俺嫁戦線24時2-1
融合次元からの奇襲という最悪の事態により、未来都市ハートランドは壊滅的な被害を被った。その日を境に多くの同志達は行方知れずとなり、連絡が取れた半数はこの街を去った。残った半数は数えるほどレジスタンスと勘違いしたり、エクシーズ次元の残党とされたりして、オベリスクフォースの餌食となった。共に行動することに限界を感じたおれ達は、それぞれの道を歩み始めた。また会えることを信じて。おれの幻影(おれのよめ)を探知できる(共感してくれる)同志達との別れは今思い出しても胸が張り裂けそうになる。だが、彼らが残してくれたものはささやかな癒しでもある。


ある者はとても手先が器用だった。ある者はデジタルを通して召喚術に秀でていた。彼らの共通項はおれのようにいちからすべてを創造するのではなく、すでに存在している幻影を実体化させる才能に秀でていたことだった。そして、自己流に具現化することが可能だった。その才能を生かして、デュエルモンスターズに取り入れることができた。おれは幼少期から培ってきた幻影を絵を媒介に視覚化させる能力を重宝された。その高尚な召喚の議に呼ばれることは最高の誉れだったと思っている。

苛烈な放浪生活では、おれ達が生み出した幻影達はしんでしまう。ハートランドが幸せだった頃、召喚した幻影たちだ。今の過酷な環境で生き残ることができる生態ではないのである。よって、おれがこの子達を外に出すことができるのは、ほんのわずかな時間に限られていた。


レジスタンスの寝ずの番がはじまる。文明が崩壊すると案外役に立つアナログの腕時計は少し早い時間を指していた。寝袋から這いだす。なにも起こらないことを祈るため、ほんの少しの安らぎを求めて、おれは彼らとの友好のあかしを眺めていた。


「吉波、なにをしてるんだ?」


ユートだった。


「今はいない、大切な人たちを思い出していた」


臆することはない。ユートはおれを同志だと知ってレジスタンスに誘ってくれた少年だ。まさかこんなに顔面偏差値の高い同志がいるとは思わなかったが、おれの言葉を聞いて同志との別れのつらさに理解を示してくれるいいやつだと知っている。そうか、と言葉短く沈黙したユートは視線をさまよわせ、意を決した様子でおれに視線を向ける。


「隣、いいか?」

「別にかまわないが」


おれの言葉にほっとしたようだ。気を使ってくれるのがわかる。ほんとにユートはいいやつだ。ユートは黒咲という同志にして唯一無二の親友が生き残っているのだ、方向性の違いで別れ別れになったおれとは違う。でもだからこそ想像できることもあるのだろう。黒咲の妹がユートの幼なじみとしって驚いたし、その才色兼備な妹キャラが近くにいながら染まってしまった事情を鑑みれば、神も残酷なことを。ユートはおれの手にあるスリーブをみていった。


「それは吉波の大切な人のものなのか?」

「ああ、そうだ。いや、だったもの、だな」

「・・・・・・すまない、深入りしたか?」

「かまわないさ、それくらい」

「ありがとう、吉波はやさしいな。時々みてるだろう?吉波とは少しイメージが違うから、気になってはいたんだ」


たしかにおれの専門はおれ自身のイマジネーションを元にして、いちから創造した幻影だ。このスリーブのように、先人の偉大なる召喚士たちがデュエルモンスターズを媒介にして召喚した幻影とは分野が違う。公言したことは無かったが、それを察するあたり、さすがということだ。


「いわゆる餞別というやつだ」


この幻影を熱狂的に愛するあまり、スリーブからラバーのプレイマットからデュエルディスクまで自作した狂信者が同志にいたのだ。彼からデッキを受け取ったときは、その覚悟を思い知ったものだ。幻影を愛するが故に幻影が決闘者を傷つける様をみることに限界を感じた彼は、デュエルモンスターズそのものから身を引いて、ハートランドから去った。おれが今使っているこのデッキは、元をたどれば彼の魂のデッキなのだ。魂より大切だと肌身はなさず持っていたこの幻影の媒介であるデュエルモンスターズのエクシーズカード。スリーブと併せてカードたちをすべて譲られたときの衝撃は計り知れないものだった。おれの幻影がこれくらい愛されたいと羨望のまなざしで見つめるくらいにはおれも彼に敬意を表していた。それに彼の熱弁に感化される形で、今となっては世間に広く認知されている幻影の中でも指折り数えるほど好ましいカードだとは考えている。デジタルに秀でていた同志からはデュエルディスクを送られたのだ。おれにとって、デュエルモンスターズそのものが彼らとの夢の痕でもあった。だからおれはここにいる。デュエルモンスターズをやめることができないでいる。


おれの言葉にユートは息を呑み、聞き入っているようだった。


ちなみにこのモンスターが大好きだった彼は、愛人枠だったもうひとりの幻影を正妻に迎え、今は遠く離れた町で平和に暮らしていると思われる。幼少期は天使だったにも関わらず、長きにわたるシリーズの果てに魔王になってしまわれたと嘆いているだろう。きっと彼の中では永遠に幻影は天使のまま生き続けるのだろう。おれの幻影はそこまで自律することができないから、はやくその高みにまでいきたいものだ。


空は高くて遠い。だが、彼のいる街とつながっているはずだ。ハートランドが平和になったら、会いに行きたいものである。


「せんべつ、か。吉波、それの持ち主は?」

「ああ、もうこの街にはいない。でも、空はつながっている。いつか会えるさ、すべて終われば、おれは」

「吉波」

「な、なんだ?」

「吉波はこれから見回りだろう?俺は眠くないんだ、つき合ってもいいか?」

「おれは別にかまわないが」

「今夜は話し込みたい気分なんだ」

「そ、そうなのか。ああ、わかった」

「その前に少し、ほかの奴らと話してくる。吉波は先に行っててくれ」

「了解した」


ユートの影が遠ざかる。おれは見張りのための身支度を始めた。


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bkm
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