スケール18 エウミデネスのささやき
空中に突然現れた強烈な緑の光が四角を描く。浮き上がった四角が左右に展開していき、全く同じ構図の四角の図面がもう1つ浮き上がっていく。そして左右に反転し、向かい合うように平面になる。そして四角が緑色の枠を輝かせた。デュエルフィールドの展開が完了したことを告げるアナウンスがはいる。


0と1が集積し、オブジェクトが形成され、緑の光がひとつのテクスチャを形成する。やがて色が投影され、一度ログアウトした城前が姿を現した。さっきいっていた、たくさんのコードがついたヘルメットをつけたりして、ポットにはいる、といっていたのはこの状態なのだろう。城前はどうすればいいのかわかっているようで、なれたように着地するとデュエルディスクを展開する。そしてデッキをセットした。


『アクションフィールドをセッティング。フィールド魔法、《星の聖域》の効果を発動します。このカードには2つの効果があります。ひとつめは、このカードがフィールド上に存在する限り、アクションカードを使用することができます。アクションカードは1ターンに1枚しか手札に加えることができません。このカードはこのカード以外の効果を受けません』


今となってはどこか懐かしい気もするアナウンスである。


夕暮れのMAIAMI市に突如黒い球体が出現する。黒咲がかつて展開した《世界樹の鳥かご》のように広大なフィールドを形成し、その中でアクションデュエルが可能となるのだ。一気に広がった夜は城前とデュエルフィールドを飲み込んでいく。


それは不思議な世界だった。晴れた夜空に瞬く星々。氷のかけらのように透き通った星だった。城前は平面に立っているというのに、世界は広大な宇宙の真ん中にいる。星々は冷たく凍るように光っていた。膨大な数の銀河が揺らめき、新しい星が生まれ、そして死に、最後の輝きが流れ星となって遙か上空で瞬いた。城前が一歩歩くたびに不思議なきらめきが生まれ、鈴を転がしたような美しい音色が響く。流れ星がいっぱい夕立のように降り出した。空から花火が振るように、流れ星がいっぱい降り出す。カメラで星々をずっと撮影したかのように、東から西へ星がどんどん動いていく。城前がいるのは地球のような惑星ではない。本当に深淵にうかんでいる状態だ。なにもかもが歪で、それでいて美しいところだった。


よく目をこらすと、星の瞬きではない、よりはっきりとした光を見ることができる。それは赤、青、緑、と周囲に広がるオーロラのようなきらめきを放っている。小さなオーロラの様相を呈している。はるか下方、あるいは上方に存在する光。そこに至るには足下の感触しかわからないものの、確かに存在する階段が必要だ。アクションフィールド専用のフィールド魔法が発動したことで、城前の前にあったデュエルフィールドは光の粒子となって消えていく。同時に城前がいるべき足場も一瞬の浮遊感ののち、アトランダムに設定されるスタート地点に転送した。ちなみにアクションカードを入手すると転移することを城前は知っている。


「やっぱきれいだなあ。好きだわ、このアクションフィールド」

「そうかい?アタシは《アスレチックサーカス》の方がギミックがわかりやすくて好きだけどね」

「あれはアクションデュエルに慣れるために散々やったからもういいっすよ」

「基本中の基本がぜんぶ入ってるからね」

「初心者向けっすもんね、うん」


館長がいるのはちょうど中央に位置する黄色い発光体の付近だ。ジャッジはここが定位置となる。そしてジャッジのところがこのアクションフィールドの出口でもある。ここから離脱するにはあそこにいくしかない。城前がいるのは遙か上空。ということは対戦相手ははるか下方にいるはずだが見当たらない。


「館長、まだ調整終わんないんすか、もしかして?」

「んー、ちょっと不具合があったみたいだね、ちょっと待ちな」

「はーい」


城前はセットしていたデッキを確認する。


「いっとくけど積み込みは無しだよ」

「しねーよ、そんなことっ!しっつれいな!!」


わざとらしくデュエルディスクを構え、デッキをセット、シャッフル機能をオンにした城前はいつも以上に念入りにシャッフルを行う。これでどーだ、と言いたげな城前に館長は笑う。


「お待たせ、準備完了だ」


インカム越しの声と同時にはるか下方に光が生まれる。頭のてっぺんからつま先まで構築されていったアバターは、一見すると城前がもう一人いるような錯覚をおこすほどよく似ていた。アバターパーツが似ているのではない。生体情報から生成された体の骨格は変えられない。純粋にそっくりさんの体型なのだ、このアバター


「久しぶりだな、××!今回は新しいデッキを用意したぜ。楽しもうな!」


笑いかける城前にAIはにこっと笑う。城前と同じ旧型のデュエルディスクなのは、ワンキル館が専用にカスタマイズしたということもあるが、原型となっている前任者が生前愛用した型番だからでもある。城前によく似てはいるが、いたずらっこのような、無邪気な笑みといった方がいいだろうか。人をおちょくったり、からかったりするのが好きな意地の悪い笑みとは全然種類がちがうそれがうかんでいる。初めて見たときにはあまりにも鏡写しだったから蝋人形でもあるのかと錯覚するほど不気味だったことを思い出す。似た顔は世界に3人いるとはいえ、まさか転移した次元の先にいるとは思わなかった。AIなのが残念だが、もし会えるとしたら話でみたいとは思うのだ。このAIと城前の付き合いはあの最初のデュエル大会からである。城前が勝ち、AIが負けた。それからだ。

本来ワンキル館の広告塔となるべき存在が今回の対戦相手であり、城前が今まで集めてきた数多のデッキの対戦相手でもある。いつか城前がその役目を終えたとき、正史よりもはるかに高性能なAIがその代理を末永くつとめることになる。城前という存在が特別なだけで、あの子と館長が呼んでいる前任者以外に広告塔をさせるつもりなど関係者達はみじんも思っていないのである。少しでも精度を上げるため、城前も練習をするため、この1年と半年間、ずっとミラー戦やマッチ戦をつとめてきた相方みたいな存在でもあるのだ。ちょっとずつ自我といった面もブラッシュアップされ、ずっとずっと精度が良くなってきている。今回はどこら辺があたらしくなってるだろうか、と研究者達の努力の結晶を楽しみにしつつ、城前はデュエルディスクを構えるAIに併せてデュエルディスクを起動する。


城前とAIの間に存在するルビーのような赤い宵の明星が輝きだした。ビードロの中の銀の糸の一点のように、輝きがましていく。月明かりすら跳ね返し、星を銀砂のように細やかにきらめかせていた。銀河がほどけて、一気に広がり、天の川となる。天の川の波もときどき針のように赤く光った。ゆらゆらと青い焔のように波をあげる。


「おれの先攻みてーだな!いくぜー!」


城前はドローを宣言した。城前に感化される形でより近い人間に近い思考回路をするようになってきているAIは、手札事故を起こせばいいのに、なんて辛辣な冗談を飛ばしてくる。誰だよこの間の手札事故のデータをAIにぶちこんだやつ。


「こいつにおれの悪口ばっかり振り込まないでくださいよ!なんか最近おれんときばっか辛辣なんすけど、館長!」

「あほなプレイングするから悪いんだよ」

「それはそーだけどさ、無邪気に毒はかれると地味にきついんっすよ!」

「なら手本にふさわしいプレイングをするんだね」

「くっそー」


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