スケール12 ユーゴVS蓮
レーザーワイヤーや有刺鉄線が巻き付けられた金網の防御線、電動式バリアのある警備員付きの入口、そして縫い目がないように張り巡らされた監視カメラを見つめる監理室。そういったものを通り抜けていくと、暗い通りは一定間隔で一戸建てあるいは二世帯住宅が並ぶ。どれも代り映えのしない何もかもが同じ立方体で小ぢんまりとしたもの、申し訳程度に庭が整備されている。標識や街灯が設置された交差点を通り過ぎ、ライフラインを提供する設備が設置してあるエリアを抜け、様々な医療施設がある通りを曲がり、郵便局、ガソリンスタンド、政府やレオコーポレーションが発行したナンバーを付けた車両ばかりがならぶ駐車場を横断する。軽食の専門店、軍の売店、コインランドリー、クリーニング屋、銀行、レクレーションエリア、映画館、図書館、公共の公園、そして学校、宗教施設。敷地内を巡回する警備車両とすれ違う。どこへ行こうがこういった昔基地だった中での暮らしは代り映えのしないのが通例だ。質量を決定する粒子を生成する施設という機密情報の塊である施設はどこまでも広大で、中で生活する人間をこれ以上なく優遇することで機密性を保持しているのは、今も20年後も変わらないらしい。便利な施設を内部に多く存在した自立した共同体は、あらゆる天気や気候、場所や季節、地域の環境問題と内部を一切かかわらせない構造をしている。かつて軍事基地としての側面もあったからだろうか、この施設を保有するにいたったこの国の歴史を象徴するように、さながら小さな町のようだとユートは思った。物質を自由に扱うも同然の技術の前には、どんなに立派な防衛線もまるで意味をなさない。

でこぼこした波形金属製の防爆キャップのついた、補強された昇降口がみえてくる。地下に降りるはしごなど目もくれず、蓮はその先にあるはずの内側から施錠するタイプの主要ハッチに干渉するプログラムを展開した。内側のロック機構は簡単に突破され、強固な壁はただの扉となり、主要施設に通じる狭い通路はライディングデュエルの開始を阻害する。鍵のかかったキャビネットがある武器庫を通り過ぎ、あらゆる武力的、科学的、生物的危険に耐えられるよう設計され、補強されたであろう物々しい施設の入り口を突破していく。平たい天井がやがて曲線を描く天井に変わった時、ライディングデュエルは開始された。

「・・・・・・遅い、遅すぎる。何をしてるんだ、ユーリ」

精神体とはいえ、視認できる程度の輪郭と色はついていたことを知るユートは、Dホイールがその向こう側に透けて見えてしまう手のひらを強く握りしめた。

「もう何ターン目だと思ってるんだ」

ユートはぼやく。未だに精神世界から浮上してこないユーリが心配だが、動くに動けないのだ。ライディングデュエルはユートはてんで専門外である。現状を知らせようと外に精神体として出たところでユーゴの邪魔にしかならない。だからといってユートと蓮のライディングデュエルを見守る人間がいなくなるともたらされるだろう可能性を考えると。聡明な頭脳は時として行動を抑制する。今ユートにできることは、もしもを想定して蓮のデッキがどんなものなのか、特定することくらいだ。

ここは質量を決定する素粒子を生成する加速器内部なのである。ここならばどんなアクションデュエルを行ったとしても、再現することが可能だ。そして#城前#が蓮と共にいたことを考えるとワンキル館の影がちらついてくるのだ、ただで終わるわけがない。遊矢を守るためには何としてでもこのライディングデュエルに勝たなければならないのだ。自分たちはどうなっても構わない、というのがユートたちの共通認識だったが、今までになく薄れていく手のひらに焦燥感ばかりが浮かぶ。

ユートが初めて見た蓮の使用する《白鯨》たちは、召喚に成功したターン直接攻撃できるルール効果、墓地から特殊召喚に成功した場合に、チューナー化する誘発効果を持つ、驚異的な連続シンクロ召喚を行うテーマカテゴリだった。

ユートはユーゴのデュエルを追いかけながら、そのモンスターを確認する。輪廻シンクロと名付けられたシンクロモンスターたちは、悠々と加速器内を泳いでいる。

《白闘気海豚》
シンクロ・効果モンスター
星6/水属性/魚族/攻2400/守1000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):1ターンに1度、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の半分になる。
(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、
このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を除外して発動できる。
このカードをチューナー扱いで特殊召喚する。


ユーゴの反応からするに、一度目のライディングデュエルですでにお目見えしたカードのようで、対策は万全とばかりにメタとして投入したカードが活躍する。除外されたものの、その程度は看破積みだとばかりに想定される仮想カード対策に蓮も投入していたらしいカードがそれを阻害する。水属性・魚族のシンクロモンスターは、相手モンスターの攻撃力を半分にする起動効果、相手によって破壊された場合にチューナー化して自己再生する誘発効果を持つようで、次々とフィールドが水属性モンスターで埋め尽くされていく。

そして、イルカは水属性モンスターをチューナーとして墓地から蘇生し、新たなシンクロモンスターを呼び出す。こちらもすでにユーゴは知っているのか、驚きはしない。

《白闘気白鯨》
シンクロ・効果モンスター
星8/水属性/魚族/攻2800/守2000
水属性チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上
(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。
(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。
(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(4):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を除外して発動できる。
  このカードをチューナー扱いで特殊召喚する。
 
 シンクロ召喚に成功した時に攻撃表示モンスターを全て破壊する誘発効果、2回の攻撃効果、貫通効果、相手によって破壊された場合にチューナー化して自己再生する誘発効果を持つようだ。シンクロ素材は水属性縛り、水属性のデッキなのは間違いなさそうだった。《王魂調和》や《王者の調和》といったカードを駆使するあたり、世界を征するほどの実力者かもしれないというユーゴの予想は当たっていたと知る。

《水晶機巧−クオンダム》の効果でシンクロ召喚した蓮は、ユーゴのモンスターをユーゴのメインフェイズだというのに攻撃表示モンスターを全滅させてしまう。2回攻撃で仕留め損ねたモンスターも、貫通効果で掃討。自己再生を含めた蘇生や帰還で使いまわす蓮のデッキではアタッカーを担っているようだった。守備モンスター、攻撃モンスター双方にもたらされる殺意。そこに真っ向から立ち向かうユーゴは、どこか楽しそうでもあった。決着をつけることができなかったことはよっぽど悔しかったらしい。イルカと同じく、コストがあれば何度破壊されても復活するので実質破壊耐性も持ち合わせている。

そして、さらに《白闘気白鯨》が破壊され、チューナーと化した水属性モンスターとのシンクロ召喚が宣言される。ここで初めてユーゴは動揺を見せた。

そして繰り出された二つの頭を持つ竜《白闘気双頭神龍》は、高らかに咆哮する。《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》のモンスター効果により、《白闘気双頭神龍》の攻撃力と効果が無効になる。だが、《クリアウィング・ファスト・ドラゴン》の攻撃で破壊されたはずの《白闘気双頭神龍》は、なんと破壊されずにフィールドに残ったままだ。アクションカードの効果で二度攻撃を仕掛けてきたではないか。どういうトリックだ、と思わずユートは身を乗り出す。《白闘気双頭神龍》の首がそれぞれモンスター効果と攻撃力を持ったモンスターなのだろうか。フィールドにいる《白闘気双頭神龍》のソリッドヴィジョンはどうみても1体だが、フィールドとしてはシンクロ召喚時にシンクロモンスター扱いのトークンが出現している扱いなのだろうか。それともフィールドを離れた場合、その時点で攻撃力と効果が戻って、すぐに帰還、あるいは蘇生する能力でもあるのだろうか。それを確認する術をユートは持たない。




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