ペルソナ4 16
5月14日土曜日夕方、私たちはご飯を食べながらテレビを見ていた。いつもなら祖父母が好きな相撲のため公共放送が固定チャンネルなのだが、最近は無理を言っていつものニュースを見るためにこの時間だけ民放をみている。ニュースが終わった瞬間にチャンネルが変えられてしまうので毎日見逃さないように気をつけていた。

じっと見ていた私はお目当てのニュースがうつって食い入るように見つめる。

男性アナウンサーのそれらしいアナウンスとテロップが映し出される。過剰な演出と特定思想に偏りすぎなこのニュース番組が祖父は嫌いなようで眉を寄せている。祖母は気にせず食べていた。

静かな街を脅かす暴走行為を誇らしげに見せつける少年たち。そのリーダー格の1人が突然カメラに向かって襲いかかった、と編集が入る。

「見せもんじゃねーぞ、コラァっ!」

例によって意味を為していないモザイクの犠牲者は巽完二である。ここにいたるまでのマスコミの挑発行為が透けて見えた。

「あれ、巽さんとこの完二くんじゃない?」

「また派手にやってるなあ、これじゃあ暴走族だ。暴走族を潰す高校1年生のが絵になるがさすがに未成年だから出せないのかね?」

「そこまで知らないんじゃないかしら?たぶん警察について行った先の取材でしょうし、どちらでもいいのよ」

「そりゃそうだ、みんな補導されちまったみたいだしな」

パトカーに連れていかれる暴走族たち、みたいな終わり方をしているのを見ながら、私はリモコンをねだった。

「あら、もういいの?」

「うん、大丈夫。それよりさっきの子、俺の後輩ってほんと?」

チャンネルを公共放送に帰ると幕内力士の取り組みが始まったところだった。

脱色した髪をオールバックにした183センチの高校1年生はどこをどう見てもガラが悪い暴走族にしか見えない。しかも目つきが悪く、耳と鼻にピアスをしており左こめかみに傷跡と一見近づきがたい風貌をしているのだ。初めて見るがこの番組が警察24時をパロっているせいか、モザイクと音声がそれっぽいから困る。これは巽完二について事前情報がなければ勘違いするしかないよなと思うのだ。まともな人間ならばまず近寄らない。

「あはは、たしか183だったっていってたよな?巽屋の女将さん」

「そうねえ。たしかハチコーの1年の3のはずよ」

「1の3かあ、松永の隣のクラスだ」

「前いってたブラバンの後輩ちゃん?」

「うん、そう」

「巽君のおうちは老舗の染め物屋さんでね、私もお祝いごとのたびにお世話になってるのよ。晃ちゃんも成式するときは買ってあげるからね」

「えー、男はスーツでいいだろ」

「やあね、袴もなかなか似合うと思うわよ」

「いや、レンタルでいいよ、恥ずかしい」

「おじいちゃんたちが出すんだから晃は心配しなくていいんだよ。ヒロキにも使えるしな、かっこいいの仕立ててもらうといいよ」

「じいちゃんまで......」

面映ゆい。照れてしまった私はテレビをみた。

「これ、どこかな」

「うーん、どこかしらねえ。巽君まだ高校1年生だから近くだと思うけど」

「商店街の先にある高速とバイパス、国道が重なってるとこじゃないか?」

「ああ......交通事故が多いとこね」

「去年もニュースになってなかったかなあ。お袋さんが眠れないからって毎晩走ってた暴走族に殴り込みして、ひとりで潰したとかなんとか」

「気持ちはわかるんだけどねえ......。でも挨拶はしてくれるし、いい子よ」

「反抗期ってやつだよ、反抗期。火炎瓶投げたり、バリケード作ったりする連中に比べりゃましさ」

「いやだわあ、いつの話をしてるの。今は平成ですよ」

外は雨だ。私はマヨナカテレビを見ることにした。

不鮮明だが予告にうつっていたのは、やはり巽完二だった。






5月16日月曜日放課後

「えー、それでは、稲羽市連続誘拐殺人未遂事件の特別捜査本部会議を始めたいと思いまーす」

いつものベルベットルームにて、私たちは会議を始めた。

昨日、みんなちゃんと忘れずにマヨナカテレビを見たようだ。今までは私だったり、雪だったり、小西先輩だったりと誰かしらマヨナカテレビに放り込まれていたから、予告映像を落ち着いてみるのはこれが初めてだったらしい。

不鮮明な映像でもやがかっている最中、昨日の暴走族のニュースと全く同じ動きをしていたために巽完二だとみんな思ったようだ。この時点で連続誘拐殺人未遂事件の被害者候補は1件目の関係者である女性という話だったが、早速話は暗礁に乗り上げてしまったのである。

不鮮明な予告映像だということは、まだ攫われていないのはたしかだ。巽完二について調べてみようかという話になった。

「あの子、小さい時はあんなふうじゃなかったのにな.....」

ぽつりと雪がいうので、千枝が実を乗り出す。

「えっ、雪子知ってんの?巽完二くんのこと」

「今は全然話さなくなっちゃったけどね、あの子の家染め物屋さんなんだ。うち、昔からお土産品仕入れてるから、今でもお母さんとはよく話すの。たまにあったら、挨拶くらいはしてくれるけど」

「そうなんだ......意外に礼儀正しい?」

「うん......小学校のころはお絵描きも上手でよく賞をとってたし、裁縫も上手で店先に飾ってたんだよ」

「えっ、あの巽完二が?」

「うーん......あの時はピアスもしてないし、髪も染めてなかったし......」

「いつからグレちゃったのかね?」

「うーん......あ、お父さんがなくなってからかも」

「えっ、それほんと?」

「うん。昔は巽屋さんて女将さんと旦那さんが二人三脚でしてたんだけど、旦那さんがなくなってから......。巽君とあんまり話さなくなったなあって」

「そういえば、叔父さんが補導したことあるっていってたな。お母さんが眠れないからって暴走族潰したって」

「お母さん思いなとこはあるんだ?」

「不良にありがちなやつ......雨ん中子猫に傘さしてるみたいな......。でもこえーって!」

「完二君かあ......」

「な、名前呼び......?!あ、そ、そーいや染め物屋が実家なら同じ商店街ってことっすよね?小西先輩なにか知ってます?」

「そうね、完二くんならうちの弟の幼なじみだからよく知ってるよ」

「お、幼なじみっ!?」

「おおう、まさかの伏兵登場?」

「ふふ、そんなんじゃないよ。弟がよくウチに遊びに連れてくるから挨拶してるだけ」

「よ、よかったあ」

「忙しいな、花村」

「うっせえよ、月森。小西先輩からみた巽完二ってどんなやつなんですか?」

「私以上に誤解されやすい子な気がするよ。見た目はああだけど根は真面目だし、上下関係はしっかりしてるかな。不器用なとこがあるから、かなり無遠慮かも。でも、私みたいに昔から完二くんを知ってるといい子だってわかってるからね」

「じゃあじゃあ、悩みとかなんかわかったりしません?」

「うーん......さすがにそこまで話したことないからわからないかな。でも弟が同じクラスでね、友達で遊んだりしてるみたい。話したいなら、弟に頼んであげよっか?」

「え、まじ?」

「ほんとに?いいんですか?」

「うん、それくらいお易い御用だよ。次は巽君が被害者になるかもしれないんだよね?それなら早く動かなきゃ。
今からうちに来る?たぶん弟、帰ってると思うから」

思わぬ提案だったが、私たちは小西先輩の家にお邪魔することにしたのだった。


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