スケール23 星の聖域
「突破できるタイミングを見逃さず、その時が来るまでこちらの攻防を防ぎきり、切り返すデュエルタクティクス、お見事でした。せっかくいただいた新しいデッキの初デュエルを勝利で飾ることが出来なかったのは残炎ですが、あなたとデュエル出来てよかったと思います。記念にお名前を聞いてもよろしいですか?」

「ああ、私はユートだ」

「ユートさんですね。それではどうぞ、お通りください」


女性は一礼するとよこにどいた。ユートはそのまま霊廟に入った。透かし彫り模様の美しい白い壁を伝っていくと、奥の方に扉がある。外から見えた窓はここにあるようだ。夕焼けを切り取りほのかにオレンジ色に染まった影が切り取られた四角を伸ばしていく。白亜の建物は、霊園内に設けられた大きな池の青によく映える。夕焼け色に染まった霊廟はとてもきれいだったことを想い出す。ここが城前の前任者の墓でなければよっぽどよかっただろうか。扉の向こうは廊下だ。


『なにかした方がいいのかな−?』

「さあ、な」

『ま、この先に不法侵入するからには、なにかしらいった方がいいかもね』

「私たちはデュエルに勝ってここにいるんだ。物怖じせず、どうどうと入ったらいいだろう。失礼しますくらいでいいんじゃないか」

『とかいって言う気ないやつだ』

「お互い様だろ」


軽口を叩きながらも警戒は怠らない。遊矢が目視する限り監視カメラなどは見当たらないと教えてくれる。もっとも、ここはネットワークの中だ。ハッキングされるパソコンの中にいるも同然である。やろうと思えばいくらでもできるだろう。廊下を渡りきり、扉を開けると小さな礼拝堂のようなところに出た。両脇に長いすが並べられ、まっすぐに伸びるカーペットの先には宗教じみた装飾が施された祭壇。そして、真正面には柩。


「ここか」

『みたいだな』


見たところ誰もいないようだ。扉が急にしまって閉じ込められるということもなく、ユート達はそのままカーペットを歩く。誰もいないのに明かりがついている。埃一つ無いのはあの女性が手入れしているからなのだろう。花が生けられていた。もちろん本物だ。リアルソリッドヴィジョンではない。


『もしかして、あの人が母親の墓の花備えてたのかな』

「そうかもしれないな、気になるなら聞けばよかったじゃないか」

『やだよ、オレそういうの苦手なんだ』

「相変わらずだな、遊矢は」

『まーね、それがオレのいいところでしょ』

「調子のいいことをいう」

『うるさいなあ、早く行こうぜ』


遊矢がはやく柩を持ち上げろとユートを急かす。祭壇には特に仕掛けは施されていないようだ。


「ここが怪しいのか?」

『うん、ただのオブジェクトじゃないっぽい。変なプログラムが仕込んである。たぶん動くギミックだと思うよ』

「ここ?」

『ちがう、もう少し右側』

「ここか」

『そうそう、そこにあるマークをひねってみて』

「………!」

『あたり、かな?』

「ああ、なにか感触がかわ」


ユートが言い終える前に、柩の設置されている祭壇ががこんと音を立てて揺れる。ユートはあわてて祭壇から降りた。柩ごとゆっくりと下っていく床。やがてそれは段々になっていき、先の見えない階段になっていく。おー、と遊矢は声を上げた。ユートはあたりを見渡す。中は暗そうだ。


「借りるか」

『たぶん、降りるためのやつだよね、それ。ソリッドヴィジョンみたいだよ、それ』


なるほど、なにがあっても消えないろうそくか。祭壇にある燭台を手に、ユートは先をのぞき込む。影が遠ざかるだけだ。ゆっくりと降りていくことにする。冷たい足音だけが周囲に反響する。


「以外と広いな」

『オレたちのアジトとどっちがひろいかな』

「あれは広すぎる」

『あはは』


ろうそくをかざしながら、先を行く。その先にあったのは螺旋階段だった。


『うっわ、先は長そう?』

「遊矢、なにか隠し通路はないのか?」

『うーん、特には見当たらないかな。変なプログラムが仕込まれてるならわかる自信あるけどねえ』

「なら、いくか」

『うん、よろしく。下手に弄ると生き埋めにされそうで怖いし』

「……やめろ」

『さっきのお返しだよ、ユート。怪談話ばっか聞かせてくれちゃってさ』

「………」


ユートは気まずそうに目をそらす。遊矢はお返しとばかりに、ここ全体がリアルソリッドヴィジョンで構築されていること。その気になればすべてを消すことも、一部を消すこともできること。そして、いずれにしろユートも遊矢も生き埋めになることは間違いないことを説明するのだ。だんだんユートの顔がひきつってくる。ついさっきまでアイザックが零児のいた宇宙船を消したり、宇宙服を消そうとしたりしたところを見たばかりなのだ。ソリッドヴィジョンは所詮投影機である。質量を持たせたとはいえ、その装置が壊れれば消えてしまうのはかわらない運命なのである。


そうして、途方もない階段を歩いたユートは、ようやく平地に出た。扉がある。ゆっくりと扉を開いた。


「……ここは!」

『あー、ここに出るんだ』

「遊矢?」

『ここにつながってるのかあ、ここってあれだろ。沢渡と城前がデュエルしてたところ』

「ワンキル館がやってるエキシビジョンの会場か」

『今は大会やってないから静かなものだけど、やっぱみるとでかいね』


そこは途方もないほどの広さを誇る、デュエルフィールドだった。


ごう、と風が産み落とされる。強い風が吹いている。なにか巨大な者が頭上を通り過ぎていった。GODの幻影が脳裏をよぎったユートは思わず真顔になるが、それがソリッドヴィジョンだと気づいて息を吐く。遊矢は体を乗り出した。


『なんだあれ、オッドアイズ!?まーたワンキル館、オレの知らないオッドアイズカード作っちゃったのかよ!』

「そう、みたいだな」

『ユート、変わってくれ!ちょっとオレ、文句言ってくる!人の許可取らないでカード作っちゃ駄目だろ、もー!』


見たこともないドラゴンに乗っているのが城前だと気づいた遊矢は、実体を取り戻すとそのまま着地地点までかけだした。城前はドラゴンから降りるとカードに戻してしまう。どうやらモーションの確認をしていたようだ。


「城前、まーたオレに黙ってオッドアイズ作ったのかよ!!何度もいってるじゃん!カードデータ渡してるんだから、出来たら見せてくれって!テストプレイくらいさせろって!あわよくば使わせてって、何度もいってるじゃんか!!いつまでも帰ってこないと思ったら、なにこんなところで油売ってるんだよ!!」

「ばーかいえ、何いってやがる。だいたい文句は技術班に人たちにいってくれよ。おれはこっちが本業なの。不法侵入しといてよく言うぜ。約束破ってここにいるくせに、文句つけるとはいい度胸じゃねーか」

「城前がいつまでたっても帰ってこないからだろ!こっちは聞きたいことたくさんあるのに!とりあえず、さっきのドラゴンは??」

「これはワンキル館が作った最新の《オッドアイズ》だぜ。試してみるか?」

「え、いいの?」

「直々にオッドアイズ使いがテストプレイに協力してくれるなら、特別におっけーみたいだぜ」


よく見ると城前はインカムをもっている。しまった、どうやら会話は筒抜けのようだ。たらり、と遊矢は冷や汗が伝う。ユートは頭がいたそうだ。


「来るなっていったのに、来やがるんだもんな。やることは一つだろ」

「えー、門番の子は通してくれたのに?」

「それはそれ、だ。いつだったかいってたじゃねーか、遊矢。俺とアクションデュエルしたいって」

「……そういえばそうだね」

「それじゃ、始めるとするか。俺に勝ったら、いいものやるよ」

「ほんとに?」

「ああ、よく頑張りましたってことでな」

「ついでに城前が何のためにイヴ達に近づいたか、教えてくれる?」

「はあ?んなもん関係なくね?」

「オレにとってはあるんだよ」

「ふうん?まあいいけどな。それじゃあ、始めるか」

「うん!」


ちゃんと約束を守ってくれた城前に遊矢はほっとする。ここは正念場だ。負けるわけにはいかない。


「闘いの殿堂に集いし決闘者達が地を蹴り、宙を舞い、フィールドを駆け巡る!」

「みよ、これぞデュエルの最強進化形!アクションデュエル!!」


互いのデュエルディスクに、アクションデュエルのコマンドが出現する。


『フィールド魔法《星の聖域》の効果を発動します。このカードはこのカード以外の効果を受けません、。またこのカードが発動している間、アクションカードを使用し、デュエルを使用することが出来ます。アクションデュエルは1ターンに1枚しか入手することができません』


さっきまでただのドームだった世界が、一転して闇となる。広がるのは、先ほどまで零児とアイザックがデュエルを繰り広げていた宇宙そのものだ。最大の違いはやはり宇宙服無しでもデュエルができるということだろうか。


「単純な疑問なんだけどさ、ここをハッキングして消したらどうなるの?」

「ん?簡単だろ、支えてるものがすべて消え失せておれも遊矢も生き埋めだぜ」

「うげっ、やっぱそうなんだ」

「そりゃそうだろ。どんだけソリッドヴィジョンが普及してるとおもってんだ。だからお前は指名手配なんだよ、ファントム」

「やらないから安心してよ。GODがやらかした世界崩壊と全く同じ方法なんて使うわけないじゃん」

「おう、知ってる」

「なら安心した。それじゃあ、いこうぜ」

「うん!」


煌々ときらめく星の一つに着地した遊矢は、離れた位置に着地した城前を見る。最も得意とするフィールドだ、ハンデとしては十分である。今度はどんなデッキをつかってくるんだろう!遊矢はどきどきを抑えることができそうになかった。


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bkm
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