葉を失う。

これはどういうことだろう。

「おれの世界ではデュエルモンスターズは決闘王の漫画から始まってカードゲームが始まったんだ。初めてお前らみた時の衝撃ったらなかったぜ。決闘王と同じ体質しやがって」

「……だから好意的だし、オレやユートたちを個人として見てくれたんだ?」

「そりゃそうだろ。おれの知ってる遊矢たちはひとりの人間だったからな、なにが事情があるんだろうとは思ってたさ」

「そっか……ほとんど反則じゃないか。いくら城前のこと調べてもわからないはずだよ」

「でも、こっちにきてから2、3年前のお前を昔の動画で見つけたときからチェックはしてたんだぜ」

「城前の知ってるオレ目当てで?」

「どっちかというと、次元転移装置を持ってる赤馬零児との接触の時期をうかがうためだ」

「うわーほんとにストーカーじゃないか」

「うるせえ」

「じゃあ、あのアクションデュエルの口上は……」

「おれの知ってる遊矢のぱくりだ」

「えー」

「オリジナルじゃないって始めからいっただろ」


遊矢はどこか拗ねてしまう。


「オレに力を貸してくれないのは、城前の知ってるオレじゃないからとか言わないよな?」

「次元転移装置がねーからだ、安心しろ」

「全然嬉しくないよ、バカ」


遊矢はぼやいた。


「あはは、そうだ。デュエルに勝ったお前にいいものやるよ」

「なんだよ、ついでみたいに」

「まあまあそういうなって。ほら、これ」


城前が差し出したのは、先程まで使っていた《オッドアイズ 》や《EM》である。


「まさかユーリに先に越されて負けちまうとは思わなかったぜ。二番煎じになるけどさ、ま、強さは折り紙つきだろ?」

「いいの?」

「ああ、餞別だ」

「餞別って……そっか……わかった。次絶対返すからな、城前」

「は?いや、いいって。餞別の意味わかってるか?おれは」

「わかってるから言うんだよ」

「なら受け取れないって突っ返す場面だろ」

「城前実は欲しい?」

「あたりまえだろ、さっきのテストプレイが初めてだったんだよ」

「あはは、ならなおさら返せないな!ありがとう、あとで返すよ」


締まらないゆるい雰囲気に遊矢は笑った。


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