蓮は語る。
彼の生い立ち、GODの手を取ってしまった二度目の人生、そして途方も無いほど繰り返した世界線。
「ユーゴの末裔なのか……そうか、だから……!」
ユーゴが別の人格である、という遊矢についた嘘がわかったのか、とユートは小さく呟いた。蓮はユートの言葉に淡々とではあるが、どこか棘がある口調で返す。
「わかるに決まってるだろう、私がなによりのユーゴという人間が実在した証なのだから」
憤りすら混じり始めた言葉たちにユートはいいかえす言葉が見つからない。ただ耳を傾けるしかない。ユーゴの末裔たる蓮からすれば、伝説の決闘者として名を馳せるはずだったユーゴが遊矢の別人格として遊矢を第一に考える人間となっているのはやはり思うところがあるようだ。
気持ちはわかる。
今の遊矢の状況を間接的に生み出した勢力にいて、なかば既定路線だったにもかかわらず口にしてしまうくらいには耐えきれないものがあったらしい。
「だが、今のユーゴを作り出したのは自分たちだといってるくせにずいぶんと自分勝手だな」
「いくら歳を重ねようが最初の記憶からは脱却できないということだよ、あきらめてくれ」
「なるほど。若々しい老人も困ったものだな。ところでタイムパラドックスが起きないのは、GODの力か?」
蓮の存在はGODの力の性質を端的に表している。世界線はひとつで例外を認めないならば、蓮はそもそもやり直しを行うことが不可能である。どうあがいても夭折という結論にたどり着く。だが先祖たるユーゴと会ったのに消失しないのはGODが分岐点を作ることができることを象徴していた。そも、遊矢のきた世界が崩壊しているのに遥か未来の住人たる蓮たちが無事な時点で無限に世界線を生成する能力をもった存在なのだと想像するに容易いというものである。
「伝説の決闘者と、ユーゴと、私の起源にして憧れの存在とデュエルができた。しかも摘み取ってしまったプロとしての第一歩にささやかながら貢献できた。本来なら城前の前任者がすべきことだったんだがね、永遠に不可能になってしまったから。城前を成長させることもできたし、こういう機会をあたえてもらったことこそが、私がいままでやってきたことの集大成なのかもしれないな」
「……まさか、はじめからそのつもりで?」
「さてね」
蓮は笑うだけだ。
「城前は君たちにつくのか?」
「さあ、私からはなんともいえないな。なにせ城前は目的があって私達に近づいたに過ぎないし、達成しえると考えたから一時的に身を置いているにすぎないからね。しかもワンキル館の方針から微塵もブレない状態でだ。見切ったらあっさり抜けるだろう」
「それでもいいと?」
「私達は城前に城前としての価値を見出してはいないからな。私達は、彼が使うデッキとそのポジションがなによりも大事だ。前任者の代行であり、それ以上でもそれ以下でもない」
「城前はそれを知りながら近づいたのか……一体なにが」
「それは自分から聞くべきじゃないか、ユート」
蓮はDホイールを手に歩き出す。
「待て、まだ話は!」
「私は君に求められたことを話したつもりだ。あとは君が話すべきじゃないか?」
「おい、待て!」
ユートは追いかけようとするがDホイールに乗り込んでしまった蓮においつけるわけもなく、置き去りにされてしまう。ユーゴのDホイールを置いていくわけにもいかず、運転に微塵も自信がないユートは乗るわけにもいかない。結局蓮の姿は遠くに見えなくなってしまった。
「話さなければいけない相手か、いわれなくてもわかってるさ」
ユートはぽつりとつぶやく。
「それって誰だよ、もしかしてオレ?」
まさかの返事にユートはばっと振り返る。浮遊体の遊矢がいた。
「遊矢、大丈夫なのか!?」
思わず声が大きくなる。いつまでも帰ってこないユーリ、意識が沈んで帰ってこないユーゴ、心配はとうぜんだった。
「大丈夫もクソもあるかよ、バカーッ!」
遊矢の泣き叫ぶような声がひびいた。
いつかのように泣き崩れた遊矢を受け止めようとするがユートの手を遊矢はすりぬけていく。すぐ近くにいるのに慰めることすら叶わない現実にユートは絶望をにじませながら手を握りしめて俯いた。つたうものがあるがこぼれた熱さは遊矢を素通りしていく。
「はは、いつも私はこの損な役回りだな。勘弁してくれ。一度だってきついのに二度もこの役回りをしなきゃいけないのか」
自嘲じみた言葉がとけていった。そしてユートはこれからはじまる詰問に覚悟を決めるのだ。
そして20分ほど経過したころである。
『つながっ、やっとつながったー!!よかった、ねえ、遊矢!聞こえてる?私よ、柚子よ、柊柚子!……あれ、貴方は遊矢のもう一人の人格の』
「ユートだ、どうした?」
『どうしたもこうしたもないわよ!やっとみつけた!半年間もなにしてたのよ!?』
「悪い、それどころじゃなくてな」
『こっちは大変だったんだからね!赤馬社長は宇宙ステーションにいくとかいうし!』
柚子の言葉にユートと遊矢は顔を見合わせる。
「今なんて?」
『だーかーらー!今、赤馬社長は!宇宙にいるのよ!!それでさっきから誰かとデュエルしようとしてるの!!』
「なっ……ああもう、なんだ次から次から!今日はどれだけ忙しない一日なんだ!柚子、君は今どこにいる?」
『私?私はワンキル館よ』
ユートは背筋が寒くなる。
「なんで私たちの拠点がわかったんだ?」
『ふふっ、逆に聞くけど!半年間もマンホールが吹き上がる事件起こしといてよく場所が特定されないと思ったわね!いままでのルートを必ず通る地点はワンキル館だけじゃない!』
「……なるほど」
レオコーポレーションのシステムを使う以上、ワンキル館も同じライフラインをもつのだ。盲点だった、とユートは降参した。まさか黒咲たちと連絡を取り合っているとは思わなかった。
「君の言葉からして、ワンキル館のところから見れるんだな?」
『そう、そうなの!なんでか遊矢たちのライディングデュエルにつづいて、赤馬社長たちのデュエルも見えてるのよ!なにがなんだか!お願いだからはやく来て!!』
「ああ、わかった」
『遊矢にそうつたえてね!』
「だ、そうだ、遊矢」
『あーもう、名指しされちゃ出てこなくちゃいけないじゃないかあ!ユート、あとでじーっくり聞かせてもらうからな!』
「ああ、時間が許せばいくらでも話そう」
『またそういうこというー!勝手に消えたら絶対許さないからな、ユート!ユーゴが起きたらそういってくれ!』
「さあ、変わろうか遊矢」
『はあっ!?なんでだよ、ユート!今この流れで交代!?こっからワンキル館までどれくらいあると思ってんだよ』
「バカ言え、私はDホイールを止められるけど動かせない」
『なんでドヤ顔なんだよ、このやろう』
半ば強制移行である。運転に集中しなければ事故るのは遊矢も同じだ。このやろううまいこと逃げやがってとジト目で浮遊体のユートを睨む。転倒しなかっただけ立派だとは思わないかという、遊矢にいわせればとんでもなくハードルのひくい自画自賛になにいってんだよと眉を寄せた。
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