スケール14 しらない胎動
ドローを宣言したユーゴの口元がつり上がる。

「いいカードでもひけたかい?起死回生のカードが」

「ああ、いいカードが引けたぜ、蓮!この勝負に勝つのは俺だってこと、教えてやるよ!」

ユーゴの愛機が加速する。

「俺は魔法カード《スピードリバース》の効果を発動、墓地からスピードロイドモンスター1体を特殊召喚するぜ!来い、《SRアクマグネ》!!」

「そのモンスターは……?」

「今までの展開の中で墓地に行ってたカードだ、見せてやるよ!これが俺の答えだ、蓮!俺は速攻魔法《緊急テレポート》の効果を発動、手札・デッキからサイキック族モンスター1体を特殊召喚する!こい、《調星師ライズベルト》!」


ユーゴはこれで準備は整った、と笑った。


「まずは《調星師ライズベルト》のモンスター効果を発動、特殊召喚に成功したとき、フィールドに存在するモンスターのレベルを3つ下げることができるぜ。さあ、《白闘気双頭神龍》のレベルを3つ下げてもらおうか!」

「む……?何をする気なんだ?」

「まあ見てろって!ここで《SRアクマグネ》のモンスター効果を発動だ!こいつは自分のメインフェイズに召喚・特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる!そのモンスターとこのカードのみ素材として風属性シンクロモンスターを特殊召喚することができるぜ!」

「なっ!?」

「俺はレベル1《SRアクマグネ》にレベル7《白闘気双頭神龍》をチューニング!シンクロ召喚、レベル8!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!!」

蓮のフィールドからモンスターが消え去り、ユーゴのフィールドにドラゴンが出現する。

ユーゴの口元がつり上がる。それは勝利を確信した目だった。

「《SR赤目のダイス》を攻撃表示で召喚!このカードが召喚に成功したとき、自分フィールドの同名カード以外のスピードロイドモンスター1体のレベルを1から6に変更することができるぜ。俺は《SRベイゴマックス》をレベル4に変更すると宣言!さあいくぜ!」

自慢のマシンがうなりを上げる。

「俺はレベル1《SR赤目のダイス》にレベル4《SRベイゴマックス》をチューニング!シンクロ召喚!現れろ、レベル5!《HSRマッハゴー・イータ》!!」

両翼を広げ、輝く機体がユーゴの上空に舞い上がる。

「そして、フィールドに風属性モンスターが存在する場合、俺はこのカードを特殊召喚することができる!こい、《SRタケトンボーグ》!攻撃表示で特殊召喚、モンスター効果を発動だ!デッキからスピードロイドチューナー1体を特殊召喚することができる!こい、《SR電々大公》!」

ユーゴにフィールドにはふたたびモンスターとチューナーが並ぶ。

「俺はレベル3《SR電々大公》にレベル5《HSRマッハゴー・イータ》をチューニング!シンクロ召喚、来い、レベル8!《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!!」

大きな風を産み落とし、巨大なドラゴンが咆哮する。

「ここで《SR電々大公》のモンスター効果を発動だ、墓地のこのカードを除外して同名カード以外のスピードロイドチューナーモンスターを1体、手札・墓地から選んで特殊召喚することができる!俺は手札から《赤目のダイス》を特殊召喚!!そして《HSRマッハゴー・イータ》のモンスター効果も発動するぜ!自分のフィールドにスピードロイドチューナーモンスターがいる場合、こいつを墓地から特殊召喚することができる!戻ってこい、《HSRマッハゴー・イータ》!」

ふたたびユーゴのフィールドはシンクロ召喚の構えである。

「俺は《赤目のダイス》の効果で《HSRマッハゴー・イータ》のレベルを5からレベル6に変更!さあいくぜ、《三つ目のダイス》にレベル5《HSRマッハゴー・イータ》をチューニング!シンクロ召喚、現れろレベル7!《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》!!」

「さあ、バトルだぜ、蓮!これでとどめだ、一斉にダイレクトアタック!!」




ふらりとユーゴの視界がかすむ。

『おい、大丈夫か?』

静観していたユートだったが、さすがに挙動がおかしいユーゴに気づいて声をかける。

「な…んだ……?急に……前が……」

『ユーゴ、ユーゴ、おい、しっかりしろ!』

「ああくそ、駄目だ」

『ちょ、待ってくれ、私は遊矢みたいにDホイールの使い方レクチャーされたわけじゃっ』

ユートの声はほとんど届いていないようだった。ほとんど無意識である。クラッシュしないように姿勢を変え、スピードを緩めていく。どういう風に乗るのか、話で聞いたことがあるだけのユートはぎょっとするがユーゴは返事をすることすらできないようだ。消失とは違うとユートは感覚的にわかる。これは以前あった遊矢と症状がよく似ている。疲れが溜まっていたのか、それとも現出できないほどのエネルギーを消費したのか、消失とは感覚的に違うけれど言葉にするにはとても難しい。それがあった。

「ああくそ、クラッシュしても文句はうけつけないぞ、ユーゴ!」

意識の奥に沈殿していったユーゴの代わりをつとめろと引き込んでくる感覚にユートは舌打ちをした。

ぐらりと意識を持って行かれそうになる。

「なんだこの感覚は……!」

ユートはかろうじて持ちこたえ、ユーゴが教えてくれた方法を半ばやけになりながら実行する。心臓の音がやけにうるさい。まるで心臓の鼓動が外にまで響いてしまうのではないか、あるいは胸にあるはずの心臓が頭の中にあるのではないか、と錯覚を起こしてしまうほどすさまじい衝撃が襲う。鼓動は大きくなるばかりで小さくなる気配はない。どく、どく、とそれだけ緊張しているのかと思ったが、先ほどまで白熱したライディングデュエルをしたのだ。ユーゴの精神状態をひきついだといっても過言ではないユートはその高揚感のまま装甲しているのかもしれない。

ゆっくりスピードを落とし始めたDホイール。ああ、よかった、この調子でいけば、とユートは安堵する。だが、ひたすらぐるぐるまわるだけの加速器内部の空洞に、不自然な影が映りこんだ。気のせいかと思ったが、どうも違う。だんだん大きくなり始めた影がユートの影を覆い隠してしまう。そして先に通り過ぎていった。

(なんだ?)

やがてDホイールは遅くなっていく。停止の仕方にまごつきながら、なんとか転倒はまぬがれた。

(なんの音だ……!?)

心臓の音だと思っていたが、ここまで来ると違うと断言できる。まるで空間全体が呼吸しているようだった。あってはならない胎動だった。ぞわぞわした冷たい汗がつたっていくのがわかる。ユートは呼吸が荒くなるのがわかった。ユートの目の前をなにか巨大な、全景をとうてい望むことができそうにないほどおおきな、陰影が走り抜けていったのだ。

「なんだ……あれは……」

立ち尽くすユートの先にいたのは蓮だった。

「ユーゴは……そうか、表に出てこれなくなったんだな」

「お前……ユーゴになにをした!」

「勘違いしないでくれ、私はなにもしていない」

「私は……だと?」

「そう、私はなにもしていない。あえていうなら、ユーゴもなにもしていない。あえて言うなら、場所が悪い」

「場所……?」

ユートはあたりを見渡す。

「これが目的なのか」

「そうだっていったらどうする?」

「まさか……あの影は!」

はるか遠くの闇にとけていった影を見て、ユートは叫ぶ。

「ああ、あれこそが私たちが追い求め、君たちが何が何でも覚醒を阻止したい神の幻影さ」

「どうして……アダムの因子というものを持っているのは遊矢と赤馬零児だけじゃないのか!?」

「そうだとも。だが、忘れてはいないか、ユート?かの神は質量をもった立体幻影を極限まで使っていた君たちの次元でこそ出現することが叶ったということを」

「まさか……ここをデュエルの舞台にえらんだのはそのため……?」

「そう、まさしくそのとおり。そして、君たちには私の仮説を確かめるために協力してもらったというわけさ」

「なんだと……」

ユートは身構える。蓮は静かに笑うだけだ。

ライディングデュエルはただでさえ一度のデュエルエネルギーが大きいのだ。それにアクションデュエルの要素も加わると、それはもう桁違いに大きいエネルギーが生まれることになる。今回、遊矢と城前、ユーゴと蓮、連戦となったことでモーメントは大きく躍動し、加速器内は一時的に質量の生成量が爆弾的に増えた。

「ユーゴが浮上できなくなったのは、おそらくかの神にデュエルエネルギーを吸収されたからだろうね」

「大丈夫なのか」

「私も、ユーゴも、アダムの因子を持たないからね。かの神は覚醒を阻止する楔を取り込もうとするが、他の人間からはせいぜいデュエルエネルギーを搾取する程度だ」

「まて……ということは、もし遊矢や赤馬零児がいまここにいたとしたら、取り込まれてしまうということか!?」

「さすがにそこまではわからない。私たちは実際にアダムの因子が取り込まれるかどうか、見たことはないからね。だが彼らが望もうと、望まざると、G・O・Dは彼らを誘うだろう。果たして、彼らはその誘惑に打ち勝てるんだろうか。邪魔立てする者たちを許しはしないからね」

「どういうことだ、わからないのに知ってるような口ぶりだな」

「イヴは見たからね」

「何をだ」

「遊矢はG・O・Dを見つけたのは榊遊勝、赤馬零王だと勘違いしているが、それは違うんだよ。かの神を見つけたのはアダム、魔術師であり科学者でもあったイブの恋人だ」

「アダムだと?まさか実在してたのか?」

「ああ、そして2人は見つけるよう私たちが手引きをしただけだ」

「それはどういう……」

ふふ、と蓮は笑う。君は質問ばかりだなと。

「私もこの目で見るのは初めてだがね、私の想像以上のことをしてくれたよ、君たちは。そういう意味では感謝してる」

「お前はユーゴに負けた。あらいざらい離して貰うぞ」

「ああ、もちろん。私はあの姿が、この鼓動が。しっかりと耳に届いただけで十分だ」

Dホイールに降り立ち、蓮は笑う。

「いい加減、そのヘルメットを外したらどうだ」

「そうだな」

あっさりと蓮はフルフェイスのヘルメットを外してしまう。

「おま……えは……!」

そこにはユーゴそっくりの男の姿があった。


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