スケール5-4 水上疾走
「このコーナーのアクションカードはオレがもらった!」

よし、と意気込んだ遊矢が通過するとAのフィールドは消え去る。

追従してくる城前のターンが回ってくる。《昇竜剣士マジェスターP》のエクシーズユニットが取り除かれ、エクストラデッキにおかれている《竜剣士ラスターP》が守備表示で特殊召喚された。《EMモンキーボード》なるペンデュラムモンスターがペンデュラムゾーンにおかれる。そしてデッキからサーチという強力なペンデュラム効果が発動。すでにセッティングされていた《EMリザードロー》と合わせて怒濤の特殊召喚ラッシュの幕開けとなるペンデュラム召喚が行われた。《爆竜剣士イグニスターP》2体がふたたびフィールドに舞い戻る。

「やっぱりきた・・・・・・!」

遊矢はすかさず罠カードにより《爆竜剣士イグニスターP》のうち1体を破壊することに成功するが、モンスター効果により、遊矢のペンデュラムゾーンは1枚剥がされた上、次なる布石のためだろうか。遊矢の伏せカードが1枚バウンスされてしまう。そしてモンスター効果によりデッキから新たな《竜剣士》モンスターが1体フィールドに守備表示で特殊召喚される。フィールドにペンデュラム召喚された《EMペンデュラム・マジシャン》のモンスター効果が発動され、ペンデュラムゾーンにある《EMリザードロー》を破壊し、もう1枚の《EMリザードロー》をサーチしてセッティングした。

レベル4《竜剣士ラスターP》と《竜剣士マスターP》がオーバーレイし、《No.39希望皇ホープ》がエクシーズ召喚される。そして《No.39希望皇ホープ》でオーバーレイネットワークが再構築され、《SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング》がエクシーズ召喚された。

遊矢の《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》の前に、3体ものモンスターが襲いかかる。

「ただで終われるもんか!《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》のペンデュラム効果を発動!《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》と《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を入れ替える!そして《オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚!モンスター効果を発動だ!《No.38希望皇ホープ・ザ・ライトニング》のモンスター効果を無効にする!」

それでも《爆竜剣士イグニスターP》と《昇竜剣士マジェスターP》が襲いかかる。

「アクションカード発動!《奇跡》!自分フィールド上のモンスター1体は破壊されずダメージを半分にする!」

かろうじて防ぎきった攻撃である。それでも次のターンで決着をつけなければ、防戦一方の遊矢は間違いなく負ける。遊矢は早まる鼓動を感じながら、ドローを宣言した。

「オレは速攻魔法《揺れる眼差し》の効果を発動!お互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊する!そしてこの効果で破壊したカードの数によって、フィールドのカード1枚を選んで除外できる。オレは《爆竜剣士イグニスターp》を除外だ!」

城前のフィールドからモンスターが光の粒子となり消えていく。

「オレのエクストラゾーンに3枚以上のペンデュラムモンスターがいるから、この魔法カードを発動する!《ペンデュラム・ホルト》!2枚ドローだ!」

そして遊矢はカードを二枚かかげる。

「ライトペンデュラムゾーンに《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》、レフトペンデュラムゾーンに《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》をセッティング!ペンデュラム召喚!さあ、力を貸してくれ!もう一体ののオレのエース!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》!そしてふたたびフィールドに舞い戻れ!《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》!」


遊矢は高らかに宣言した。


「バトルだ、城前!《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》で《SNo.38希望皇ホープ・ザ・ライトニング》を攻撃!この瞬間、オレはペンデュラムゾーンの《オッドアイズ・ファントム・ドラゴン》のペンデュラム効果を発動!もう片方のペンデュラムゾーンにある《オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン》の攻撃力分《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力を上昇させることができる!よって《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》の攻撃力は3700!轟け、《螺旋のストライクバースト》!そしてこの瞬間、《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のモンスター効果を発動!相手モンスターと戦闘を行う場合、城前に与える戦闘ダメージは倍になる!いけ、《リアクションフォース》!」

虹色の閃光があたりに四散した。

「《オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン》のモンスター効果を発動!エクストラのペンデュラムモンスター×1000ポイント分《昇竜剣士マジェスターp》の攻撃力をさげる!これで攻撃力はゼロ!これで終わりだ!」

遊矢の勝利を告げるブザーが鳴り響き、モニタにはYOU WINの言葉が並ぶ。城前のライフポイントはゼロであり、ライディングデュエルの勝者は遊矢であることを知らせている。さあて、この状況はどういうことなのか説明願おうと遊矢は城前の前に立ちふさがる形で旋回した。

質量を持たない立体幻影であろうとも、世界を焼き尽くすような強烈な光の濁流に呑まれた城前は、一瞬にして視界不良となる。ただでさえ深淵が広がる地下水道のライディングデュエルだ。肉眼はその環境に適応しており、オッドアイの双眸が美しいドラゴンの必殺技が直撃してはまぶたの裏に残像が強烈に焼き付いて離れてくれない。ハンドルを取られたのだろうか。それともタイヤに張り付く水を上手く捌けなかったのだろうか。城前のDホイールの挙動がおかしい。不自然な機動で斜めに向かって走り出し、加速するスピードはそのままだ。

「ちょ、ぶつかるって、城前!?」

『おいおい、やばくないか、あれ!?』

さすがにクラッシュを想像してしまう走行に遊矢とユーゴは慌てる。今持っているすべての疑問をぶつけるために城前にデュエルを挑んだのは事実だが、事故にあってほしいなど一度も思ったことはない。たまらずハンドルをきり、引き返そうとした矢先、その不自然な機動のままフルスロットルをかました未来のDホイールは、大回転という曲芸でもって遊矢たちの頭上を越えていった。すさまじい水しぶきが飛ぶ。遊矢はその余波に煽られて危うくハンドルがぐらつくがなんとか持ち堪えた。

「む、むちゃくちゃなことするなあ!?なんだよ、城前の奴!人が心配してるってのに!」

たまらず叫んだ遊矢は追いつこうと再びライディングデュエルを再開する。

『・・・・・・おかしい』

ユーゴの声が低い。遊矢は思わず聞き返した。

「え?」

『ぜってえおかしい。あれはどう見ても事故る挙動だった。なんで持ち直せたんだ?』

ユーゴのDホイーラーとしての勘が告げていた。強烈な違和感はぬぐいようのない形で存在している。今までのライディングも、今行っている城前のデュエルもプロのDホイーラーのそれなのだが、先ほどのクラッシュ未遂はあまりにもお粗末すぎるのだ。もし仮に城前が本当にあの技術を持っていて、今まで隠していて、何らかの事情があり今ここで披露しているとして、ユーゴに言わせれば絶対にあり得ないミスなのだ。アクションデュエルが導入されたライディングデュエルにおいて、モンスターの攻撃等のエフェクトによる妨害など想定される基本中の基本だ。ましてこのライディングデュエルは質量を持たない前時代の立体幻影で行われている。光の攪乱程度でハンドルを取られるなど、実物と寸分違わぬモンスター達の猛攻をかいくぐりながらデュエルをすることが日常茶飯事だったはずのDホイーラーにはあるまじきイージーミスである。もしかして、城前じゃないのではないか、という疑惑がユーゴの中に浮かんだ。

「つーかどこ行くんだよ、城前!オレ勝ったんだから、話くらい聞かせろってば!」

そのまま行ってしまうDホイールに慌てて遊矢は追尾を再開する。

さすがにおかしいと遊矢も思った。いつもの城前だったら、ヘルメットを脱いで真っ先に遊矢のところに向かうはずだ。もう1度再戦を申し込むかもしれないし、ライディングデュエルができるなんて聞いてねえぞと、遊矢たちが聞きたい同じことをぶつけてくるかもしれない。あるいは驚いたかってケラケラ笑うかもしれない。遊矢たちに正体がばれるようなことをしておきながら、わざとらしく無視して立ち去ろうとするなんて、さすがにおかしすぎる。城前であることを印象づけたいような挙動である。偽物では?あるいは城前に似せて作られたAIでは?レオ・コーポレーションに無断でペンデュラム召喚を研究するような施設だ、実は質量を持たせる立体幻影を自在に操作できるようになっているのでは?いろんな可能性が浮かんでは消えていく。

「なんだよ、城前の奴、へんなの!」

追いかけろっていってるようなもんだよねと遊矢は笑った。

『遊矢』

「ん?どーしたんだよ、ユーゴ」

『かわってくれ』

「え?」

『つーかかわれ、返事は聞いてねえ』

「ええええええっ!?なんだよ、急に!?」

一瞬の浮遊感だった。遊矢は気づけば肉体からはじき出され、Dホイールの隣に浮遊している。先ほどまでいたDホイールにはユーゴがポジションチェンジしていた。ユーゴはいつになく真剣なまなざしで愛機に体を預け、一気に加速する。肉体と精神の離れていられる距離はそう遠くはない。引っ張られるような形で隣を並走する羽目になった遊矢は納得いかない。たまらず反論する。

『なんでだよ、ユーゴ!これは城前とオレのデュエルだろーっ!?ここはもう1戦する流れだろ、なんで!?』

「いーから黙って見てろよ、遊矢!」

『はあっ!?』

「今の城前は城前じゃねえ。さっきと走行パターンが違いすぎるんだよ!誰かが城前のデュエルディスクにハッキングして遠隔操作してるんだ!」

『えっ!?』

「あの走行は俺様の獲物だ!」

『まさか蓮!?』

「ああ、多分な」

『えっ、なんでそんなこと』

「俺が知るかよ。そんなことアイツを倒して吐かせればいいんだ。これは俺様のプライドがかかってんだ、ちょっと黙っててくれ」

『・・・・・・わかったよ。ユーゴがそこまでいうなら』

「サンキュー、遊矢。そんでごめんな」

『え?』

遊矢の意識は遠ざかっていく。

「こっからの会話はお前にだけは聞かれたくないんだ。許してくれ、遊矢」


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