ペルソナ5(降魔編A)
ガントレットにダウンロードしたチャネリング機能を起動する。悪魔召還プログラムで待機しているミノタウロスをチャネリング機能に指定、連動させる。不思議な感覚がアキラを襲った。

「おめでとう、どうやら成功のようだね」

悪魔絵師は軽く拍手をしながら笑った。

「ペルソナは内なる自分を模した悪魔を憑依させることで異能を獲得するけれど、悪魔もペルソナもシャドウも人の無意識からいでたものという共通点はある。どこから違うのか、どこから同じなのか。それを僕にみせてくれないか、アキラ君。そしたらきっと、僕は悪魔の原初を描くヒントになると考えているんだ」

「まあ、今までガントレットを通して悪魔から魔界の魔法を獲得してきましたからね、それがより直接的になっただけと考えたらいいんでしょうか?」

「そうだね。悪魔を憑依させてその力を使うから、ペルソナ使いと同じように身体強化の恩恵にあずかれる代わりにアキラ君の属性相性もすべてその悪魔と同じになる。相性の善し悪しがあるから注意がひつようだ。それにペルソナは自身の力だから乗っ取られることはないけど、アキラ君は常にその危機感を持って挑んでくれ。そのかわり、降魔している間、ミノタウロスの技能が使える」

「戦術の幅が広がりますね」

「だろう?」

「召還できないと頭数が減るし、今の僕は降魔と悪魔召還を同時にできるほど慣れてないけど、使い分けたらこれはこれで楽しそうだ」

「そういってくれるとありがたいよ」

悪魔絵師は画材を抱えて立ち上がる。

「さあ、行こうか」

「はい」

アキラは今年に入ってから、突然スマホやガントレットに勝手にダウンロードされた謎のアプリを起動する。世界がゆがみ、物質世界と精神世界の境界線が限りなく曖昧になり、混じり合っていく。どちらでもない異質な世界は着実にその範囲を広げつつあり、以前は小さな世界でしかなかったが、今や東京中を飲み込もうとしているスピードである。そのうち東京と全く同じ面積のメメントスが形成されてしまうのではないだろうか、と危機感は募るものの、今のところ打開策はない。

違和感があった。いつもきている悪魔討伐隊の装備ではない。

「なんだ、これ」

思わず体を見渡す。メメントスに入った瞬間に服そうが変わってしまった。

白いスカーフ、白の和装、茶色いベルト、そして上から羽織る青いコート。ガントレットは装着されているものの、両脇にあるはずの小刀の位置が落ち着かない。銃が見あたらなくて困惑する。四苦八苦しているアキラに悪魔絵師は笑みを浮かべたまま待っている。

「ここに入るたび、ペンキのようなものがあたりに四散するだろう?それは僕たちが異物である証なんだ。今まではメメントスに物質世界の住人が土足で侵入してきたから、異物だった。動き一つでゆがみが生じる。シャドウでさえ、人の移ろいやすさの影響を受けて不定形だ。形を保てない。実体がはっきりしていることは意志の強さを意味する。それこそパレスが形成されるほどのね。でもアキラ君や怪盗団の彼らのように、自ら欲望を自覚し制御しうる者はパレスを作らない。代わりにふさわしい姿をとるのさ。アキラ君は今回降魔という形で大衆意識に溶けない存在と認識されたから、敵と認定された。その目印は目立つ方がいいだろう?」

「なんだか、昔の日本の格好みたいですね」

「アキラ君は悪魔討伐隊の隊員だからね。東京を守るために奔走するその意識がいまの君をそうさせているんではないかな?

「なるほど、わかりました」

悪魔絵師は姿が変わった様子はない。まあ、僕はもともとこちらの世界の住人のようなものだから、と冗談めかして笑われた。シャドウに同族だと認識されるなんて言い回しをしながら、スケッチブックに鉛筆を走らされるとなんだか恥ずかしくなってくる。もういいですか、と気を使って止まっていたアキラだったが、照れてるかい、と笑われてしまい、半ば強引にメメントス探索を開始した。



遺棄された地下鉄を空目する光景が広がる。鉄格子の向こう側にはまだ機能している地下鉄があり、一定の時間で電車がやってくる。そして並んでいた不定形の生命体がたくさん入っていき、しばらくするとその先に消えてしまう。ずっとずっと奥までシャドウを運び続けているのが見えた。それが延々と繰り返されている。地下鉄の整備士が使用する通路にしては広く、あまりにも入り組んでいる通路。どこからきているのかわからない電気の灯る通路には意味をなさない改札口があり、止まっているエスカレーターが待ち受ける。悪魔絵師を案内しながら、アキラは現在わかっていることについて説明する。時折足を止めてはスケッチブックに鉛筆を走らせる悪魔絵師は、どんどん口数が少なくなっていく。熱中し始めると態度がどんどんおざなりになっていくのは芸術肌だからなのか、自称通りの口べただからだろうか。

悪魔の出現が比較的少ないエリアを抜け、いよいよ大衆の精神が形成している無意識の世界が作り上げた奇妙な場所を歩き出す。

「いましたよ、シャドウ」

「なるほど、あれがシャドウなのか」

「いえ、あれはまだ姿がはっきりしてません」

「どういうことだい?」

「大衆意識に浮かんでは消える感情の固まりだからか、シャドウはみんな不定形なんです。形がはっきりしない。でも、戦闘にはいると、その感情が発露して、それに応じた悪魔の姿を模した生命体になります」

「へえ、それは興味深いな」

「松田さんと同じこといいますね」

「まあ、彼とは同じ部署のつきあいもあるからね」

「ですよね。悪魔辞典は開発部の担当でしたっけ」

「ああ、そうだよ」

「類は友をよぶですか」

「言い得て妙だ」

「そこは否定してくださいよ。だいたいこのアプリ、まだ未実装のものを先行して使わせてるだけですよね、明らかに」

「さあ、どうだろう?」

アキラはため息をついた。そして躊躇なく引き金を引く。攻撃を食らったシャドウは衝撃のあまり豪快に吹っ飛び、その先でどろりとしたものが幾重にも折り重なり姿が変化していく。アキラのガントレットが戦闘モードに移行することを教えてくれる。

『アキラよ』

いつもはガントレットから聞こえてくるはずの声が、アキラの中から聞こえてくる。なるほど、これが降魔なのか、とアキラは理解する。人間の頃とは比べものにならないレベルで五感がさえ渡っている。ありえない距離の情景まで情報として理解することができるのに、気が狂う気配はない。これがミノタウロスとアキラが6年間培った絆というやつだろうか。そうだとしたらすてきなことだ。悪魔の能力が我がものとして使用できる高揚感がわきあがってくる。これは注意しないといけないな、とテンションがあがりつつある自分を笑う。癖になりそうだ。

『我が主、アキラよ』

「ミノタウロス?」

『さあ、存分に我が力をふるうがいい。我が名はミノタウロス、汝と共に行くことを決めた者!』

「ああ!君の力、僕のために使わせてもらうよ、ミノタウロス!」


不定形から姿を脱却し、大衆の深層意識からすくい上げられた姿が形作られる。それはアキラが日々戦いを繰り広げている悪魔とよく似た存在だった。シャドウめがけて、愛刀を振り上げる。ミノタウロスによる身体強化をうけている為だろうか。いつもならガントレットを通じて取得した魔界の魔法で体を強化し、戦闘に挑む前段階が必要ないほど体が軽い。いつもならあり得ない軌道で攻撃を回避し、そのままの流れで一気に切り込む。息をのむようなスピードで一体を撃破した。悪魔絵師が感嘆した瞬間、鼓膜をふるわせるような轟音が響いた。即座にアキラは距離をとる。なにかが破裂するような音がした。どうやら増援を呼んだらしい。危機感がよぎる。ちら、と視線を走らせればスケッチブックと熱心ににらめっこしている悪魔絵師がいる。アキラはため息をつきたい衝動に駆られるが、なんとかこらえて戦闘を続行した。

侵入者に目印、は言い得て妙だとアキラは思った。次々とシャドウを撃破するけれど、きりがない。ガントレットの悪魔改めシャドウ解析をもとにガントレットで魔法を発動させるがきりがない。なにかが焼け焦げる不快なにおいがあたりに漂っている。ようやく辺り一帯のシャドウを撃破したアキラは悪魔絵師と共に先を目指した。悪魔絵師はアキラのつゆ払いにより、どんどんシャドウのデッサンをかきあげていく。悪魔とが違う挙動、発言、そういったものが創作につながっているらしい。よくわからないが悪魔辞典が充実するならなんだっていいのだ。

どれだけ歩いただろうか。


ちゃり、ちゃり、と鎖を引きずるような不快な音がメメントス全体に響いている。


ぞわりと悪寒が走る。勢いよく振り返ると、そこには鎖を引きずる異形がいる。かなり距離をとっていたはずだが、そいつがアキラを看破するのははやかった。アキラは銃を連写させるが、あまり効いている気配はない。無効や吸収ではないが耐性があるか恐ろしく防御が高いかなのだろう。アキラは追尾してくる巨大な弾丸をたたき落とす。すさまじい轟音をたてて砕け散る壁の先には通路が見える。万が一くらったときの衝撃はきっと貫通して体が2つに割れるだろう。生かす気がないことはわかった。今すぐにでも撤退したいが許してくれそうな気配はなかった。アキラのように多様な魔界の魔法を使ってくる敵はアキラの弱点を探しているのか、いろんな攻撃を仕掛けてくるが、お生憎様場数だけは踏んでいるのだ。アキラはとんだ。衝突する寸前に体を翻し、そいつにまたがり体を翻す。そして豪快に斬撃が炸裂した。こちらも吸収や無効ではないが、耐性はある。なら問題はない。アキラは再び切りかかった。

「おいおいおい、なにやってんだ!?」

アキラの耳に聞き慣れた少年の声が飛び込んできたのは、だいぶ疲弊してきたころだった。精彩を欠きミスが続く。時折悪魔絵師がキャンパスに描いた悪魔を実体化させ、回復させてくれるが気力までは回復できない。じりじりと追いつめられているところだった。

「今回の新入りは肝が据わってるな」

「違うだろ、フォックス!ワガハイたちの肝が冷えてどーすんだ!」

「大丈夫か、アキラ!」

「なんとか、ね」

「むう、加勢するには俺は準備ができてないな」

「いってるばあいか!あーもう、だからメメントスで絵の題材探すならもっと上でっていったんだ!ワガハイ、嫌な予感してたんだよおっ!」

「加勢するぞ、モルガナ」

「わーかってるよ!新人見殺しにするほど怪盗団はバカじゃねーぜ!

「ありがとう、助かる」

ずいぶんと精鋭部隊である。怪盗団の活動ではないようだ、人数が半分ほど足りない。それでも今のアキラにとっては最高の援軍だった。

『我は逢魔の略奪者アルセーヌ。暁よ、今一度我が力が必要か?ならば存分にふるうがいい!新入りに怪盗団の実力を披露するのだ』

「言われなくてもやってやる。力を貸せ、アルセーヌ」

来栖の背後に、黒の翼を持つ真っ赤なタキシードと真っ黒なシルクハットをきたペルソナがちらついた。なにかの術式を唱え始めた来栖を先んじてモルガナがアキラのところに駆け寄る。

「さあ、我が決意の証を示せ、ゾロ!弱気を助け、強気をくじく!正当派ヒーローってのはこういうもんだってこと、みせてやるよ!」


二足歩行の黒猫がフェンシングの剣を構えた勇ましい男を召還する。そして、大量の金色色の閃光が舞う。追従する形でアキラにもすさまじい力がたぎってくるのがわかる。アキラはモルガナの支援を受けた加護により、さらにスピードを上げて接接近し、その武装の合間を縫って接近し、間接を切断する。悶絶が聞こえる。詠唱がやみ、あたり一体に魔界由来の魔法が発動する。自然の力を宿した光があたりに四散した。爆発音がして、閃光が走り、辺り一帯が焦土とかす。敵は躊躇することなく、直下からアキラにその太刀を振り下ろした。鈍い音がひびく。ミノタウロスの強化により気絶までは避けたがすさまじい痛みがおそってくる。反射的にその武器をつかみ、はなすまいと妨害する。アキラに迫る第二打に来栖は暴風を打ち落とす。爆発的に四散した光がとけていった。

「大丈夫か、アキラ!よーし、待ってろ!」

ゾロを呼びだしたモルガナは全体に回復を命じた。

かすかに聞こえた声は、何かを発動させる。アキラの生存本能が悲鳴を上げていた。アキラが来栖をかばえたのは、ほぼ反射的だった。周囲にあるものが粉みじんになる。殺意をたぎらせた一撃が過ぎ去った周囲が瓦礫とかす。二人の無事をわきあがる粉塵の向こうから確認したモルガナは暴風をたたきこむ。ありがとう、と返した来栖にアキラは笑う。冷静さを欠きながらも、繊細さを欠きながらも、アキラは太刀をふるった。

物言わぬ骸になるのは、あの男をこの手でほふってからだ。許されざる蛮行だけは阻止しなければならない。ここで終わるわけには行かない。躊躇せず敵の目の前まで踏み込み、その武器を受け止める。じわりと血がにじむがこらえられる。積み重なった瓦礫から金色の閃光が光る。あたりが光に包まれた。


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