ペルソナ4主人公でペルソナ5
「育実、育実、おい、育実っ!目ぇ覚ませよ、大丈夫か!?」

誰かに揺さぶられている感覚がする。

「ちょ、ちょっと竜司!そんなガクガク揺さぶっちゃまずいってば!頭打ってたらどうするの!志帆も育実も何があったの!?」

「坂本、気持ちはわかるけど落ち着いてくれ。高巻さん、先生呼んできてくれ!まずは横に寝かせよう、気道を確保してやるんだ。坂本、三島、ほら、はやく」

「うん、わかった!」

「おう。よし、雨宮も頼むぜ」

「もちろん」

「う、うん、わかったよ」

誰かに抱えられて横にされる感覚がした。ああ、またやってしまったんだろうか、と私は頭が痛くなる。なにせ5年前から時々夢遊病を発症するらしく、意識を失ってふらふらしたあげくに知らないところで倒れていることがよくあるのだ。

おそらく5年より前のことが何一つ思い出せないことが原因だろうが、保護者いわく無意識の状態で起きだし、歩いたり何かをした後に再び死んだように眠ることがよくあるらしい。私は当然その間の出来事を記憶していない。その時間はバラバラで、最近はどんどん長くなってきているように思うのだ。

興奮状態のまま眠りについてしまったり、精神のストレスによるものだったりすると精神科の主治医には主治医には言われている。だが記憶がないせいで原因がわからない。昼間に猛烈なストレスを体験した場合に多いらしいが、またなにかあったんだろうか。

「......ここ、は?」

「お、よかった。目、覚めたみたいだな」

明るい黄色の青年が目に飛び込んでくる。

いつか遠い以前にどこかで一度見たことがあるような既視感がふっと現れては消える。胃が金具で締めつけられるような、本能が忘れるなと金切り声をあげている。それは折り重なり、まるで蜃気楼のような奇妙な耳鳴りとなって私を蝕んでいく。顔をゆがめた私に坂本と呼ばれている青年が心配そうに覗き込んできた。

嵐のようなデジャヴーが襲ってくる。それは昔に夢の中で聞いたような覚えもする。同じような夢を見ている錯覚がおこる。走馬灯のように蘇りそうになっては消えるはがゆさに私は息を吐いた。

坂本の笑顔とは違う、しかしやはりずっと昔のいつか見たような、知っている感じの笑い方だった。かすかに、何かが引っかかった。見たことのある、笑顔。そして、感じたことのある痛い感触が私の反応としてあった。でも、何だかはわからなかった。

ここはどこだ。私は誰だ。また記憶がリセットされてしまったのか。しばらく続いたノイズは現状把握とともに実感を伴ってかえってくる。よかった、今回はちゃんと自己を継続することができたようだ。

散乱する知らない制服、弾け飛んだボタン、そして不自然にはだけた私、両手の爪には血肉がくい込み赤黒くなっていて、全身倦怠感とひどい筋肉痛、精神的な疲労を感じた。明らかに不埒な行為をされそうになり全力で抵抗した形跡がある。もうこの時点で嫌な予感しかしはかった。

「大丈夫か、育実」

きょろりとあたりを見渡す。今話しかけてきた金髪の青年が坂本竜司、オドオドしてそうな短髪のアザや怪我がひどいのが三島由輝、黒縁メガネのくせっ毛が雨宮蓮、出ていったのが高巻杏さん、だと思う。たぶん。そして私と似たような格好の女子生徒が鈴木志帆さん。よしよし、いい調子だ。ちゃんと情報がでてきた。

「一体なにがあったんだ?」

問いかけられても私は首を傾げるしかない。雨宮が坂本を睨む。

「なにを聞いているんだ、坂本!見たらわかるだろ!!」

「えっ......でも」

「でももクソもあるか!」

「さあ......聞きたいのはこっちだよ。さっぱりわからないんだ」

「そうか......ほらよ。ごめん、オレデリカシー無くてさ」

「いや、気にしないでくれ。ありがとう」

ばさり、と上から学ランを被せられる。坂本たちは目のやり場に困っているようだ。鈴木さんは高巻さんが出ていく直前に自分のパーカーを着せていったから名誉は守られている。そして。

私のすぐ側には泡をふいて倒れている教員らしき男がいた。なぜか半裸の状態でだ。近くに散乱する未使用の避妊具があまりにも生々しい。

「......!!」

私は本能的に後ずさりした。記憶にはなくても本能は恐怖を覚えているのだろう。固まるしかない。そこに居たのはかつてテレビで何度も見たことがあるバレーの元日本代表選手である。オリンピックの金メダリストであり、バラエティ番組で何度も見たことがある。

「鴨志田......」

ウェーブがかかった黒髪と太い眉。バレー選手らしい高身長をもち、筋肉質でガタイがよい容姿であり、眉目秀麗とはあまり言えないがその経歴や運動神経、人当たりの良さから人気は比較的高い。

だが。

周りに見せている人当たりの良さは演技であり、実際はこれまでの経歴を笠に着て裏で好き勝手にしている人間性に多大な難のある人物であり、邪魔な人間の経歴をバレー部員の三島を脅して学校に広めた張本人。

主に自身の受け持つバレー部の生徒に対する虐待や性的な嫌がらせを頻繁に行っており、バレー部の生徒たちにはいつもアザなどの怪我が絶えない。

しかも鴨志田本人を告発しようにも「バレー部は優秀な鴨志田先生の熱血指導のおかげで全国レベルに達した」というイメージが学校中に広まっているため、そのイメージを覆して鴨志田を悪者だと理解させるのは困難。

バレー部員たちは「真実を告げてもどうせ言いがかりだと思われる」と、告発をほぼ諦めている状態である。

高巻さんの親友である鈴井さんにも度々セクハラを行っていた他、ポジション降板を盾に2人に関係を迫ってもいた。しかも私の姉が国会議員に惚れて突撃取材をして不法侵入したあげく心中未遂をしたという根も葉もない噂話を暴露すると脅してきてひどい嫌がらせをしてきた男だ。

秀尽学園に教師として赴任した当初、坂本の所属していた陸上部がもてはやされていたことを疎み、様々な嫌がらせを経て廃部へと追い込んだ。坂本から並ならぬ憎悪を向けられていたのは彼の策略で陸上部を廃部にされたこととエースであったため利き足を潰されたことからだ。

ここには被害者たちしかいないのである。

坂本たちの目が蛆虫を見るような目に変わって行くのがわかった。

「男にも女にも手を出すのかよ、サイテーのクズ野郎じゃねーか!」

坂本の激高を雨宮と三島が抑える。

「なんで止めるんだよ!こんなやつに!こんなやつに!!くそっ先越された!!」

「坂本!」

雨宮の鋭い一声にはっと我に返ったらしい坂本がようやく腕をおろした。私の視線に気づいたらしい。

「ごめん、マジでごめん、育実!間に合わなかった!!」

「大宅、ごめん!!オレ、怖くて......鈴木さんのも気づいてたんだけど見て見ぬふりしてたんだ。たぶん、バレー部のみんなも。マジでごめん!!」

今にも泣きそうな坂本と三島に土下座せんばかりに謝られてしまい、私は困惑するしかないのだ。

「大宅?」

「育実、大丈夫か?」

「えっと、大宅。どうしたんだ、さっきから不思議そうな顔して」

「ええと......」

夢を見ていると信じたくなるようなあまりにも残酷な現実を自覚せざるを得ない状況下に置かれたとき、私は混乱するどころか冷静になる人間だったらしい。あまりにもシュールな夢だ、と私の頭は信じたがっている。私は、一呼吸置いて辺りを見渡した。


夢を見ているにしては、あまりにも鮮明で、五感も冴え渡っていて、現実と見まごうばかりの心地がするが、だまされてはいけない。なぜならば、私は今、冷静に現実世界を受け入れようとしているからだ。それが私の理想なのだ。理想の大宅育実で私はあらねばならない。現実逃避は許されない。私は大宅育実をしなければならない。なんのためかなんて覚えていないけれど。

少しばかり笑いがこみ上げてくる。それとなく身体を触れてみる。男子生徒の制服だ。そう、私は男だ。理想の大宅育実の体をしていたはずだ。男だったら初めから問題は起こらなかったはずである。なのに。なのになのに!

「なんで私はこんな目にあってるんだ?」

やがて救急車の音が聞こえてくるまで重苦しい空気になってしまった。


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