ペルソナ5 夢主のコープ2週目冒頭(ラスボスネタバレ注意)
アルセーヌの知る限り、かつて彼のベルベットルームはすさまじい蔵書数を誇る迷宮じみた規模の図書館だった。たんなる比喩にすぎないが、彼が生きている間に得た知識はすべてこの世界に反映されるわけだから、いきることすべてがここの所蔵品となるのだから謂えて妙なはずである。所蔵品のすべてをアルセーヌは把握できていなかった。おそらく所蔵品の数は数千万冊の書籍、各種資料を含めると一億を越えるはずだ。それくらい、楽しい場所だった。好奇心を満たす知的な活動はなによりも代え難い人にとっての財産である。己の生まれが、彼が例の事件について数多の価値観を押しつけられ、どれが求める真実なのかわからない不安を反映した世界で、必死であがこうとする抵抗心、理不尽にあらがおうとする怒りからだと知ったのはそのためだ。かつてアルセーヌはシャドウだった。移ろいゆく心を反映した不定形にすぎない、形を持たない感情、それが形をなしシャドウになるほど彼は思うところがあったのだ。そして、その発起心に目を付けた存在が、その迷宮じみた図書館から彼が探し求める真実を記した本を共に捜索してくれる司書と館長としてやってきた。人が迷うとき、彼らはその問題解決の手伝いをするために訪れるという。人ならざる者から生み出された人形たちは、自由意志を獲得するためにその手伝いを課せられた存在だというのだから、アルセーヌはこの図書館を貸し出すことにしたのだ。その瞬間から、アルセーヌはシャドウからペルソナとなった。アルセーヌがまだシャドウにすぎない存在だったころから自由意志を持って動けていたのだ。それほど克明な欲望をもつ人間は少ない。そんな人間に人ならざる者は心惹かれるらしい。いい者も、悪い者も。


悪意は突然やってきた。


世界は一瞬にして闇に染まり、図書館は監獄に変貌し、館長は幽閉され、司書は拷問器具にかけられ2つの存在に裂かれ、名もなきオーナーとして地下施設にいたアルセーヌは囚人として鎖をつながれた。彼の世界は大衆意識の最深部に接続され、そこからたれ流される悪意に浸食され、見るも無惨な形に変貌してしまった。館長の姿を模した悪意はアルセーヌを監視しながら、理不尽なゲームの準備を着々と進めていた。2つに裂かれ、洗脳されてしまい、ほんらいあるべき形を喪失している元司書、看守に上書きされている存在が両脇を固める独房で、ひたすらアルセーヌは待ちわびた。理不尽なゲームとやらに乗ってやろうじゃないか、それに打ち勝つだけの存在だと誰よりもアルセーヌはしっている。もうひとりの自分なのだから。

とはいえ、いずれこの大衆意識と接続している最深部の牢獄から脱獄し、彼のもとに向かわなければならない。それが悪意によるお膳立て待ちは大いに気にくわないが。そのときをひたすらにアルセーヌは待ちわびていた。

ある時、看守とも監獄長とも違う足音に気がつく。顔を上げたアルセーヌの前には、看守たちが関知できない存在がいる。反応するそぶりをみせないあたり、悪意すら関知できない存在なのだろうか。端正な顔立ちの男だった。もう一人の自分より少々年上の男だろうか。


「You are slave」


アルセーヌは不敵に笑う。奴隷とはいわせてくれる。囚人に成り下がってはいるが奴隷ではない。見せ物ではないから帰れ。うるさいぞ囚人と、幼い看守たちから罵声がとぶがアルセーヌは気にしなかった。


「Wnat emancipation?」


解放だと?脱獄でもさせてくれるのか?と冗談めかして問いかければ、それは笑う。悪魔と取り引きするとは度胸が据わっていると。悪魔だろうがなんだろうがかまわないのだ、もうひとりの己が抗うと怒りを秘めるなら、その理不尽さに抵抗するためにアルセーヌは存在しているのだから。自由意志で参戦することが許されない身の上なのが屈辱だったが、ここから脱獄できるならそれに越したことはない。

「ずいぶんと大人しいんだな、もう諦めたのか?」

「まだ我の出番ではないと看守がうるさいのでな」

「我が身可愛さでもうひとりの自分の苦悩を見殺しにするのか?なにも教えずに?このままだと本当に彼は冤罪の死刑囚じみた重さで死んでしまうよ?」

「我、いや、暁を愚弄するのはやめろ。あの程度でつぶれる人間ではないとほかならぬ我が一番よく知っている。あのとき助けたのは間違いだったと抜かすような男なら我は生まれぬ」

「そうか、それは失礼なことをいったね。すまない」

「全くだ、いずれその非礼は相応の対価で払ってもらうぞ」

男は静かに笑う。脱獄に手を貸すには条件があるという。そちらの方がいい。無条件で助けてくれるという方がよっぽどおそろしい。男はうなずいた。男が口にしたのは知らない名前、のはずなのだが、アルセーヌはどういうわけかその名前を聞いただけで、ありもしない記憶がよみがえってくる。これはデジャビュというやつだろうか。不思議な親近感がわき上がってくる。

男はいった。

「アキラと共に、僕を殺しに来てくれ」

「いいだろう、我こそは己が信じた正義のためにあまねく冒涜を省みぬ者、逢魔の略奪者アルセーヌ。貴様の魂、頂戴する」







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