ズァークと夢主・仲良しルート
「やっぱここ統一次元だよなあ」

ぼやく城前の言葉がとけていった。

デュエル大会に参加するため遠征に来た城前を待っていたのは、マスタールール3の大会である。リンク召喚導入に伴い大幅に弱体化したはずのペンデュラム召喚全盛期。4月ならまだわかるがもう7月である。そんなバカな。身内大会ならまだわかる、だが某会社公式の大会だとポスターがあるし、なによりもホームページにあったはずなのに。疑問符ばかりが飛んでいくが、マスタールール3だというのなら仕方ない、身内大会用に構築してある2017年1月制限のデュエルで挑もうではないか。そうおもったのがさらなる事態を呼び起こしてしまったのだ。

「いいデュエルだったぜ、城前。ところでさ、どこからきたんだ?ほら、今回初めて公式大会に参加したんだろ?ランキングにも載ってないからわからないんだよ、よかったら教えてくれ」

準優勝だった。決勝戦で城前を下したのは、控え室にわざわざ労いに来てくれたプロデュエリストである。世界大会に挑戦する代表を決める前段階である、店舗代表戦はどうやらこの世界でも大変大事な大会という位置付けのようだ。

「マイアミって聞いたことないか?」

「マイアミ?なにいってんだよ、マイアミはここだろ?」

「あーうん、まあ。えーっと、××市」

「なんだ、××市?すぐそこじゃないか、今までなんで挑戦しなかったんだよ、城前の実力なら余裕だろ」

まじかよ、××市あんのかよ、と城前は焦る。

「働いててさ」

「あ、どっかの専属デュエリストとか?それとも行きたいリーグがあるのか?」

「え?いや、普通に会社員だけど」

「えええっ!?こんな実力あるのにほんとにアマチュアなのか、城前!××市ってそんなデュエリスト人口少なかったか?」

「世界大会いけるだけの実力なかったし、150位とか無理だって」

「......あー、××市はハードルが高いのか!もったいない、もったいなさすぎるぞ、城前!今からでも遅くないから拠点をこっちにうつせよ、こっちはチャンピオンシップスに出ればある程度道は開けるんだから!それにアクションデュエルならまだ人口は少ないし、チャンスあし!今からでも転向してみないか?」

熱心に勧誘してくるズァークにぐらついたのは事実である。悪魔になる運命だとしても、ズァークは精霊の声がきける、みんなを楽しませたいエンターメイトを追求する好青年だったのは揺るがしようがない事実だ。悪魔になる過程が周りの意見に流されすぎてキャパシティオーバーしたことはわかるが、精霊の声がきこえる能力となにが関係あるのかいまいちよくわからない。いずれ目の前の青年に世界が壊されるのだとしても、今のズァークにはそんな面影みつけることができない。

「城前はアクションデュエルすべきだ、だってこんなに懐かれてるやつ初めてみた」

「懐かれ?」

「あ、城前はプロリーグあんまりみないか?一応、俺、精霊が見えるって有名なんだけど」

「え、まじで精霊いるの?俺」

「ああ、デュエル歴にしてはやけに幼いけど。もしかして城前って頻繁にデッキ変えるタイプか?」

「あーうん、別にこだわりはねーかな」

「そっか、環境デッキが好きなんだな。よく聞かれるんだけどさ、精霊はデッキの数だけいるんだ。城前の場合はそれだけいるよ」

「うっわ、まじかよ気になる。なあ、どんな感じなんだ、俺の精霊」

「見たいか?」

「見たい」

「じゃあ、アクションデュエルに来いよ、城前。精霊たちが1番自由にイキイキできるのはアクションデュエルだからな!」

この様子だとまだ相手を傷つけてしまったことはなさそうだ。これから行くところがない城前にはありがたい申し出だったのである。



「じゃあデッキをセットしてみてくれ」

「お、おう」


貸してもらったデュエルディスクを片手にセットし、城前はドキドキしながらデッキをセットする。そしてズァークに言われるがまま、カードをドローした。

「なあ、俺の精霊ってなに?やっぱ壊獣?それとも召喚獣?」

「精霊はレオコーポレーションのソリッドビジョンがないと自我を得られないからな、城前はまだそのデッキしかつかったことないだろ?じゃあ、一番精霊として実体化しやすいのは城前のいうとおり、壊獣か召喚獣だと思う」

「うーし、じゃあまずは!」

デッキの精霊は一体。やはりエース級だろう。そう思ったらしい城前は、さっそく手札を見る。

「こい、《召喚士アレイスター》」

白のローブを被った青年が杖を携えて召喚した。いざ、と相手を見据えようとしたが目の前のフィールドに決闘者がいない。キョトンとして困ったような顔をしたまま振り返るアレイスターに、城前は感動したように目を輝かせた。

「ズァーク、これってAIの演出か?」

「そう見えるなら近づいて見たらどうだ?」

「それもそーだよな」

デュエリストが立つべきエリアから降りた城前はアレイスターのところにやってくる。目を瞬かせ、杖を握りしめたまま、城前を見上げる青年が首をかしげた。

「えーっと初めまして?」

「?」

「あー、その、な、いつもありがとな、アレイスター。お前のおかげで壊獣たちも活躍できてんだよ、感謝するぜ」

「!」

「ほら、壊獣ってテーマ的に後攻じゃないとうまく動けないし、能動的に動けないし、回らないときはマジでお前だより、頼みの綱だし?壊獣自体強いテーマと混ぜるほうが安定するからほんと助かってんだよ、ありがとな」

アレイスターはうれしそうに笑う。ずいぶんと幼く見えるのはまだまだ精霊としての心をえたのがついこの間の大会だからだろうとズァークは教えてくれた。

「なあ、ズァーク。じゃあこいつら使い込んだら言葉通じるようになるか?」

「うーん、どうだろうな。言葉通じるの俺以外見たことないぞ」

「えー、まじでか」

「まあ、使い込んだらそれだけ成長するからな、どんどん表情豊かになるし、言葉が通じなくてもなにがいいたいのかわかるようになる。心配はいらない」

「へー、そういうもんなのか。わかった、じゃあしばらくの間はこのデッキつかってみるぜ」

浮気性の主人から直々に構ってもらえると知ったアレイスターは大喜びである。見た目は城前くらいの青年だというのにバンザイを繰り返し、ありがとう、あるいはうれしいです、と顔に書いてある。さすがに抱きつかれるとは思わなかった城前は面食らうが、中身はほんとに子供だと聞かされては無下にできない。もともと親戚の子供たちには構い倒すのが大好きなのだ。くしゃくしゃになるまで頭を撫でるともっとやれと押し付けてくる。なにこのかわいいいきもの。

「なあ、ズァーク」

「なんだ?」

「もしライロ組んだら《ライトロード・セイント ミネルヴァ》が精霊になったりするのか!?」

「……よく聞かれるけど、城前が本当にエースに据えてるなら可能性あるな」

「うっぐ……あのデッキのエースは《カオス・ソルジャー ー開闢の使者ー》っ!」

「なら無理だな、諦めろ」

「でも、でも、ズァークのいうとおりならみんな自我に目覚める感じなんだろ?ならワンチャン」

「否定はしないけどエースより自我に目覚めて成長するスピードはかなり遅いぞ」

「それはそれで……いや、どうせなら年上のお姉さんモンスターが」

「なにいってるんだ、城前。目が怖い」

「うるせえやい、お前に年上のお姉さんと知り合う機会がないとわかってしまったおれの気持ちがわかってたまるかあ!」

ズァークは思わず笑ってしまう。

「わらうなよ、割とマジで切実なんだからな!」

「精霊はお前の子供たちみたいなもんだぞ、それでもいいのか?お前にされたことが愛情表現だと勘違いして周りに伝播するぞ。贔屓にすぎるとデッキまわりが極端に悪くなるかもしれないな」

「ま、まじかよ、慈悲は!慈悲はないんですか、ズァークさん!」

「あいにく可愛い精霊が鬼畜生の手にかかるくらいなら俺は協力出来ないな」

「おにーあくまーそんなこといわれたら、できるもんもできなくなっちまうじゃねーか!」

「しようと考えるんじゃない」

ジト目のズァークに城前は涙目だ。

「しんじらんねえ、お前男かよ?一度は考えたことあるんじゃねーの!?」

「俺の精霊はドラゴンと魔術師たちだからな、そういう目で見たことはない」

「うっそだろ、魔術師普通にかわいい女の子いるのにか!?しんじらんねえ、ズァークお前人間じゃないだろ!お前を健全な精神をもつ男だとは断じて認めねえからな、ズァーク!」

「だからなんの話をしてるんだ、城前」

「なにって……ナニ?」

「アレイスター、殴っていいんだぞこういうときは。え?そうか、お前は真面目なんだな」

「え、なになに、アレイスターなんか言ったのか?」

「前の彼女とわかれてもう数ヶ月なのか、大変だな」

「うっぎゃー!やめろよ、アレイスター!よりによってんなプライベートなことー!しんじらんねえ」

頭を抱える城前にズァークは笑う。

「彼女ができるまで俺の家にくるか?いきなりプロを目指すのは大変だし、うちならアクションデュエルを練習する会場があるし」

「ズァーク、いいのか」

「なによりほっといたら城前の教育は精霊たちに悪そうだからな。熟れた関係にでもなってみろ、その瞬間からお前は俺の敵だからな」

「やんねーよ、人をなんだと思ってんだ!」


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