決闘再戦(連載夢主と鬼塚)
『お、お、おー?ずいぶんとやる気十分じゃねーか、 ゴースト。お前直々に会いに行くのか、めずらしいな?』

「だってさあ、嫉妬もするじゃん。ボク、一応、playmakerの一番のファンなんですけどー!おっかけもしてるんですけどー!!デュエルもしたのに、一度もあんな風にいってくれたことないもん、GO鬼塚ずるいよ」

『あっはっは、負けても惜しくなるデュエルがあるっていうな。しかも笑ってたじゃねーか、あのplaymakerサマが!草薙に遊作はああいってたけどよ、playmakerとデュエルして好印象残した時点で利用価値ありありだし。5年前の事件の被害者でな時点でいずれは関わる運命だっていうな?』

「一応、最終確認だけどさ、あの名簿に載ってた男の子だよね?」

『おうよ、いくら記憶がなかろうが生体情報は嘘つけねえからな』

「そっかあ。やっぱ惹かれ合うものがあるのかもしれないね、デュエリストとして。よーし、いくよ!INTO THE VRAINS!!」


病院から一日ずっと寝ている姉の精密検査の連絡があり、ふたたび会うことができるのはおそらく日をまたいでから。それを知った 和波は、今日一日寝ない、とHALに宣言していた。デュエル部もアルバイトもそっちのけで、それっぽい理由をでっちあげ、一目散に自宅に帰った 和波は、そのままいつもの患者服に着替えて旧式のポットに入る。playmaker以外は、HALの複製が代行する偽アバターに任せきりの ゴーストを、 和波がやりたい、と宣言した時点でHALは面白がってアバターを用意したのだ。カリスマデュエリストとはもちろん幾度もデュエルをしてきた、主にHALが。 ゴーストを始めたのは数年前なのだから、 ゴーストとしてはGO鬼塚との付き合いはアマチュア時代からスポンサーの支援を受けて独立し、事務所を構えてプロデュエリストとなったころからとなる。デュエル歴は互いに長いのに、未だにリアルで知り合ったことがない、不思議な関係でもあった。


毎回アバターが違う ゴーストである。性別はおろか年齢すらわからないデュエリストである。鬼塚が ゴーストと見分けるのは、名前すらデフォルトのままの初期アバターが《ライトロード》を使用する、という矛盾、そして勘である。事実、模倣犯が多いこのデュエリスト、通称で ゴーストと呼ばれているだけで、デュエルを挑むまで本物かわからないところがあった。もちろん、はじめからそれが狙いである。わかるやつにだけわかればいいのだ。


「やあやあ、久しぶりだね、少年君!ボクとデュエルしない?」


カリスマデュエリストとデュエルしたい人はたくさんいる。たくさんの申請の中で、どのデュエリストとデュエルをするのか、選ぶことができるのはカリスマデュエリストの特権でもあった。 ゴーストのID情報ではすべてが初期値、ランキングは当然圏外、にも関わらずその登録内容が《ライトロード》《トワイライトロード》と並ぶだけで特定できるのは、キーカードが超絶レアカードだからに他ならない。そのテーマカテゴリをそろえようと思ったら現物をスキャンするか、課金するか。現物すら世界大会で入賞というとんでもない難易度を誇るのだ。もちろんキーカードを入れなくても、メインデッキだけでも《ライトロード》や《トワイライトロード》を構築することはできるが、エクストラデッキまで用意されているとなれば話は別だ。


「めずらしいな、お前がこんな公衆の面前でデュエルを挑みにくるとは。通り魔の気が変わったか?」

「やだなあ、人を辻斬りみたいに言わないでよ、鬼塚クン!ボクはデュエルをしたいと思ったら、即行動を信条にしてるだけなんだからね。へっへー、前とアバター変えたのにボクってわかってくれるなんてうれしいなあ!」

「喜んでるとこ悪いが、この俺をガキ扱いするのはお前くらいだからな」

「あははっ、何年の付き合いだと思ってるのさ、鬼塚クン!おっきくなっても少年は少年だよ!」

「いや、少年は大きくなったら青年だろ」

「やあ青年クンってなんか変じゃない?」

「どうでもいいんだが」

「ひっどいなあ、ふったのそっちでしょー?まーいいや、デュエルしてくれると受け取っていいんだね?」

「ああ、望むところだ」

「よーし、じゃあマスタールールといこうか、鬼塚クン!」

「なに?マスタールールだと?」

「いーじゃん、ボクは今マスタールールの気分なんだよ!みんなスピードデュエルにハマって忘れてるかもしれないけどさー、やっぱリンク召喚の真価を発揮できるのはリンクマーカーがフル活用できるマスタールールだよ!違う?」


ホログラム越しに力説する ゴーストに、鬼塚は思わず笑う。わかってるじゃねーか、と返したカリスマに、そうと決まればおいでよ!とアドレスを表示する。鬼塚は ゴーストのデュエルを承認した。鬼塚が転移した先には、すでに準備を整えていた ゴーストが待ち構えていた。


「おい、 ゴースト。お前、気が変わったのか?今までこんな表舞台に出てきたことなかったじゃねーか」

「んー?だって、playmakerが表に出るような時代だよ?やっぱ幽霊もがんがん表に出るべきじゃない?それにさあ、スピードデュエルの流行で結構面白そうなデッキ使ってる人が動画アップロードしててさあ!これはボクも表に出るべきじゃないかって思ったんだよねー!」


安定のデュエル脳である。強いデュエリストを求めて、辻斬り、通り魔、聞こえは悪いがいきなりデュエルを挑んできたかと思うと、気に入った相手のID情報を勝手に抜き取り、デュエルしたい時だけ連絡を一方的によこしてくるデュエル馬鹿の考えそうなことだった。ほんの少しの違和感などあっという間に散見してしまう。こいつは間違いなく ゴーストだ、少なくても偽物ではない。


「いやー、なんか懐かしいねマスタールール。この1ヶ月で環境激変しちゃってさー、大丈夫?デッキ20枚できてない?スキルは使えないよ?メイン2はあるよ?覚えてる?」

「俺様を馬鹿にしてんのか、 ゴースト。もちろんどっちのデッキも構築に余念はねえさ」

「さっすが鬼塚クン!これだからカリスマデュエリストは大好きなんだー、強さが安定しててほんと好き!」

「ご託はいいからさっさと始めるぞ」

「おーけい!」


ゴーストは周囲の回線を遮断する結界を張ろうとはしなかった。報道陣と思われるアバターが近づいてくるのに逃げるそぶりすらみせない。ほんとうに注目の的になる気なのだ、と鬼塚は気づく。ここで負けては男が廃る。playmakerとのデュエルからの復帰戦、大一番である。鬼塚はいつになく気合いを入れた。


「俺のターン!俺は《剛鬼スープレックス》を召喚、モンスター効果を発動だ!このカードが召喚に成功した時、手札から《剛鬼》モンスター1体を特殊召喚することができる!俺は《剛鬼ヘッドバット》を攻撃表示で召喚だ!」


鬼塚のフィールドに青と緑のレスラーが入場する。


「現れろ、俺様のサーキット!アローヘッド確認、召喚条件は地属性モンスター2体!俺は《剛鬼スープレックス》、《剛鬼ヘッドバット》の2体をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!リンク召喚!現れろ、リンク2!《ミセス・レディエント》!!エクストラゾーンに特殊召喚だ!」


かつて《ミリス・レディエント》とよばれていた、地属性モンスターのリメイクカードである。表の姿は可愛らしいペットだが、裏の姿は残忍な猛獣であるというかつてと比べるとだいぶ穏やかな表情だが、効果はかわいくない。


「墓地に送られた《剛鬼スープレックス》と《剛鬼ヘッドバット》のモンスター効果を発動だ、デッキから同名カード以外の《剛鬼》カードを1枚ずつ手札に加える!俺が加えるのは《剛鬼再戦》、そして《剛鬼スープレックス》」


鬼塚の頭上にサーチされたカードが提示される。


「《ミセス・レディエント》がモンスターゾーンに存在する限り、地属性モンスターの攻撃力・守備力は500アップする」


バンプアップ効果がある上に、リンクマーカーは右下と左下にある。これからの展開の布石もこなすのだ。もちろんこの強化は自身にも適応されるため、攻撃力は実質1900である。


「さらに魔法カード《剛鬼再戦》を発動だ!墓地にいるレベルの異なる《剛鬼》モンスター2体を守備表示で特殊召喚するぜ!」


ふたたびフィールドに舞い戻ったレスラーたちは、先頭に立つリンクモンスターの背後で守備を固める。


「カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」


ゴーストはドローを宣言直後から、怒濤の墓地肥やしが始まる。幾度もデュエルをしてきた鬼塚はわかっていた。 ゴーストはフィールドを一掃したいはずだ。だから必ず使ってくる。《裁きの竜》がフィールドに降り立とうとした瞬間、鬼塚は叫んだ。


「おっと、そうはいかねえ!俺は罠カード《昇天の角笛》を発動だ!《剛鬼ヘッドバット》をリリース、そのモンスターの特殊召喚を無効にして破壊する!フィールドから墓地に行った《剛鬼ヘッドバット》のモンスター効果で、俺は《剛鬼》カードを1枚手札に加えるぜ。俺が加えるのは《剛鬼ツイストコブラ》だ」


返しの手はずを整えながら、鬼塚はフィールドを整える。


ゴーストは残っていた召喚権で展開を目指すが、容赦ない《激流葬》がすべてを押し流す。フィールドから墓地に送られたカードによってサーチが強化されていく。防御札がひけなかったのか、 ゴーストは歯切れの悪いままエンドを宣言した。


「俺のターン、ドローッ!!」


好機を逃すほど鬼塚は甘い決闘者ではない。さあいくぞ、と宣言した通り、初手の布陣を召喚権を行使することなくあっという間に再現してしまった鬼塚はカードを掲げる。

「俺は《剛鬼スープレックス》を召喚、モンスター効果により《剛鬼ツイストコブラ》を召喚だ!そして、手札から《剛鬼ライジングスコーピオ》を墓地に送り、俺は手札から《剛鬼ヘッドバット》を守備表示で特殊召喚するぜ!そして、《剛鬼スープレックス》の攻撃力をターン終了まで800ポイントアップさせる!これで《剛鬼スープレックス》の攻撃力は3100。おっと、これでおわりじゃねえぜ。俺は《剛鬼ヘッドバット》と攻撃力を上げていない方の《剛鬼スープレックス》をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン、召喚条件は地属性モンスター2体以上!リンク召喚!リンク2!《ミセス・レディエント》!さあて、リンク召喚の素材になった《剛鬼》たちの効果で俺はデッキから《剛鬼》カードを2枚サーチする!俺がサーチするのは《剛鬼再戦》と3枚目の《剛鬼スープレックス》だ。そのまま発動、《剛鬼再戦》!墓地からレベルの異なる《剛鬼》モンスターを2体、守備表示で特殊召喚する!もう一度、リングに上がってこい、《剛鬼ヘッドバット》!《剛鬼ライジングスコーピオ》!!」


2体の《ミセス・レディエント》のモンスター効果により、フィールドの《剛鬼》たちは攻撃力・守備力が1000上昇している。これで、《剛鬼スープレックス》は攻撃力が4100となっている。


「まだまだいくぞ!《剛鬼ツイストコブラ》のモンスター効果を発動だ!《剛鬼ライジングスコーピオ》をリリース、《剛鬼スープレックス》の攻撃力はターン終了までリリースしたモンスターの元々の攻撃力分アップする!」さあて、俺はまたデッキから同名カード以外の《剛鬼》モンスターをサーチさせて貰おう!これが何を意味するのか、お前にはわかるはずだ!」


恐竜のような頭部、尻尾を振りかざし、青い覆面レスラーは咆哮する。強化に強化を重ねたその姿はさながら恐竜の王である。


《剛鬼ライジングスコーピオ》の攻撃力は2300である。この瞬間、《剛鬼スープレックス》の攻撃力は6400に跳ね上がった。


「さあ、バトルだ!いけ、《剛鬼スープレックス》!」


豪快な一撃である。ダイレクトアタックを食らった ゴーストは、はるか後方に吹き飛んだかに見えた。

だが。

一寸前で止まった攻撃。《剛鬼スープレックス》は仕留めきれなかったのがよほど悔しいのか、恨めしげに ゴーストをにらむ。ふふん、残念でした、と ゴーストはウインクした。


「あーもう怖かったあ!ボクは墓地にある《超電磁タートル》のモンスター効果を発動!この子を除外して、鬼塚クンのバトルフェイズは強制終了させて貰うよ!デュエルはまだまだこれからだ!」


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