俺嫁戦線24時2-2
ユートがこない。難民キャンプを取り囲む厳重なバリケードと検問所の前におれはいた。もともと二人で見回ることになっている。ユートはおれと一緒に回るはずのレジスタンスの仲間に交渉しているのか、仲間も来ない。どうするか。手持ちぶさたもいやなので、デッキ調整でもするか、とサイドを眺めながらデッキをいじり始める。さすがにユートをおいていくわけにはいかない。


腕時計をみる。もう引継をすませてから20分が経過している。それだけ難航しているということだろうか。寝ずの番だ、おれなら二つ返事で昼間の警戒と交換してもらうのに。ユートもよほど眠くないとみた。こうして時間だけがすぎていき、さすがに駐屯地に戻ろうか迷い始めた頃、耳をつんざくような警報が鳴り響いた。


融合次元の刺客、オベリスクフォースの強襲である。位置を観測した警報と放送が聞こえる。さいわいここが探知された様子はない。そのまえにつぶさなければ、瓦解の芽は咲くまえに摘むべきだ。


ユートへの伝言を警備員に伝え、おれはいち早く観測された地点に向かう。


「貴様は!」


どうやら相手はおれのことを知ってるらしい。オベリスクフォースはみな同じ格好をしている上に、デッキも同じなのだ。判別する気がなければ、覚えられるはずもなく。


「おれのことを知ってるらしいな」

「貴様ぁ!俺のことを覚えていないだと!?貴様のせいで俺はこんな軟弱な次元の残党狩りなんて任務を延長されたんだぞ!どうしてくれる!」

「くだらん」

「なにが通りすがりの決闘者だ!レジスタンスじゃないか!騙したな!!」

「おれは事実を言っただけだ、嘘などつくわけがないだろう、ばかばかしい」


なぜか激昂しているオベリスクフォースが即座にデュエルディスクを構える。


「今の俺はあのときとは違う!1対5のバトルロワイヤルモードで貴様に再戦を挑む!初期手札は5枚、ライフは4000だ!」

「いいだろう、それがお前たちの流儀なら従うまでだ。そして叩き潰す」

「ぐぬぬぬぬ、それがきにいらん!やるぞ、お前らあ!」


その声に応じて、前に進み出てきた融合次元の決闘者は5人。おれはデュエルディスクを構えた。


「墓地と除外は共有か?」

「そうだ」

「エクストラは?」

「それぞれのデッキとなる」

「魔法罠の効果範囲は?全体か?決闘中のデュエリストのみか?」

「全体だ。つまり!俺たちが俺たちこそが正義というわけだ!数の上をいく者こそが勝者となることを教えてやる!」

「やってみろ。ただし先行はおれがもらう」


おれの言葉に応じるように、デュエルディスクが点灯する。偶然だろうが、封殺する気満々だったオベリスクフォースは舌打ちをした。デュエルの開始の宣言をしたおれは気にすることなく手札をみる。気が狂ったと言わざるを得ない不平等な状況下ながら、おれは異議を唱えることなく、デュエルが成立した。数の差は結果を見通せる。ほかのオベリスクフォースは余裕を見せているが、一度おれのデュエルを体験した者だけがその笑みの意味を悟って息をのんでいる。 生き残りそうなのはこいつだけか。


「お前たちとのデュエルの敗北はカード化だったな。そこのお前はおれとのデュエルの経験者だったらしいが、なら見せてみろ。足掻いて見せろ。おれをがっかりさせるなよ?さあ、闇のゲームを始めようじゃないか」


不敵な笑みをたたえて、おれは宣言する。


【吉波 LP4000】
【オベフォ1 LP4000】


「お互いのフィールドにモンスターがいないため、手札から《こけコッコ》をレベル3モンスターとして特殊召還する」

「ならば《増殖するG》を手札から墓地に送って、その効果を発動!貴様が特殊召還するたびにデッキからカードをドローする!」

「《増殖するG》か、いいカードだ。だが無意味だということを教えてやる。お前たちは伝説の決闘者が使いしカードを知らなかったな。《エフェクト・ヴェーラー》に準ずるカードが引けるよう祈っておけ。デッキに《禁じられた聖杯》がないならば、ご愁傷様だ。さらにレベル3の《俊足のギラザウルス》を手札から特殊召還」


おれの前には同じレベルのモンスターが2体並んだ。


「レベル3の《こけコッコ》と《俊足のギラザウルス》でオーバーレイ・ネットワークを構築!舞い上がれ、我が刺客!ランク3《発条空母ゼンマイティ》!」


おれの前には巨大な戦艦が浮遊している。オベリスクフォース達はドローし続けているが、いいカードがこないのか顔色が悪い。もしかしたら、デッキの性質上入っていないのかもしれない。止める気配がないなら問題ないのだ。おれのソリティアは加速する。


「そして、手札からレベル4の《ゼンマイマジシャン》を通常召還!《発条空母ゼンマイティ》のオーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、おれはデッキからゼンマイと名の付いたモンスターを1体特殊召還する!現れよ、もう1体の《ゼンマイマジシャン》!さあ、悪夢の始まりだぜ!」


デュエルの不穏さを再戦以外のオベリスクフォースも感じ始めたようで、冷や汗や呼吸の荒さ、浅さ、血の気の引いた顔色の悪さが伝播していく。これで二度と再戦なんてバカなことを考えなければいいが、と思いながら、おれは笑みを深くする。先行きの不気味さに、意を決して仮面の男はカードをドローする。このソリティアをとめるカードはまだこない。


「初めの《ゼンマイマジシャン》の効果を発動、レベル4の《ゼンマイシャーク》をデッキから特殊召還!《ゼンマイシャーク》の効果を発動、自身のレベルを4から5に変更する!そしてもう1体の《ゼンマイマジシャン》の効果により、もう1体《ゼンマイシャーク》を特殊召還!こいつもレベルを4から5に変更させてもらう!」


これでおれのフィールドはレベル4のモンスターが2体、レベル5のモンスターが2体、《発条空母ゼンマイティ》で埋まってしまう。無情にも準備はこれで整ってしまった。どうやらおれの知名度は融合次元ではそれほど高くないらしい。おなじデッキしか支給されない決闘者が派遣されるということは、おれはとるに足りない決闘者と思われているということだ。好都合である。無尽蔵にわき出る先鋭も、カード化されないが、屈辱的な敗北だけ焼き付けて返されれば意欲は減退する。あの仮面の男は無自覚だが、融合次元の足を引っ張っているのは事実だ。すすめの涙ほどだが、少しは影響がでるだろう。なにせもうすぐおれたちは高尚な次元にまで侵攻している融合次元から奪還し、この次元を救う手だてを探す大イベントが待ちかまえているのだ。演出するなら劇的な方がいいと相場が決まっているのだ。


「まだまだいくぞ!2体のレベル4《ゼンマイマジシャン》でオーバーレイ!さあ舞い踊れ、我が刺客!ランク4《ラヴァルバル・チェイン》!オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、デッキからカードを1枚、墓地に送る!さらに2体のレベル5《ゼンマイシャーク》でオーバーレイ!さあ、敵を穿て我が刺客!ランク5《アーティファクト・デュランダル》!」


あっというまにおれのフィールドにはエクシーズモンスターが3体も並んでしまった。墓地を確認するか?とおれは聞いたが、仮面の男達はざわついている。なら説明しなくていいか。


「そして、カードを1枚セットし、ターンエンドだ」


仮面の男は汗をだらだら流しながら、息を吐く。こちらは5人、あちらは1人。圧倒的な存在感を放つエクシーズさえどうにかできれば、と考えるデュエリストが多いのは間違いない。おれのデッキのモンスターはレベルも種族も属性もバラバラだ。


「おっ俺のターン、ドロー!俺は《古代の機械猟犬》を召還!貴様に600のダメージを与える!」

【吉波 LP3400】
【オベフォ1 LP4000】


「ならば《アーティファクト・デュランダル》の効果を発動、オーバー・ユニットを1枚取り除き、お互いの手札をすべてデッキの戻し、シャッフル、戻した分だけドローする。さてどうする?」

「なんのつもりだ?」

「なにかするかと聞いているんだが」


仮面の男はなにもしてこない。おれは失望したよと鼻で笑った。


「さらに罠発動、リビングデッドの呼び声。墓地から《神殿を守る者》を攻撃表示で蘇生。その効果を発動する。さて、このカードの効果は知っているか、オベリスクフォースの諸君」


ざわつくが、仮面の男が答えた。おれにリベンジを宣言するだけはあって、おれが好きそうな性質のモンスターが目に付いたらしい。


「このカードがフィールド上に存在する限り、相手はドローフェイズ以外でカードをドローすることができない効果だ」

「そう、正解だ。かつてはメタモルポッドとのコンボでハンデスを決めたが、ドローソースが増えた今となってはマイナーカードの1つだろう。だが、おれは《アーティファクト・デュランダル》の効果にチェーンして特殊召還し、効果を発動させたわけだ。どうなる?」


仮面の男は先ほど《アーティファクト・デュランダル》の効果でデッキをすべて捨てたのだ。青ざめた。いくら待てどもデュエルディスクはカードを吐き出さない。


「・・・・・・永続魔法、《古代の破滅機械》を発動。フィールドのモンスターが破壊されたとき、モンスターの攻撃力分のダメージを与える。・・・・・・ターンエンドだ」


オベリスクフォースの2人目にターンの対象が移動する。彼は手札が0枚だ。


【吉波 LP3600】
【オベフォ2 LP4000】


「おれのターン、ドロー!さあ、バトルだ。オベリスクフォースの諸君。《古代の機械猟犬》に《ラヴァルバル・チェイン》で攻撃だ」

「だ、だが、《古代の破滅機械》の効果は受けてもらうぞ!」

「たった1800じゃないか。たいしたことはないな。お前も800のダメージを受けろ」

「うぐっ」


【吉波 LP1800】
【オベフォ2 3200】


「《アーティファクト・デュランダル》と《発条空母ゼンマイティ》で攻撃だ」

「ぐあああああっ!」

「これで1人目だ。さあ、こい、オベリスクフォースの諸君。あと4人もいるんだ。手札1枚でも墓地は共通なんだ、それだけ肥えれば蘇生罠魔法さえ引ければ逆転できるかもしれない。あきらめるな、デュエルはまだはじまったばかりだ」


豪快に吹っ飛んだ仮面の男を救護する人間がいないとか、融合次元の人間は冷たいなあ。哀れみの目をむけつつ、おれはカードを伏せ、ターンエンドを宣言する。そんな目で見るなと戦闘不能になった仮面の男がなんかいってるが、負けた時点でデュエルは傍観するしかないので。みんながワンキルされる様子をダイジェストでゆっくりみていってね。カードにするとかとんでもない。おれの情報を融合次元に持って帰ってもらわないといけないんだからな。気に入ったぜ、おれに再戦を挑んだ誰かさん、とどめを刺すのは最後にしてやる。


こうして、デュエルは幕を開けたのだった。


カードにしないとか、おれって優しい。なぜ逃がしたとか黒咲に言われる前に言い訳を考えなければ、と思っていたが特に言及されることはなかった。


「吉波!」

「ユートか、くるのが少し遅かったな」

「だから、勝手に行動するなと言っただろう!せめて警備員くらいは連れて行ってくれ!」

「なぜだ?彼には仕事があるだろう?それに1人でも充分だったさ」

「それでも、だ!君はもうレジスタンスの一員なんだ、勝手な行動はやめてくれ!」

「あ、ああ、わかった」

「なにがあったか、みんなに伝えてくるんだ。ほら、はやく!」


「見回りはいいのか?」

「代わりに回ってくれる奴はもう呼んである!だから吉波は周りのことばかり気にしないでもっと俺たちを頼ってくれ!」

「・・・・・・・ユートは優しいな」

「っ・・・・・!だから、そういうのはいいんだ!いちいちいわなくてもいい!さあ、戻ろう」

「わかった」


戦利品はおれの知名度がオベリスクフォースに浸透しつつあるわりに対策がとられてないから、もっと派手に暴れても意味がないということだろう。スリーマンセルが基本であり、デッキは支給されたものしか使用できない。対策のカードが投入されていない。メタを張ればもっと有利に立ち回れるだろうか、今度はビートよりを構築してみるのも手だ。沸いてくるオベリスクフォースを相手にするより、大将をたたいた方が精神的にも効率的にも胃息がする。これくらいだろうか。報告できることは。


おれの1歩を2歩歩くユートの足取りは速い。どうやら怒っているようだ。説教はどれくらい長くなるだろうか。黒咲の無言の抗議もきついんだが。それより。


「ユート」

「どうかしたのか?」

「手、離してもらってもいいか?」

「・・・・・・・・あ、すまない」




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