「ん、ん、んんー!?なんだこれ!」
デュエルディスクのプログラムに変換されてしまったアイは、今の自分が何ができるのか、何ができないのか、片っ端から使っていたところ、面白そうなプログラムを見つけた。
「なんだこれ、すっげえ!」
「なんだ、さっきから」
「なーなー遊作!みてくれよ、この機能!」
にひ、とアイのまぶたがゆがんだ。
「今日からワテの台詞関西弁にするようにしましたで、遊作はん!」
遊作は無言で音声をきった。そして設定を元に戻す。
「なーんーでーだーよー!つまんねえー!!」
「遊ぶな、集中できない」
「ぶーぶー」
「音声きるぞ」
「いいの?デュエルできねーぜ?」
遊作はうるさい黙れとじと目でにらんだ。
女の子の声、老人の声、小さな子供の声、起動するたびに不意打ち的に声を変え始めた遊作にアイは本気で初期化してやろうかとパソコンの端子につなげようとした。
「やめて、俺様消えたくない!」
「寝てていいんだぞ」
「やだー、ねるのこわいからやだー」
「なに子供みたいなこといってるんだ、お前」
あきれたように遊作は笑った。
数カ月後
「和波、和波、和波ー!」
「ど、どうしたんですか、アイくん!?」
「大変なんだよ、助けてくれ!」
「え?」
「playmakerが!playmakerサマが!捕まっちまった!」
「えええっ!?」
「和波達に伝えてくれって俺こっちのデータに転送されてきたんだよ、くっそー!俺は嫌だっていったのに!ってそうじゃない、早くしないとplaymakerサマが!」
遊作と和波のデュエルディスクは同期している。もしも、を想定して外部ストレージとしてHALをつかっているのだが、そのもしもが起こってしまったのだと和波は悟る。
「わかりました!HAL、藤木君のデュエルディスク、今どこにあります?」
「おう、解析完了だ。いくぞ」
「うん」
和波はうなずいた。
アイがいうには、ゴーストがplaymakerにデュエルを挑んできたという。使用デッキはライトロード。感染するとクローラーになるのだ、グレイ・コードのトラップではない。嫌な気配がハノイの気配と類似していたため、playmakerは葵の時のような状況を想定して慎重にデュエルを行い、勝利した。リンクセンスによりAIなのか人間がいるのかわかる遊作の前に現れるのは、いつだって人間が操作するアバターの予感がするゴーストだった。今回現れたのも人間がアバターを使っている気配がした。アイがウィルスを取り込もうとした瞬間、何かに気づいたplaymakerはわけのわからないまま目を丸くするアイをHALのところに強制転送したらしい。アイが最後に見たのはplaymakerの苦悶の表情とうめき声、気絶したはずのアイから何かが湧き出してくる気配だけだったという。
和波は冷や汗が伝う。
中の人間がいるにもかかわらず、まるでイグニスのように液体状の生命体が吹き出してきてplaymakerを捕縛したというのだから、ぞっとする。もちろん遊作にデュエルを挑むのはいつだって和波だ、例外はない。例外はあってはいけない、playmakerが偽物だと気づけなかったということは、それだけ擬態がうまいのだ。どういうことだ、いったい誰が。
「アイ君はどうします?」
「俺か?」
「はい」
「俺はねー、とりあえずログインしようぜ」
「え?あ、は、はあ」
和波はカプセルポットに入る。そして起動ワードをつげた。
「IN TO THE VREINS」
和波が降り立つと、そこには誘拐されているはずのplaymakerがいるではないか。ぎょっとした和波は後ろに下がった。
「ぷ、playmaker?!」
「あはははっ、だまされてやーんの!」
「え、あ、えええっ!?もしかして、アイ君ですか!」
「大当たり!」
「え、でも声……!?アイ君はデュエルディスクのデータになってるんじゃなかったでしたっけ!?」
「この俺を誰だと思ってんだよ、playmakerサマのデュエルディスクAIのアイサマだぜ!」
すごいですね、どうやったんですか?と聞いてくる和波にアイは得意げに数カ月かけてあつめまくったplaymakerの台詞ログを開示するのだ。まさかの人力での入力である。
playmakerは目を覚ます。
意識が混濁する中、自由がきかない体に戸惑っていると、聞き慣れた声がふってきた。
「大丈夫ですか、playmaker!」
「和波?」
「アイくんから話は聞きました、今から助けますね!」
「来るな、和波」
「え?どうしたんです?」
「体の自由がきかないんだ、勝手に使ってる」
「デッキは!?」
「……クローラー、だ」
「そんな」
「ならデュエルで勝つまでだ、和波」
「…!?」
ぎょっとするplaymakerに、したり顔のplaymakerがウインクする。あまりに似合わなくて和波は笑ってしまう。playmakerはじとめで和波をにらんだ。あ、ご、ごめんなさい、つい、と和波は目をそらす。
「そ、そうですね、playmaker!playmakerを助けなきゃ」
playmakerの体は勝手にデュエルディスクを構える。
「デュエル!」