ヴレインズ×ズァーク×アバター職人
「よっしゃあ!これでできたぞ、《クラッキング・ドラゴン》!!」


ネットに溢れかえるplaymakerとハノイの騎士のデュエル。何度も見返し、コマ送りし、デュエルの様子と二人の口元の動きからテキストを憶測し、連日連夜の作業の末にようやく完成した渾身の力作。わき出してくる満足感と徹夜のテンションに任せて、一気にカードのデータを完成させた青年はそのデータをバックアップしてすぐ自分のデッキに設定する。有志が作っているリンクヴレインズで使えるフリーのアバターパーツとしてアップロードする予定なのだ。スピードデュエルのルールで遊べるフリーゲームへの投稿、ハノイの騎士のアバターの公開も兼ねて、動画に使う映像を撮ってしまおう。パーツは特定できなかったから自作したのだ、動画に載せるにはモーションとかを見せる必要があるし、ちゃんと動くか最終調整も必要だ。アバターに設定して、オフライン状態で青年はハノイの騎士のアバターでネットの世界に飛び込んだ。職人に憧れて始めたアバター作りなのだ、妥協するわけにはいかないのである。


実家の親より見た顔がそこにはあった(動画的な意味で)。ボイスも悪役の下っ端に使われそうな音声変換プログラムを無駄に仕込んだのだ、ここは傲慢に、上から目線で行わなければならない。禁止用語を使用してAIに指摘されては動画として興ざめだ、青年はいつものように脱獄と呼ばれる行為によって一時的にSOLテクノロジー社のアカウントを外れ、他の規制が緩すぎるアカウントに乗り換える。そして、相手には他の職人たちと競って作っているplaymakerのアバターを着せたAIにデュエルを申し込む。今回はマスタールールといこう。カリスマデュエリストと違ってアカウントに保険をかけたり、別の人が真似できないようにロックをかけていないハノイの騎士やplaymakerたちは実質フリー素材扱いだった。もちろん運営からすれば敵である、勘違いされて運営からBANを食らっても自己責任ということで、として投稿していた。


playmakerの音声に近いボイスを見つけられなかったから、相手は無音だ。先攻は相手。展開は進んでいき、青年のターンがやってくる。


「私のターン、ドロー!」


ふ、と笑おうとした彼だったが、そのまま固まってしまう。


「・・・・・・カメラ止めてくれ」


彼の指示に従い、一時的に動画撮影がストップする。


「何だよ、この手札!?たしかにペンデュラムギミックは入れてたけど、えっ、えっ・・・・・・えっ!?」


彼はあわててデュエルディスクからデッキを引き抜き、1枚1枚確認する。《クラッキング・ドラゴン》を活躍させるために作ったはずの機械族ビートダウンデッキがそこにはなかった。代わりに存在するのはその大半が知らないカードたちである。SOLテクノロジー社でもなく、有志たちのWIKIから借りてきたものでもなく、正体不明のカード。


「まさかウィルスに感染したとかいうなよぉっ!?」


デュエルディスクやアバター、このパソコンにウィルススキャンをかけるよう指示を出し、彼は突然出現したデッキにウィルスが仕込まれてる可能性を考慮して隔離しようとした。メインデッキからはずし、カードプールとは別の隔離スペースに放り込もうとしたのだができない。謎のエラーが頻発する。


「やっぱ悪のりがすぎたパターンかこれ・・・・・・?」


本家本元を怒らせてウィルスを仕込まれたんだろうか、と一瞬冷や汗が伝う。《クラッキング・ドラゴン》はハノイの騎士のリーダーがあの男に託したらしいから、元をたどればリーダーのカードでもあるのだ。さすがにクラッカー集団のエース級のカードを再現するのはまずいのだろうか。設定は勝手に書き換えられ、メインから外せない。というかログアウトできないことに気づいてしまった青年はいよいよ凍り付く。


この他社AIの音声はデフォルトのままだ、変更設定はしてないはずである。なのにを切っているはずのAIがしゃべり始めたのだ。青年の知らない、若い男、下手をすれば青年と同じくらいの、の声で。


『何をしている、お前の望み通りに設定してやったんだから早くデュエルしに行け』


尊大な声だった。


「だ、誰だ!?」

『名は忘れた。だがお前の期待に応え、強くなりたい、デュエルでもっと激しく戦いたい、と望むモンスターの声が愛らしくてたまらないから力を貸してやっただけだ。これだけ愛されてるくせに声すら届かないとは不幸なやつめ。俺が代弁してやるから感謝するんだな』

「!?」


青年はますます混乱する。ハノイの騎士の報復にしろ、playmakerによるハノイの騎士の復讐の邪魔になるからやめろという警告にしても、この奇妙な思考を持つウィルスプログラムはなにをいっているんだろうか。まさかハノイの騎士のふりをしてデュエルして、運営に見つかりBANされろとでもいってるんだろうか。冗談じゃない!必死で抵抗するがこのAIは相当自主学習機能が強化されているようで、独学でプログラミングを勉強した程度の青年では歯が立たないようだ。やがて数時間が経過し、どうしようもないとわかってしまった青年は投げやりな思考のままリンクヴレインズにアクセスしたのである。


脱法したままのアクセスだ、むろん違法である。


当然、突然現れたハノイの騎士に通りすがりの決闘者は仰天するが、青年は一緒に連れてきたユニットたちに機材を運ばせる。そしてカメラを回すよう指示を出す。撮影は慣れているのだ、基本促進PVはひとりでやってきた。撮影が公になるだけだ。青年はWIKIのアカウントを提示する。


ここにいるのは決闘者だけだ。もちろん反応する人間はいる。


「もしかしてステラさん!?やっべえ、今回はハノイの騎士のアバターですか!?」

「あ、はい、そうです」

「もうできたのかよ、はえーな!?やべえ、デッキもあるんだ!?」

「ってことはデュエルのモーションも!あの、もしよかったら俺とデュエルしてくれませんか!playmakerのアバター使わせてもらってます!そのアバターも使いたいので、是非!俺、playmakerのアバターでログインし直すんで、よかったら!」

「え、いいんですか?」

「さすがにデッキはサイバースじゃないですけど、特定できないよう加工してアカウント隠してもらえれば全然!」

「ありがとうございます」


ステラ、と呼ばれた青年はログインし直した通りすがりの決闘者とデュエルすることになったのだった。

相手は今のところ明らかになっている《サイバース族》のオリカと《シンクロ召喚》を混ぜたビートダウンを使っているようだ。ステラのターンが回ってくる。


「私のターン、ドロー!」


手札に舞い込んだのは《クラッキング・ドラゴン》である。

(これはエクストラゾーンにあったあのカードを呼べってことか?)


『何度も言わせるな』

「!?」

『お前のモンスターがお前に呼ばれたがっている。俺を呼んでどうする。俺はお前のモンスターの、主に声が届かないのに健気に頑張ると息巻くその姿を気に入っただけだ。お前のモンスターはお前に呼ばれたがっているんだ、察しろ』


青年は笑うしかない。


「素晴らしい・・・・・・この手札ならば!私のターン!」


ハノイの騎士の一人称が確認できたのはplaymakerが初めて公に姿を現したあのデュエルしかないのだ。ステラはカードを掲げる。


「私はスケール5《覇王眷竜ダークヴルム》をライト・ペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム効果を発動だ!1ターンに1度、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキから《覇王門》ペンデュラムモンスター1体を選び、自分のペンデュラムゾーンにおく!この効果の発動後、私はターン終了まで闇属性モンスターしかペンデュラム召喚できない!」


まがまがしい風が吹きすさぶ。すげえ、と観客が呼ぶが、こんな演出もちろん知らないし、ステラはこのカードの効果はしっていても実際にどんなモーションのモンスターなのかは知らないのだ。AIは沈黙を守っている。それだけが恐ろしかった。


「私はデッキからスケール13《覇王門無限》をレフト・ペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!来い、レベル8!《クラッキング・ドラゴン》!!」


徹夜の勢いで作り上げたモーションだが、これ以上ないほどの傑作な気がする。咆哮する《クラッキング・ドラゴン》はさながら生きているようだ。


「手札から速攻魔法《捕食生成》の効果を発動!手札の《捕食》カードを2枚相手に開示し、その数だけ相手フィールドの表側表示のモンスターに捕食カウンターを1つずつ置く。捕食カウンターの置かれたレベル2のモンスターはすべてレベル1になる!そして、手札から《捕食植物スキッド・ドロセーラ》を捨て、《クラッキング・ドラゴン》を対象にモンスター効果を発動!このターン、捕食カウンターが置かれた相手モンスターすべてに1度ずつ攻撃することができる!さあ行け、《クラッキング・ドラゴン》!トラフィック・ブラスト!!」


おー!と歓声が上がる。


『さあ、お前にはこの俺をこのリンクヴレインズにばらまいて貰う仕事が待ってる。まずは俺のカードの性能を人間共に見せつけるところから始めるんだな、せいぜい励め』


ありがとうございました、とお礼を言いに行ったステラは、さっきのカードなんですか、すごいですね!?と視聴者らしい相手に問いかけられる。もちろんスプリクト公開してくれますよね!?と期待のまなざしを向けられ、ステラはうなずくしかなかったのだった。


まさかその動画公開後、ハノイの騎士やplaymakerからデュエルを挑まれることになるなど、ステラは知りもしないのである。



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