完二のシャドウが鮮やかな光につつまれていく。その姿は消え去り、かわりにその光がひとつのカードとなって完二の手の中に降りてくる。なんだなんだと完二はカードを手にした。
「んだこれ?」
「おめでとう、巽。自分のトラウマと向き合って力を手に入れた証だよ」
「マジっすか!よっしゃ!」
巽が嬉しそうに見せてくれたのは、一人の男性が王冠をかぶり玉座に腰掛け王笏を手にしている構図のカードだ。
男性はこちらに体の左側面(無意識の側)を向けゆったりと足を組み、自分の内面をさらけ出すことになんらためらいを見せない堂々とした態度である。
だが身体や玉座の向きなど全体の構図が左(象徴的に過去・内面)を強調していることから、一見すると隠者などと同様にやや後ろ向きな、内向的な印象を受ける。
しかし、「地上的な現実」を表すとされる球体と、「霊」を表すとされる十字架を取り付けた黄金の王笏は男性の目線と同じ高さに掲げられている。
これは社会を常に先見的立場から先導する理想的な指導者を描き表し、男性=父権とあわせて「社会的権力の象徴」として解釈を行っていくのが一般的である。
たしか意味は支配、安定、成就・達成、男性的、権威、行動力、意思、責任感の強さ、軸。
責任感の強さは完二らしい。
きっともうひとりの自分を受け入れたことで、頭の中にシャドウからペルソナに昇華された自分の声がそのペルソナの名前を教えてくれたのだろう。
カードを握りしめた完二は前を見据えた。そして叫ぶのだ。自分を助けてくれた月森たちを助けるために。
「来い!タケミカヅチッ!」
それは巽完二専用ペルソナ、タケミカヅチのカードだった。真っ黒な鋼鉄のボディに感電をイメージした骸骨の文様という、デザインが成されており、手に持った稲妻形の鈍器を武器に戦う。 ジオ系と物理攻撃スキルを中心に覚えるが、SPの伸びが悪いため燃費が悪いの欠点。
しかしLv70から怒涛の成長を見せる大器晩成型でもある。 コミュMAX時にはロクテンマオウへ転生する。ペルソナ4の仲間の中では1番大きい巨体のペルソナである。アルカナは皇帝、電撃属性、物理攻撃を得意とする。
イザナギによって殺された炎神ヒノカグツチの血から生まれた神だ。雷神・刀剣の神・弓術の神・武神・軍神として信仰されており、代表的なところでは茨城県鹿嶋市にある鹿島神宮において祭神として祀られている。
彼が最も活躍したのは、古事記収録の『国譲り』事業のときである。
天照大御神が大国主神に葦原中国(地上世界=日本列島)を天津神に譲らせる交渉をするために遣いを出すが、幾人もの使者がその事業に失敗し、状況は混迷を極めていた。
その最後の使者として派遣されたのがタケミカヅチであり、彼は切っ先を上にして突き立てた剣の上で刺さらずに胡坐を掻くという芸当でオオクニヌシに譲渡を迫る。
オオクニヌシは二人の子息に意見を聞くように求め、長男のコトシロヌシは譲渡して船に隠れたが、次男は違った。
タケミカヅチからの理不尽な要求である国譲りに最後まで抵抗した建御名方神は戦いを挑むが、神通力を使えるタケミカヅチに敵わず、敗れて逃げ回るタケミナカタをトコトンまで追いまわした末に、科野国の州羽の湖まで追い詰め、諏訪から出ないことと父兄に従い中国を天津神に譲る旨をタケミナカタに誓わせた。
この取っ組み合いは相撲のルーツの一つとされている。
余談だが最初の方の戦いは、神通力を使っているだけあって描写的にはどちらかと言うとSUMOUに近い。そもそも冷静に見てみると卑怯な戦い方でもあるが、古事記、日本書紀では基本勝てば官軍敗ければ賊軍である。
また布都御魂剣はタケミカヅチの化身ともされ、神武天皇が東征事業で危難に遭った際に布都御魂剣を神武天皇の下に遣わし、熊野の悪神を退けるのに助力したとされる。
「クマ、今のイシュタムはどんな状態?」
「およよよー!?いつのまにカンジがペルソナに目覚めたクマかッ!?すごいクマね!?自分でペルソナに目覚めちゃうなんて!!あ、もしかして助太刀に来てくれる感じクマ?」
「うん、巽はそうしたいみたいなんだ」
「りょーかいクマッ!イシュタムはねー、何回倒してもリカームで復活しちゃうから、頑張って状態異常にもっていこうって話になってるクマ!」
「状態異常か......」
私はリヒトさんをみた。神薙のシャドウと交戦状態のまま、こちらに被害が出るのを抑えてくれているようだ。
「今ならいけるかもしれない」
私が吊るされた男のカードを出すと熊川があわてたように近づいてくる。
「アキちゃん、そのカード出しちゃダメクマーッ!カンジはペルソナに出来たけどアキちゃんはまだシャドウのままクマッ!今降魔しちゃったら、コトシロヌシのグリムリーパーの標的になっちゃうクマー!!」
「でも、攻撃による追加効果を待ってたら、イシュタムに押される一方だろ、クマ。イシュタムは魔法攻撃が強力だってリヒトさんがいってたじゃないか」
「むぐぐぐぐう......でも......でもぉー......せんせ」
私はクマの口を塞いだ。ついでにこれ以上邪魔するなら槍で刺すからと脅しながらアイテム袋を渡してやる。ヒルコが暴れるには邪魔だろう。だいたい今月森を呼ぶな。イシュタムの意識がこっちにないのが絶好のチャンスじゃないか。月森たちの戦いの邪魔をするんじゃないよまったく。私の妨害にクマはえー!?という反応をしているが痛いのは嫌なのか大人しくなってくれた。
「か、神薙先輩......こいつは......いや、それよりペルソナだっけ?その力が使えるんじゃなかったんすか?なんで、あれ?」
「混乱させてごめん、巽。実は私、まだトラウマと向き合って力にできてないんだ。だから後衛にいるんだよ」
「ま、マジっすか!?なのに俺にわざわざ説明まで......あざっす!でもそれなら神薙先輩がいったら危ないっすよ!」
「うーん、なんというかね、小学生の巽みたいに協力的だから大丈夫だよ」
「でもこのクマ......クマ?このもふもふがいってることがホントなら、あの偽モンに狙われる可能性があるってことッスよね?!」
「そうだね、でも今はリヒトさんが抑えてくれてるみたいだし、今しかチャンスがないともいえる」
「............あの人、リヒトっつーんすね」
「私たちより10年先輩のペルソナ使いだよ」
「マジっすか?!」
「あの人のおかげでわかったんだけど、私がトラウマをペルソナにできないのは、あの偽物が私のトラウマを奪ったからなんだ」
「なっ!?」
「小学生の巽に誰かが取り憑いてるって考えたらいいよ」
「だったらなおのことダメじゃないっすか!もし操られたら......」
「今んとこ大丈夫だよ。でももし操られちゃったら、タケミカヅチの鈍器で殴ってくれたらいい。いや、ジオ系が弱点だから魔法攻撃でもいいかもな。巽が止めてくれ」
「んな無茶苦茶な......」
「なんてね。私たちは専用のペルソナの他にもみんなが使えるペルソナをひとつもてるんだ。そいつはヒルコよりレベルが高いからいざという時にはとめてくれるよ」
「神薙先輩、意外と度胸ありますね」
「あはは。がカードを使うとさっきの小学生の巽みたいなやつに意識を乗っ取られちゃう。でもこのままじゃジリ貧だ。私があいつを状態異常にするから、巽は物理攻撃で一発お見舞いしてやって」
「え、あの、神薙先輩ッ!」
私はカードを発動した。
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