待つよ、でもずっとは待たない(夢主×遊作)
「藤木君、畳とベッドどっちがいいです?」


ソファでいいと遠慮する遊作に、じゃあ僕も客間の畳で寝ます!と押入れから布団を持ち込んだ和波はにこにこだ。お風呂を促され、帰ってくるともう布団が準備され冷房がかかっている。どこの旅館だという話だがお茶とかまで用意されていると笑うしかない。


家の冷房が壊れて修理まで数日かかると聞いた和波から、しばらくうちに来たらどうです?の言葉に遊作は飛びついたのだ。電子機器にとって夏の暑さは天敵である。デュエルディスクにとってもそれは同じこと。アイにしてもHALという話し相手がいるのはだいぶ違う。和波の家に泊まることになった遊作に、なんだかテンションが高い和波ははしゃいでいた。ラフな格好のまま客室の和室に布団を持ち込んで出しっぱなしでだらだらするのだ。布団の山をソファがわりにタブレットをいじり、その場で着替えたり、勝手にとった写真をSNSにのっけたり、テレビをつけっぱなしにして、なにが面白いのかバラエティ番組の再放送にもりあがっている。かと思えばドラマやCMを歌い出し、遊作にいきなりテンションあがったりさがったりするなといわれるのすら楽しそうだ。


さっきからなにかしてる遊作にくすぐり攻撃とか小学生か、みたいなノリのちょっかいをかけてはくすくす笑う。お前な、と呆れ顔な遊作だったが、一度なんだか変な声が出たあたりでテンションがあがったらしい。しつこいくすぐり攻撃に遊作は攻勢に出た。



くすぐったそうに笑いながら和波はベッドに転がる。やめてください、ほんと脇腹弱いんですよぉ、と息も絶え絶え、今にも死にそうなほど掠れた声がまだ笑っている。笑いすぎて呼吸困難になったのか、はひ、ふひゅ、苦しそうに息をしている。あー、おもしろかったあ、とベッドに転がる和波に、影が落ちる。和波はくすぐり攻撃の第二派に身構えた。さっきは後ろから脇に手を入れられて身をよじったら後ろから脇腹をくすぐられ、そのままあちこちくすぐられたのだ。涙目である。


手が伸びてくる。首をすくめ、体を縮こませた和波のすぐ横に手があてられる。上をみると影がおちる。


「藤木く、ん、?」

「和波」


甘く囁かれ、和波は目を瞬かせた。


「藤木君?」


押し倒したその先でぴたりと止まってしまった遊作に和波は腕を伸ばして寝っ転がるよういったのだ。迷うようにさまよったあと、指を絡めてきた遊作に和波は優しく笑った。

「どうしたらいいのかわからないんだ」


ぽつりと呟いた遊作に和波は先を促した。


「藤木君と先生だけの秘密だよ」

「うん」

「いいこね、いいこいいこ」


なでなでされて、ちょっとだけ嬉しかった記憶がある。どんな先生だったかは思い出せないけど。


ある事件に巻き込まれて記憶がなくなってしまった遊作は名前以外なにも思い出すことができなかった。どこから来たのか、家族はどんな人たちなのか、なにが好きでなにが嫌いだったのか。事件の被害者すら思い出せないありさまなのだ。遊作の身元がわからないまま、児童養護施設で育った。遊作を家族の元に帰してあげようといろんな人ががんばってくれたが、嘲笑うかのように時間だけがすぎていった。誰も迎えはこなかった。


児童養護施設で一番長い子になるころには、遊作くんは先生に贔屓されてる、と噂になった。外に出かけるとき手を繋いでくれる、遊具で順番待ちしてるときはわざわざ上に乗せてもらっている、お菓子をもらっている、ささいなことでも積み重なると子供達はよく見ているものだ。なにも覚えていない遊作はなにがおかしいのかわからなかったけど、中学校に通うようになってからおかしいに気がついた。


先生が遊作くんを大好きだからやってるのよ、と言われたことがおかしいだらけだと気づいてしまったのだ。裸になって体をさわるとか、キスをするとか、抱っこをするとか、好きっていうとか。クラスメイトが家族でやってると思ってたことが実はおかしいのだと知ったその日、遊作は園長先生に相談した。こわばった園長先生に抱きしめられたときのことが忘れられない。優しそうなカウンセリングの先生になんども話をしなくちゃいけなくなった。その日から先生はいなくなった。そして遊作はちょっとはやい一人暮らしをすることになった。一人暮らしをするようになってから、児童養護施設に足を運ぶことはほとんどない。たまに園長先生から電話はかかってくるけれど、近況を話したりするくらいである。


遊作からぽつぽつと教えてもらった和波は、そうですか、と真剣に聞いていた。


「スキンシップが気持ち悪い、とか?」

「いや、なんか止まるんだ」

「考えちゃう?」

「わからない、わからないんだ。俺、先生と同じこと和波にしようとしてる」

「いけないこと?」


遊作は一瞬言葉に詰まり、顔を赤らめてうなずいた。


「ドキドキしません?」

「......する。すごい、する」

「いやです?」

「わからない。和波は?」

「うーん、僕もわかんないです。でも落ち着きません?」

「ああ、落ち着く」

「じゃあこうしてましょう」

「ああ」


ごろりと横を向き、和波は優しく目を細めてわらった。頭を撫でられた遊作は驚いたように顔を上げたが、和波はにこにこしている。遊作は繋いでいる手の力を強め、そのままごろりと転がる。


「わ、」

「近いな」

「え?あ、はい、近いですね」


遊作は小さく笑う。


「藤木君?」

「いや、なんでもない」

「ですか。あ、電気消します?」

「いや、まだ」

「まだはやいです?」

「そうだな」


和波はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「藤木君は電気消したくない派なんですね、覚えておきます」

「おい、和波」

「はい?」


顔を赤くしたまま口を尖らせる遊作に和波は笑う。


「拗ねないでくださいよ、藤木君」

「拗ねてない」

「藤木君、意外と顔に出ますよね。安心してください、僕は藤木君がだいすきです」

「......いきなりいうなよ」


ぼす、と枕を投げられ、頭にあたって転がった和波はひどいなあと肩をすくめた。


「いきなりゴーストのキャラもってくるのやめろ」

「なんでだよ、こっちがボクの素だよ?」

「なんでもだ」


腕で顔を隠してしまった遊作に和波は起き上がる。手が離れていく。和波?と遊作はちらと顔を上げた。


「藤木君が望むなら、と思ってたんですけど、ね。一応ボクも男の子なんですよ、藤木君」


ぎくりと遊作は固まる。


「和波......?」

「藤木君がその先にいけないなら、ボクにもチャンスはあるかなあ?ってね」

「いや、その、」

「わからないんですよね?」

「あ、でも、な、和波」


焦りながら後ろに下がり始めた遊作に和波はジリジリ近づく。


「不感症てわけでもなさそうですし、ね?」

「なっ」

「ボクも男の子なので、5年間初恋だったこと一緒に寝てるってもうドキドキなんですよ」

「しってる、しってた、でもな、和波、その」

「いいじゃないですか。その先がわからないなら、ボクが」


ぎりぎりまで近づかれ、遊作はこれ以上なく赤くなる。


「なんちゃって」

「え」

「さすがに無理強いできないですよ。でも、ボクも男の子だからずっとはまたないです。待たせすぎたらどうなるか、わかってくれましたよね?覚悟してくださいね、藤木君?」


立ち上がり、スイッチを押す。オレンジの光が淡く照らす。


「お休みなさい」


和波の言葉に遊作はうなずくしかない。そのまま目を閉じた和波は からはすぐ寝息が聞こえてくる。ドキドキを置き去りにされてしまった遊作は寝付ける気がしなかった。





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