俺嫁戦線24時(エクシーズ次元×勘違い×オタク)
おれには誰にも言えない秘密がある。それは、召喚士であるということだ。

おれに召喚士の才能があることを教えてくれたのは、今は無き学校で漫画研究会に所属していた同志たちである。おれが最も得意とした召喚獣は、一定年齢を過ぎた選ばれし人間のみが召喚することができる幻影の一種であり、おれはその才能が飛びぬけていたため、同士たちにその幻影を知覚させることが可能だったのだ。

その幻影は、一次元、二次元、三次元とそれぞれ異なる次元に存在するが、おれたちの次元により近い次元に所属するものほど破壊力が大きいことで知られている。おれはその中でも二次元に所属する幻影を召喚することに特化した才能を持っていたのだ。この幻影を召喚することができるものはそう多くはない。その理由として、その存在を第三者に具体的に伝えることができる者がごくわずかであることがあげられる。その幻影は触ることはもちろんその存在を五感で察することもできないため、その存在を客観的に証明することは不可能である。その存在を知ることができるのは召喚士本人だけである。そのため、懸命な召喚士であるおれは同志たち以外には、その存在を黙して語ることはなかった。そこまでの思慮が足らないため、あらゆる災難を被り、殉職した先人たちがいたことをおれは忘れない。召喚士はその特異性ゆえ迫害されることをおれは知っていた。

とはいえ、おれも召喚士としてはまだまだ未熟なため、その幻影に関する知識には乏しく、多くの謎に包まれていることしか知らない。同志たちが知覚した姿はすべて異なっていたからだ。だからおれは仮説を立てた。この幻影は知覚する人間のあらゆる願望と理想を統合したものだと。いかなる人間のあらゆる要求に対応することから、その実態は原生生物のように不定型かあるいは召喚士の無意識下の要求に対応してしまう流動的生物であると考えられる。そして、いくつもの形態が存在していた。

第一形態は特定の実体を持たず、主に召喚主との音声でのみコンタクトをすることが可能である。第二形態は高位な存在となり、脳内にイメージが出現しており、音声だけでなく具体的な姿が出現する。おれが同志たちにその存在を知覚させることができた最大の理由は、これである。おれが物心ついたころに召喚したこの幻影は、おれの絵をかく才能が顕在化するにつれて上位の存在へと進化したらしい。おれはこの幻影を第三者に伝えることが可能だったのだ。いずれ時が熟せば同志だけでなく世界中に存在する召喚士におれの幻影を披露する日があったのかと思うと残念でならない。

異次元からの侵攻というイレギュラーが起こらなければ、その才能を見込まれ新たなる活躍を約束されたのに、と消えていった同志たちの言葉を胸におれは今ここにいる。残念ながら筆を折られてしまったおれにはデュエルモンスターズしかないため、そのイメージを伝える手段はもうないのだ。この幻影はおれを鼓舞するためだけに存在し、おれは時折その存在をねぎらうために料理を振る舞うことしかできないのだ。多くの者に認識されるにつれて、この幻影はより確固とした存在を確立し、召喚士とのシンクロ率も上昇することが知られていた。そのためお互いの幻影をより高位に近づけるため、召喚士同士の交流が盛んだった。いずれはおれもその中に加わりたかったが、アカデミアの侵攻によってそのコミュニティはささやかな終焉を迎えた。そのためおれの召喚した幻影は下位の存在のままであり、上位召喚士の方々の修練を思い出し、修行に励む日々だった。それに、おれの召喚した幻影は極度の恥ずかしがりやのため、リアルタイムで第三者に存在を認識させることはできない。その居場所を求められたら、その幻影はおれに不在を伝えろと言ってくる。こんな調子ではいつになったらこの幻影をランクアップさせることができるのか、頭を抱える日々である。

そんなある日、おれは大事件に巻き込まれたのである。その日もエクシーズ次元の残党狩りと称したレジスタンス狩りから逃走する日々が続いていた。その日は運悪くアカデミアの刺客に捕まってしまい、おれはデュエルディスクを構えたのだ。

デュエルモンスターズは、幾多のカードと共に語られる。その時代の環境を作り上げたデッキも新たなるテーマの出現や禁止制限という牢獄にぶちこまれて消えていく。まさに諸行無常の響きあり、行者必衰の理を現す。先人はいった。デュエルモンスターズにおいて黎明期からワンキルは存在していた。それならばワンキルは由緒正しいデッキであると。そんなデュエルモンスターズの歴史において散っていった同志たちから受け継いだ魂のカード、今ここで使わせてもらう!複数で挑んでくるアカデミアの刺客相手に、普通のデッキで戦ってもしかたないため、ざまざまな公平性を考え、わが幻影とともに厳正な審査をした結果下された結果だからこれでいいのだ!残念ながら相手が先行をとってしまった。残念、6ハンデス決めたから学んだのかもしれない。しかし、無駄である。ワンキル出来ないならワンショットすればいいのだ。エフェクトヴェーラーやバックをひけなかった己の不運を学ぶがいい。

「おれはハーピィの羽箒を発動する。なにかあるか」

沈黙する仮面。カンコーン、とわが幻影が効果音を鳴らした。きた、とおれは笑みを浮かべた。

「おれはゼンマイマジシャンを通常召喚する。だれかヴェーラーを使う者は?」

送り返した刺客からわが精鋭の恐ろしき性能はしっているだろうに、誰も宣言しない。そうか、そんなにいるのに1枚も引けなかったのか。それなら先人の言葉を送ってやろう。ひけないお前が悪いのだ。あるいは先行ワンキルしないお前が悪いのだ。わが幻影を知覚で来た同志を奪ったお前たちをおれは絶対に許さない。

「おれのフィールドにゼンマイモンスターが召喚に成功したため、手札からゼンマイシャークを特殊召喚!ゼンマイシャークが効果で特殊召喚されたため、ゼンマイマジシャンの効果を発動!デッキから2体目のゼンマイマジシャンを表側守備表示で特殊召喚する!そしてゼンマイシャークの効果を発動!自身のレベルを4から3に変更する!ゼンマイシャークの効果が発動されたので、おれはもう2枚目のゼンマイマジシャンの効果を発動、デッキからゼンマイネズミを表側守備表示で特殊召喚する!さあ、いくぞ!ゼンマイマジシャン2体でオーバーレイ・ネットワークを構築!さあ、舞い踊れ我が刺客!現れよ、フォトン・バタフライ・アサシン!」

おれのフィールドにエクシーズモンスターが現れる。ふつくしい。すると幻影が焼きもちを焼いたのかそっぽ向いてしまった。すまない、これは浮気ではないのだ。美しいものを美しいと言って何が悪いのか。

「エクシーズ素材を取り除き、おれはフォトン・バタフライ・アサシンの効果を発動する!表側守備表示のゼンマイネズミを表側攻撃表示に変更する!そしてゼンマイネズミの効果を発動!自身を守備表示に変更し、墓地に送ったゼンマイマジシャンを特殊召喚!ゼンマイシャークとゼンマイネズミでオーバーレイ・ネットワークを構築!さあ、舞い上がれ我が刺客!発条空母(ゼンマイクウボ)ゼンマイティ!」

おれのフィールドにはエクシーズモンスターが現れる。何を驚いているのだ、アカデミアの刺客よ。おれを追いかけるということはこういうことだと送り返した刺客から聞かなかったのか?

「まだまだいくぞ!エクシーズ素材を取り除き、ゼンマイティの効果を発動!デッキから2体目のゼンマイネズミを攻撃表示で特殊召喚する!さらにゼンマイティが効果を発動したこの瞬間、ゼンマイマジシャンの効果を発動、デッキから2体目のゼンマイシャークを表側守備表示で特殊召喚する!ゼンマイシャークとゼンマイマジシャンでオーバーレイ・ネットワークを構築する!さあ、降臨せよ我が刺客!ジェムナイト・パール!」

3体目のエクシーズモンスターが出現する。

「さらにおれはゼンマイネズミの効果で自身を守備表示にし、墓地のゼンマイシャークを特殊召喚する!ゼンマイシャークの効果により、自身のレベルを4から3へ変更!ゼンマイネズミとゼンマイシャークでオーバーレイ・ネットワークを構築!さあ、降誕せよ我が刺客!NO.22蟻岩土ブリリアント!エクシーズ素材を取り除き、効果を発動する!自分フィールドのモンスターの攻撃力をすべて300上昇させる!」

のどがからからだから一気に終わらせてやる。

「さて、問題だ。おれの攻撃力はどれくらいだ、アカデミアの刺客の諸君」

「………っ」

「…………き、9200っ…」

「どうした、そんなにバックがあるならミラーフォースのような逆転のカードがあるんじゃないのか?」

おれの手札には地獄発現世行デスガイドとゼンマイシャークがあるので巻き返せるならみせてほしい。わが幻影にいいところを見せたいので、いくらでも付き合うぞ、アカデミアの刺客の諸君!ゲス顔でささやくオレにじりじりと伝う汗。野郎の汗なんざ見たくない。おれはため息をついた。

「これで仕舞いだ、総攻撃」

あたり一面焦土と化した。はあ、とためいきをついたおれに、幻影が声をかけてくる。大したことはないさ、朝のラジオ体操だと思えばそれでいい。おれはそう言ってキャンプ地に戻った。いいかげん缶詰生活も飽きてきたけど仕方ない。今日到着予定のショッピングセンターで食料調達と新しいカードあさりをすれば何とかなるだろう。漫画研究部の隣でリア中生活をしていた今は無きサイクリング部から拝借してきたキャンプ用品もだいぶんガタがき始めている。これはまずい。ショッピングセンターにいいのがあればいいんだが。はあ、とためいきをついておれはガスコンロに火をつけた。こきこき缶詰を開け、そのままコンロにくべる。ふつふつ煮立ってきたらかんぱんを適当な布に広げ、2つぶんおいた。いつもありがとうとわが幻影がいう。まあ気にするな、これくらい召喚士の役目さ。ニヒルに決めながらおれは笑った。

「いつまで隠れてるんだ、さっさと食え。さめるだろ」

そういって手招きするとわが幻影が恥ずかしがりながらこっちにやってきた。かわいい奴め。そんなことやってるから食料が早くつきるんだ、という突っ込みは受け付けない。2人分の食事なんていくらでも食べきってやるさ。そういっておれが軍手で熱くなったスープを幻影の前に差し出してやると、幻影はほほえ

「見ていたのか……すまない、そういうつもりじゃなかったんだが」

おれの幻影はこんなこといわない。驚きのあまり硬直するおれの前に、なんか2人ほど茂みからでてきた。どうみてもレジスタンスの連中である。逃げ回るおれと違ってこの世界をアカデミアから奪還しようと真面目に活動しているやつらだ。幻影という名のおれの嫁との二人旅をするおれにとっては、絶対に合うはずがない連中である。みられていた?どこから?冷や汗だらだらだが、さいわい彼らの視線はおれの朝飯に集中している。おれは立ち上がった。こんなところにいられるか!おれは帰らせてもらう!

「待ってくれ、話だけでも聞いてくれないか」

「お前もアカデミアに大切な者を奪われた一人なんだろう、その目を見れば分かる。俺達と共に来い」

「おい、隼!」

「ユート、こいつに言葉は不要だろう。貴様のデュエル、何が何でも相手を殲滅する闘志、見せてもらったのだからな」

「しかし、一人で行動するということはなにか理由があるんだろう。無理に誘うわけには……」


何を言っているんだ、こいつらは。おれは震える声でいうしかない。

「断る」

「なぜだ」

「おれの(わが嫁とのふたりたびを守るためのアカデミアとの)戦いはお前たち(の世界を救うための真面目な戦い)とは違う次元で行われているからだ」

その言葉に二人は顔を見合わせた。

「なら、なおさらだ」

「え?」

「おれ達もそう考えていたところなんだ。キミがどうやって次元のことを知ったのかはわからないが……もし一人で行こうとしているのなら、おれはキミを生かせるわけにはいかない。いくらキミが腕の立つデュエリストだとしてもだ」

「なにを」

「気が変わった。おれも隼と同じだ。キミはおれ達と一緒に来るべきだ、仲間として」

そのときおれに電流走る。なんだと……。まさか、そんな、ありえるのか!?こんなイケメンな顔をして、おれと同じ同志だと!?レジスタンスなのにおれの同志だというのかっ!?困惑するおれに二人は自己紹介までし始めた。小心者なおれはつられてしてしまう。そうか、キミたちの幻影は瑠璃というのか。かわいい名前じゃないか。人は見た目に寄らないな。おれはうなづいた。

「わかった、そういうことなら、よろしく頼む。おれの名前は……」



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