それはカオスにいたる物語(僕遊馬とカオスヒロイン)
「アストラル」

「なんだ、遊馬」

「ぼくが、デュエルしてもいい?」

「遊馬が?」

「だめ、かな」

アストラルは驚きのあまり、しばし言葉を失った。その沈黙からなにを連想したのか、少しずつ遠慮や戸惑い、緊張といった柵から溶けつつある遊馬は、初めてであった頃のようにおどおどしている。アストラルとの出会い、ナンバーズを集めるという使命、やりたくないいやだ怖いと泣き言ばかり言っていた少年は、アストラルの記憶喪失とナンバーズの関係、遊馬がいやがってもナンバーズを求めてやってくる人間が多くなってきたことでなし崩しで争いに巻き込まれてしまった。アストラルが死んじゃうのはいやだ。でも僕は弱いからデュエルしたくない。デュエルの実力はアストラルの方が上だから、僕の体をかしてあげる。でもデッキは僕のを使ってほしい。お父さんの大切なデッキだから。そういってデュエル中はいつも体を貸し、精神体であることを選んでいる遊馬が今回はデュエルをしたいという。アストラルはいつも遊馬の心とナンバーズを天秤に綱渡り的なデュエルをしてきた。遊馬の発言がどんなに驚きを持ってむかえられたか、わかるというものである。

「ああ、わかった」

「ほんとに?」

「君がナンバーズをかけたデュエルに身を投じたいと私に言うのはこれが初めてだろう。その勇気を私は尊重したい。私の命、君に預けよう。勝つぞ遊馬」

「う、うん!」

「それだけ、助けたい相手なんだろう?」

「うん」

その言葉だけははっきりとした意志を持って返された。

遊馬の視線の先には、デュエルディスクを構える女性がいる。ナンバーズにとりつかれているのか、目はうつろであり焦点があわない。アストラルと感覚を共有する遊馬もきっとまがまがしいオーラをまとっているのがわかるだろう。今までのナンバーズとは明らかに性質が違う。アストラルの記憶の中でも重要な位置にあるナンバーズなのか、それともナンバーズ自体が悪質な性質を持っていて彼女に影響を与えているのかはわからない。それでも、あんな顔をして、みんなを傷つけるような言葉を投げて、カードを奪うようなことをするのは、遊馬の大好きな近所のお姉さんではない。それだけは確かだという。

アストラルも何度も見たことがある女性である。近所にすんでいるお姉さん。遊馬が小さいころからよく知っており、小鳥たちと一緒に遊んでくれた優しいお姉さん。姉である明里の友達であり、仕事上の繋がりもあるのかよく遊びに来る。遊馬は彼女によく懐いていた。遊馬がマジックアンドウィザーズを始めたと聞いて、喜んでデッキを持ち込んでデュエルするようになった決闘者でもある。明里に止められていた、とは彼女曰くオフレコである。アストラルの見解では結構な実力者にみえたが、デュエル由来の仕事ではないらしい。いたって普通の仕事をしているようで休日くらいしかデュエルができないと嘆く普通の女性だった。もったいない、とアストラルも遊馬も思っているが、趣味と仕事は一緒にしたくないと彼女は軽快に笑っていたことを思い出す。たしかに、今の彼女はアストラル、遊馬、どちらからみても違和感しかなかった。


「ねえ、遊馬くん」

「なに?」

「遊馬君、ナンバーズもってたよね?」


彼女の口からナンバーズという言葉がでた時点で、完全に乗っ取られている、と二人は確信する。彼女はアストラルもナンバーズも全く知らないはずなのだから。


「お姉ちゃんのいいつけやぶってデュエルしてるけど、いいの?お父さんから遊馬君はデュエルしちゃいけないって明里はいわれてたみたいだけど」

「それ、は」

「負けたらカードになっちゃうんでしょう?いいの?みんな、悲しまない?」

「でも、僕は、やるってきめたんだ」

「そっかあ。そういう目をしちゃうんだね。それは私の役目だと思ってたんだけどなあ」

「え?」

「妬けるなあ」

遊馬と彼女の仲の良さをみるたびに、複雑な心境だったアストラルは気まずくなり目をそらす。遊馬の心とナンバーズを天秤に掛ける罪悪感と戦っていたアストラルである。彼女を助けるためにデュエルをしたいと願う遊馬をみてためいきしたくなるくらいには妬いていた。

「遊馬君の気持ちはわかったよ。でも、私もナンバーズがほしいの。だから、悪く思わないでね」

彼女はデュエルディスクに手をかける。

「くるぞ、遊馬」

「う、うん!」

彼女は妖艶にほほえむ。遊馬は恥ずかしくなったのか、顔を赤らめる。デュエルディスクは彼女を選んだ。

「私は手札からモンスター1体を墓地に送って魔法カード《ワンフォーワン》の効果を発動するね。手札、デッキからレベル1モンスターを1体特殊召喚するわ。おいで、《レベルスティーラー》。そして手札から《金華猫》を召喚するわ」

「レベル1が2体!?こ、こんなナンバーズが存在するのか・・・・!?くるぞ、遊馬!」

「レベル1《レベルスティーラー》とレベル1《金華猫》でオーバーレイネットワークを構築。さあ、ようこそ私の図書館へ。エクシーズ召喚!ランク1《ナンバーズ・アーカイブ》!」

気づけば遊馬たちは巨大な図書館にいた。緑色に淡く光る本がたくさんならんでおり、カタカナによくにた言葉がならんでいる。


「こ、これは・・・・私は、どこかで」

「アストラル知ってるの?」

「わからない、でも、とても懐かしいきがする」


とまどいがちにあたりを見渡す遊馬とアストラルに、彼女は笑う。


「このカードは、私にいろんなことを教えてくれたわ。エクシーズユニットを1枚取り除いて《ナンバーズアーカイブ》の効果を発動よ」

遊馬の前に、突然浮遊した本達が周りを取り囲む。

「1ターンに1度、エクストラデッキから遊馬君がランダムでカードを1枚選んで、それがナンバーズだったとき、《ナンバーズアーカイブ》に重ねることでエクシーズ召喚扱いで特殊召喚する事ができるわ」

「な、なんだって!?」

「え、え、それって・・・・」

「何枚ナンバーズを持っているんだ、彼女は」

1枚でもおかしくなってしまうカードである。選ばせるほどのカードを所持している事実が遊馬を戦慄させた。助けなきゃ、という思いが強くなる。さあ選んで、とせかされ、遊馬は迷った末1枚選んだ。

「《ナンバーズアーカイブ》でもう一度オーバーレイネットワークを再構築!さあおいで、NO.24《竜血鬼ドラギュラズ》!エクシーズユニットを1枚取り除いて、効果を発動するわ。裏側守備表示に変更するわね。これで《ナンバーズアーカイブ》のターンエンド時に除外されるデメリットは打ち消しよ。いいカードを選んでくれてありがとう、遊馬君」

「今のお姉ちゃんはやだよ、僕。僕の知ってるお姉ちゃん、返して」

「そんなこといわないでよ、遊馬君。私は私よ?」

「違うよ。だって、僕の知ってるお姉ちゃんは、誰かを悲しませることなんてしない。待ってて、お姉ちゃん。僕が、僕が助けるから!」

僕のターン、ドロー!今までになく力のこもったドローだった。その衝動はアストラルにも伝染する。まるで自分の気持ちのように、彼女を助けたい、と願う自分がいることにアストラルは戸惑いをかくせない。今まで、ここまでシンクロしたことがあっただろうか。これはアストラルと遊馬の体と心に何らかの変化が生まれ始めている証だ。これは始まりだった。彼女がバリアンに属する存在だと判明してからも、このとき感じた気持ちだけは本物だったということを、アストラルは否定できないでいる。




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