ヴレインズ試作A
アカデミアの別学部ながら親交がある友人がいた。彼は決闘王がかつて使用していた《ガジェット》を極めるためにアカデミアの門をたたき、融合コースに進んだがその才能を見込まれて新規の《ガジェット》で好成績を収めた。その結果、《ABC》というかつて海馬が使用したことで知られる《VWXYZ》のリメイクテーマをもらい、《ガジェット》と組み合わせることで台頭していく。融合だけでなくエクシーズ、シンクロ、儀式、と様々なコースを渡り歩き、できあがったデッキとともに彼、和波誠也と《ABCドラゴン・バスター》は代名詞となった。彼との親交は去年の冬、実家に帰るのだという終業式を最後に途絶えることになる。

始業式になっても姿が見えない。そして担任の先生から彼が帰省先で事故に巻き込まれ入院中だと聞かされた、。それからずるずると理由は変われどアカデミアに帰ってこない彼は、気づけばいないことが当たり前になってしまう。そしてスランプから脱出することができないまま、彼はアカデミアを去ってしまった。地元の高校に編入した彼はずっとデュエルモンスターズの大会に出ていない。それは大会結果をネットで確認するからすぐにわかる。あれだけデュエルが大好きだったのに。それだけが残念でならなかった。

そして、彼が編入した先の学校に一時的にいくことが決まったと知ったとき、遊星はその衝撃を忘れることはできなかった。彼の地元は天下の海馬コーポレーションのお膝元であり、決闘王の生家がある世界中の決闘者にとっての聖地だ。ライディングデュエルのアカデミア代表として出場することが決まったとき、何よりも心が躍った。長期にわたる世界大会である。ここから遊星にとってのDホイーラーとしての長い道のりは始まるのだ。とはいえ本業である学業をおろそかにしては天下のアカデミアに傷がつく。そのため長期滞在となるこの街で、遊星は一時的にだが一般の高校で特別カリキュラムではあるがこの国の高校生が取得すべき課題を消化することになると聞いたとにはさすがに気落ちした。でもその一時留学のような扱いの先が童実野高校と知った時点でその日が楽しみになったのだから我ながら単純だ。

2年ぶりに一般の学校に足を踏み入れた遊星は、慣れない学ランに苦戦しつつも黒板に字を書く。不動の名字に教室がざわめいた。そりゃそうだ、不動と言えば海馬コーポレーションでライディングデュエルを支えるモーメント開発を行う研究者の代表者の名前なのだから。そしてアカデミア出身でDホイーラーとくればもう息子だと言っているようなものだった。遊星の考えている以上に一般的な認知度は高かった。記者会見や大きな学会でよく顔を出すからだろうか、父によく似ているとよく言われる遊星は図らずも人気ものとなった。

転校初日の洗礼から解放されたのは、たまたま席が隣になったクラスメイトが連れ出してくれたおかげだった。
「すまない、ありがとう」

「いいよ、それくらい。なんかごめんね、みんなはしゃいじゃったみたいで。ライディングデュエルの大会なんて初めてだから、みんな浮かれてるんだ」

教室を案内しながらクラスメイトは笑うのだ。そしてあらかた回り、屋上で休憩をしていたとき、遊星は切り出した。

「ひとつ聞きたいんだが、いいか?」

「うん?」

「この学校に、和波誠也がいると聞いたんだが、知ってるか?」

「あ、あー、和波?うん、知ってるよ。あ、もしかしてあっちで仲良かったとか?」

「ああ、そんなところだ」

「そっか」

クラスメイトはどこか言葉を濁している。

「なにかあったのか?」

「いや・・・うーん、まあね。一応、和波って童実野町出身だからさ、アカデミア行ったことは小中同じだった奴らはみんな知ってるんだよ。それがたった1年で帰ってきたらどうなると思う?」

「・・・・・・そうか」

「うん、そういうこと。今でこそほとぼり冷めてるけど、一時期すごかったよ」

「和波は大丈夫なのか?」

「うん、今は気にしなくなってるみたいだよ。仲良かった僕みたいなやつとはまだ続いてる」

「俺が会っても大丈夫か?」

「まあ、アカデミアでのことはいつも楽しそうに話してたし、たぶん大丈夫じゃないかな。ただ・・・」

「ただ?」

「デュエルは期待しないほうがいいよ」

「えっ」

「和波、こっちに転校してからほんとにデュエルしないんだ。アカデミアじゃないけど、僕らだってそれなりにやってるよ、デュエルモンスターズ。でも和波、一度も持ってきてないんだ、デッキも、デュエルディスクも」

「そうなのか」

「うん、大会にも出てないしね。だから僕らの中ではやっぱりまだ厳しいのかなって思ってる。だからあんまり期待しないでやってね」

「わかった。ありがとう」

「うん、どういたしまして。でも安心したよ、和波と仲いいやつが来てくれて。あいつがいつも僕たちに気を遣って嘘言ってるんじゃないかって不安だったんだ」

そういいながらクラスメイトは和波に連絡を取る。

「はい、連絡先。いろいろ、僕たちじゃわかんない話もあると思うしさ、時間見て会ってみたら?」

「ああ、そうする。ありがとう」



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