ペルソナ5 ジョーカー夢
「ほんとに人が住むところなのか、ここ」

「今はましな方だよ。きたばっかのころはもっとすごかった」


写メをみせてくれた来栖にアキラは思わず二度見した。完全なる物置である。保護観察を請け負う人間は事前に調査が入ると思うのだが、そうではないのだろうか。


「何日かかったっけ、モルガナ」

「んー、3日くらいかかってないか?」

「3日?!」

「ほんと屋根裏のゴミ屋敷だったんだぜ、ここ。あっちに全部押し込んであるけど、それが全体に広がってた感じだからな。ワガハイが来たときは粗方片づいて、使えそうな者を引っ張ってくる作業してたけど」

「最初は一日かかったんだ、惣治郎さん手伝ってくれなかった」

「ほんと最初は暁に風当たりきつかったよなあ」

「まあ、知り合ったばかりだったし、よく知らなかったしな」

「お疲れさま、っていった方がいい?」

「いや、いいよ。今はそれなりに居心地よくなってるし」

「住めば都?」

「まあな」


今でも十分雑多な部屋である。潔癖性の人間なら発狂しそうな部屋だ。さいわいアキラは12の時から隊長の津木と二人暮らし、18からは独身寮で男だらけの共同部屋である。お世辞にもきれいとは言い難い環境で育ってきたつもりだが、そんなアキラでもヒドいといわせるような部屋だった。


光源は2つの裸の豆電球のみ。階段を上がってすぐ飛び込んでくるのは年季の入った棚。両親からの仕送りがつめこんである巨大な段ボールが雑に押し込まれていて、埃がかぶらないようにタオルがかけられていた。スペースを確保するために押し込んだものは、階段の向こうにある渡り廊下の先の物置にぶちこまれている。自転車、梯子、棚、ぼろぼろのさび付いた棒、いろんなものがほこりをかぶっている。ここに移動させることからはじまったようだ。私物が入った棚の向こうは地デジ対応のブラウン管テレビ、レトロゲームがつないである。


そしてぼろぼろのシミだらけのソファ。ピッキングツールなどのメメントスで欠かせないアイテムを生成する。作業机は工具などが並べられている。そして物置から救出したという観葉植物は、数年放置されていたにも関わらず生きていたという。ないよりはましということで、唯一の緑だった。そしてその両脇には棚、棚、棚。怪盗団の仲間、あるいは利害関係が一致した協力者との思い出がつまったものがいろいろ並んでいる。モナリザの彫刻、有名なアニメのフィギュアなどくれた人間がすぐ特定できてしまうのはきっと笑うところ。これはこれで来栖の友好関係を象徴しているようだった。


「でもさ、来栖君」

「ん?」

「テレビとかゲームより、もっと買うものがあるだろ」


とりあえず、近くにあったベットに座ったアキラはあまりの感覚の落差におどろく。


「よく寝られるな、こんなとこで」

「ああ、ベッド?」

「ベッドですらないだろ、これ。モルガナもよく寝られるね」

「ワガハイは暁の上にのっかるからな」

「今の時期だとあったかいんだ、モルガナ」

「あはは、カイロ代わり?それにしたって寝返り打てないだろこれ、痛そう」

「案外そうでもないよ?」

「いろんな意味で尊敬するよ、来栖君。ソファという選択肢はないのか」

「だって足伸ばせないし」

「いや、そうだけどさ、うーん」


酒瓶を運ぶプラスチックケースをひっくり返して敷き詰め、その上からベッドマットをひき、上からシーツをかけただけ。簡易ベットだってもう少し寝心地がいいだろう。びっくりするほど固いそれはベットというにはあんまりな寝床だった。アキラの反応も部屋に人を招くたびみてきた反応なのだろう、来栖は特に気にする様子はない。ああまたか、そんな声すら聞こえてきそうだ。かったいなあ、とぺしぺし叩いているアキラに来栖は笑う。


「まあなれたよ」

「そっか、まあ、来栖君がいいなら僕は何もいわないけどさ。東京の冬はほんと寒い。悪いこといわないから、ストーブだけは用意してもらいなよ」

「そんなに寒いのか、東京って」

「あー、モルガナも来栖君も東京の冬は初体験か。結構冷えるよ、こういうとこだとなおさらね。寒すぎて目が覚めちゃうんじゃない?」

「うげ、そんなに寒いのか」

「電気ストーブじゃたりない?」

「無理無理、外と気温が変わんなくなるよ、きっと。せめて石油ストーブつかいなよ、暖房ないんだからさ」

「夏は暑すぎて死にそうだったけど、今度は寒すぎて死にそうになるのか・・・・・・暁、今回はちゃんと用意しようぜ」

「ああ、やすいの探してみる」

「リーダーが体調崩して寝込むとか大変なことになるからほんと頼むよ、来栖君」

「ああ、そうする」

「うん、そうしてくれ。リーダーが倒れちゃ大変だ」


みんなそういうんだな、と来栖は思う。訳ありで副業をやっている女担任も、来栖の部屋をみて驚いていた。食生活、生活環境、いろんなものが不安にさせるようで、家事代行サービスのはずなのにまるで母親のようなことまで口に出し始めている。さすがにちょっと辟易しはじめていた来栖である。無意識に伸びた手が髪の毛をいじった。


「もしアテがないなら、寮からもってこようか、ストーブ」

「うん、探してなかったらよろしく」

「わかった」

「じゃあ準備するか」

「ああ」

「坂本君たちは?」

「祐介と買い出しにいってる」

「じゃあ遅くなりそうだね」

「だな、たぶん歩いてくる」

「電車賃浮かせてアイスでも買う?」

「いや、じゃがりこだと思う」

「だよね」


いつだって竜司や杏からの差し入れのコンビニ袋から、真っ先にじゃがりこはなくなっていく。無限じゃがりことか、CMでやってた食べ方をやってるあたり、祐介が好きなのはみんなわかっているのでわざわざ買ってくるのだ。今回はあとから割り勘になるだろうから、買い出しに出かけた祐介はすきなものをどんどこ詰め込んでくるに違いない。祐介だけなら心配だが、竜司も一緒だ。そういうところはきっちりしていることに定評がある彼がいるなら安心して任せることができる。


「まさかブラウン管テレビを見るとは思わなかったよ」

「向かいの店で売ってたんだ」

「まじか。すごいなあ」


レトロゲーム機をどけ、DVDプレイヤーを引っ張り出す。端子に接続し始めた来栖の横で、アキラは借りてきたDVDを並べる。どんな映画なんだ、とアキラの背中によじ登ってくる。うわ、とくすぐったいのか首をすくませたアキラは、モルガナを降ろそうと手を伸ばす。不満げに鳴いたモルガナは反対側に飛び乗った。そのうち諦めた彼は後ろに書いてあるあらすじを読み上げ始める。どれも面白そうだなあ、とモルガナはしっぽを揺らしながら待っている。できた、という声に振り返る。


「どうする?一応みれるか確認する?」

「ブルーレイじゃないだろ?」

「もちろん」

「ならいいよ。たまに映画みるけどばぐったことはないし」

「そっか、ならいいか」

「さーせっかくの映画観賞だ、どれみる?」

「あ、もうみていいんだ」

「メッセ来たけどまだかかるみたいだし」

「わかった」





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