新しいエリアが出現したメメントスの探索に赴いた怪盗団は、ようやくたどり着いた待合室でしばしの休憩タイムに入っていた。
アキラ、ちょっといいか?」
「なんだい、来栖君」
「これ、もっててもらってもいいか?」
「これは?」
渡された袋を開けてみる。いろんなアイテムが入っていた。
「見てて思ったんだが、アキラはぜんぜん状態異常にかからないよな。いざというとき、もっててもらえた方が助かる」
「え?そうかな?」
「あ、そういえばそうだよね。一回も攻撃食らってないかも」
「そもそも標的にならねーよな、なんでだ?」
「そーいや、結構よけるよな、アキラ。悪魔討伐隊だから経験積んでんのかと思ったけど、また別の理由でもあんのか?」
「うーん、意識したことなかったな。たしか、今の僕はミノタウロスの能力がそのまま反映されてるんだよね?」
「まあな。でもアキラ自身の能力に上乗せされる形だから、まるきり同じになるって訳じゃないぞ」
「あ、そうなのかい?そんなにいわれると気になるな、ちょっと待って。えっとたしかステータス表示は・・・・・・」
ガントレットを操作し、アキラは能力を見せてくれた。
「運高すぎじゃね!?」
「え、そう?」
「なんか極端な能力値だね」
「あー、うん、ペルソナ使いのときと、悪魔使いの時じゃ戦い方が違うからね、僕は」
「え、そうなのか?」
「うん、そうだよ」
ステータスは、極端に幸運と速さ、そして魔力に極端に振られており、それなりに銃撃が高い。そのかわり体力や防御といった数値は瀕死の状態となっていた。ペルソナの補正がなければ簡単に吹き飛ばされてしまいそうな耐久性のなさである。
アキラはペルソナ使いである前に、悪魔使いである。人知を越えた存在を使役することができる、それ自体が大きな技能だ。腕っ節が強ければ補助を悪魔に任せて、攻撃の主戦力は自分とすることができたが、あいにくアキラは12のことから悪魔使いである。求められる戦力は悪魔のほうだった。だから、今も昔もアキラが担うのは補助役、回復、裏方、援護、そういった役割だった。攻撃は悪魔に任せて、自分はそれを円滑に行えるようにする能力を磨いてきた経緯がある。悪魔を召喚し、人頭指揮を執る。余裕ができれば銃による援護射撃。求められるのは状況を把握して迅速に動ける判断力と早さ、そして銃の腕。最近、ようやく斬撃が使い物になるようになった。そんなアキラの戦い方が加入してから1週間でようやくわかったらしい。
無理もない。ミノタウロスをペルソナとして降魔しているアキラは、物理と銃撃と早さに特化した完全脳筋野郎なのだ。魔法なにそれおいしいのレベルでスキルを全く覚えない。物理や銃撃に耐性がある奴には物置になるのかと思いきや、まさかの貫通効果のスキルを持っている。耐性を無視してごり押しすることが可能なのだ。そんな思考停止の戦い方をするアキラが印象的だったのだ、ペルソナを使わなければ補助役になるなんて誰が思う。
「悪いこといわないから、アイテムもっててくれアキラ。その幸運なら状態異常にもかからない」
「うん、それいいかも。さんせー。たぶん、メンバーで一番速いし、なにかとお世話になるかも」
「つーか、アキラってやたらクリティカル出すから、敵のダウンねらって俺らに回してくれた方が攻撃食らわなくてすむんじゃね?」
「お、いいこというじゃねーか、スカル。バトンタッチしてくれりゃ、ワガハイたちがアキラを守ってやれるぜ」
「あはは、ありがとう、スカル。しっかり繋げるから、あとはよろしくね。やらないといけないことをはっきりしてもらった方が僕も動きやすくなるからありがたいよ。じゃあ、今から僕はアイテム係だ。どのみち限界がきたら回復するアイテムが必要になるしね」
アイテムを受け取ったアキラだったが、まだ知らないのだ。来栖が迷うことなくアイテムをアキラに託したその訳を。
「うわっ、ジョーカーが激怒してる!しっかりしろ!」
「ジョーカーが絶望してるー!誰かサポートまわってやれー!」
「おーい、誰かジョーカー起こしてやれ!なにやってんだ、おいー!」
「ジョーカーが凍った!」
「ジョーカーが洗脳されて、敵と味方の区別が付かなくなってる!だれか目を覚まさせてくれ!」
またか!!
いくらなんでも状態異常にかかりすぎだ、とアキラは声を上げる。だが、ほかのメンバーたちは慣れたもので、さっさと敵を片づけた方が早いとばかりにシャドウをなぎ倒す。さすがに数が多いときは、アキラにヘルプが飛んだ。運の能力値はここまで影響するのだろうか。アキラは今まで意識したことがなかったが、こうも状態異常を起こすスキルに狙われすぎている来栖を見ていると、じぶんの能力が高いことを自覚せざるをえなくなる。シャドウは来栖君に親でも殺されたのか!?とアキラが勘ぐりたくなるくらいには、来栖は状態異常の餌食になっていた。冤罪で前科をつけられる来栖だ、運が悪い、といえばそうなのかもしれない。とはいえ洗脳はいただけない。ただでさえ来栖はメンバーきってのエースなのだ。
アキラ、お願い!」
「はやいとこ、あいつを正気に戻してくれアキラ!」
「ごめんな、アキラ。ワガハイは回復に手一杯で手がまわらない!」
「ああうん、わかったよ。みんなはシャドウを頼む」
了解、と頼りになる仲間を背に、アキラは走る。
目が完全に据わっている来栖を前に、アキラは冷や汗だ。物理反射のペルソナをつけている来栖である。貫通持ちのアキラでなければ吹き飛ばされてしまうだろう。まったく、状態異常になりやすいなら、精神耐性のスキルを取得すればいいものを。アキラはもう慣れてしまったアイテムを手に、来栖に向き直る。
「目を覚ましなよ、来栖君」
呼びかけても返事はない。ただ不敵にわらった来栖は仮面を剥いだ。
「こい、ギリメカラ!」
容赦のない呪詛がアキラに絡みつく。笑えない冗談はよしてくれ、と冷や汗を掻きながら、不発に安堵する。ミノタウロスが払拭してくれたようだ。ミノタウロスが耐性をもっていなかったら死んでいたに違いない。背筋が寒くなる衝動にかられながら、アキラは来栖に近づく。最近の怪我は来栖からもたらされたものの方が多い気がする。なんてことだ、完全なフレンドリーファイアじゃないか。
「悪く思わないでくれよ、毎回毎回かかる君が悪いんだ!」
アイテムを封を開けた勢いで投擲する。クリーンヒットしたアイテムが来栖に降り注ぎ、ようやく瞳が正気を宿す。
「おれ、は?」
「まただよ、来栖君」
アキラ、あ、ごめん大丈夫か!?」
「もういいよ、慣れた」
「ジョーカーふっきー!ありがとな、アキラ!」
「今度は挽回してくれよ、来栖君」
「ああ、まかせてく」
「っていってるそばからああああっ!」
運が低いやつはこれだから!!せっかく洗脳を解除したのに、全体にぶちまけられた全体攻撃の影響をもろにくらった来栖が再び狂気を宿してアキラに襲いかかる。わざとやってんじゃないだろうな、とアキラが勘ぐりたくなるくらいには即落ちである。鍔迫り合いを回避して、アキラは距離を取る。ああもう洗脳解除できるアイテムはあと1つしかないんだぞ、誰かさんのせいで!絶叫するアキラにモルガナはあちゃーという顔をしている。
「はあっ!?まじかよ、ほかの奴倒した方がはやいじゃねーか!」
「ごめん、アキラ!せめてジョーカーがこっちこないよう押さえてて!」
「ああうんわかったよ、くそう!」
主戦力に襲いかかられたらほかのメンバーは為すすべがない。アキラは半ば意地になりながら隙あらば攻撃してくる来栖と相対する。怪我をさせるわけにはいかない、うかつに攻撃できない、にしたってこれで何度目だ来栖君のカバーにはいるの!?こっちの気遣いをいいことに来栖は全力で攻撃してくる。受け流しだって楽ではないのにだ。ああもうめんどくさいな!アキラはアイテム袋から最後のひとつを引っ張り出し、引きちぎる。ミノタウロスの強化により容易な封じ込めにかかった。そのナイフを剣でで受け止め、そのまま一気に間合いに入る。足蹴にしてバランスを崩させる。ミノタウロスの加護により反射は無効となり、アキラの攻撃はそのままダイレクトに伝わる。ナイフを遠くに弾き飛ばし、そのまま押し倒した。上に乗りかかり制圧する。
「状態異常にかかる君が悪いんだ、少しは反省しろ」
アキラは躊躇なく口を重ねる。うっかり見てしまった竜司たちは絶句する。
「なにやってんの!?」
「あっはっは、まじでひでー嫌がらせだなおい!」
アキラも堪忍袋の尾がきれたってわけか、あーあ、かわいそうなジョーカー」
ごくりと飲み込むのを確認して、アキラは唇をはなす。そして口元を拭った。
「嫌がらせにしても体はってんな、おい」
「正気に返ったときダメージでかいだろ?」
「そーだけどアキラもでかくね?」
「これで反省してくれれば僕の苦労もへるだろ?」
「あ、うん、そうだけどさ。あーもうびっくりした」
「ジョーカーにはいい薬だぜ、二回も洗脳にかかるとかどうなってんだ」
「みんなおつかれさまー!」
アキラはぼんやりとしている来栖を見下ろす。アイテムの効果が出てきたのか、ようやく瞳に光が戻ってきた。竜司もモルガナも来栖をからかう気満々のようで近寄ってきた。杏は苦笑いしている。
「気分はどうだい、来栖君」
「・・・・・・アキラ、おま、ちょ、っ!さっあくだっ!!」
「僕もだよ、まったく。あれで最後だ。これに懲りたら、精神耐性のあるペルソナを作るんだね」
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