相手はドラグニティである。先行は友人だった。
「おー、つえーな、相手」
「だろー?」
何故だか友人は得意げだ。ドラグニティ相手に先行からライオウをぶったてるのもどうかと思うが、渓谷が使えると分かっている時点で相手は慣れているのが窺える。ライオウはテラフォが使えなくなるほか、シンクロエクシーズを使うことができなくなる。手札次第では即サレンダーの完封負けを喫することもあるが、どうやら相手はデッキに手を置く気はないらしい。
渓谷の第二の効果が発動し、レダメがデッキから墓地に落ちる。そしてリビデで蘇生され、戦闘破壊によってライオウが突破された。スタダがシンクロ召喚され、伏せがおかれる。友人は巻き返そうとするが、チェーンして撃たれた警告により、それはかなわなかった。あとはドラグニティお得意の高速シンクロによりトライデント・ドラギオンがシンクロ召喚され、破壊効果使用後に連続攻撃が確定した。友人はマクロコスモスを伏せていたのだが、スタダに邪魔されてしまった。
「おー、すげー」
「城前もやるか?」
「やるやる!カードに制限ってあるのか?」
「あー、うん。無料だとデッキとカードの数に制限かかってるよ。まあ、暇つぶしなら無課金でもいけると思うぜ?」
「まあ、おれの使ってるテーマ、結構古いし大丈夫だろ。心配なのはエクストラ」
「だよなー」
「よし、やろう」
適当にフリメを取得し、城前はアカウントを作成する。アカウント名のところで、カオスを連想させる言葉を打ち込んでみたが、すでに使われているの文字が赤く表示されてしまう。まあ、連想しやすい言葉ではある。城前は適当に数字を打ち込んだ。ようやく承認されたアカウント。友人に従ってデッキを作り上げる。ソーシャルメディアと連携しているそうなので、友人たちとやり取りに使っているアカウントを引っ張り出す。いざつなげようと手続していたら、すでにアカウントが使われていると弾かれてしまった。思わず固まる城前である。一応、ワンキル館の広告塔としてちょっと目立つ一般人なつもりではいたが、すでに成りすましがいるとは。友人は検索をかけてくれる。城前を連想させるアカウントが既に存在していた。
「おーっと、まさかの成りすましだとう。まさかいるとは」
「どーする?一応、証拠は取っといたけど」
「あーうん、館長に連絡してみるわ」
城前は連絡をいれたが、もちろんワンキル館が公式の有料オンラインゲームならともかく無料の数多あるゲームにわざわざアカウントをとる訳がない。成りすまし確定である。現在進行形で使用者を割り出し中だからちょっと待ちなと言われ、待機していると呆れたような声色が聞こえた。
「城前、アンタのノートパソコンから作成されたことになってるよ。忘れたんじゃないかい?」
「はああっ!?いや、いやいやいや、違うって!おれ、こういうゲームした事ねえもん!ハッキングでもされたんじゃ?」
「いんや、そんな痕跡は見つからないね、いまんとこ。正真正銘、アンタがアカウントを取得してるよ。メールアドレスはアンタのパソコンだし、パソコンから確認のメールが送られた記録がある。寝ぼけてたんじゃないかい?」
「えー……でもまじで記憶ないんすけど」
「うーん、そうかい。そう言うことなら、通報しとくよ。アカウント消すよう言っとくから、明日まで待ちな」
「りょうかーい」
なにこれホラー?城前が首をかしげていると、友人はその成りすましアカウントを見せてくれた。ご丁寧にソーシャルアカウントやワンキル館のホームページにリンクが繋がっている。城前だと思っている人もそこそこいるようで、繋がりを示す数字は結構大きなものとなっていた。
「デッキはカオスドラゴンみたいだな」
「こないだの大会のデッキじゃん。まあ、動画化してるしなあ。デッキも公開してるし、やろうと思えば誰でもできるか」
「最近、フレンド申請多くなったとかなかった?」
「いんや、ぜんぜん。これはプライベート用だから、そもそも知りあいじゃねーと承認しねーしな。そーいうのはワンキル館の公式アカウントにお任せしてたから、おれからどーこーしたことはねえよ。だから気付かなかったのかな」
「そうかもな」
「まー連携が明日になるだけだし、とりあえずデュエルしようぜ」
「そうだな」
こうして始まったデュエルである。デュエルモニタは面と向かってしてるわけだからいらないだろうと展開しない。目の前にいるのにiphoneをぽちぽちするのは違和感だったが、相手の反応がリアルタイムで現実で確認できるから、それはそれで面白かった。問題は時間泥棒と言う点だろうか。たった1度しかできなかった。やべーおもしれえ、とつぶやいた城前に、だろだろ、と友人はうれしそうに笑った。バッテリーの消費にさえ目をつぶればそうとう暇つぶしになりそうだ。明日、デュエルのマッチングのやり方を教わる約束をして、今日は一日デュエルの操作方法になれる事に費やされたのだった。
「っつー、わけなんだけど……うっわ、まじであるよ、メール」
今日のワンキル館は休館日である。よって、まっすぐ寮に帰ってきた城前は、真っ先にノートパソコンを起動させた。そんな怪しいメールあったかな、とカチカチしてみる。見当たらないが、まさかと思って迷惑メールをのぞいてみる。案の定、設定した覚えのないアカウントが取得されていた。確認してみたが、あのカオスドラゴンデッキを組んだその日の夜である。城前はすでに就寝していた時間帯だ。夢遊病だってもっとまともな夢遊病するだろう、アカウントをわざわざこのパソコンからするなんて手が込みすぎている。まさかと思って大家さんのところに持って行ったが、呼んでもらった業者の確認するかぎりではハッキングの形跡がない。ごく普通のパソコンとのこと。怪しいプログラムもウィルスも確認されず、城前は途方に暮れた。
「っつー訳なんだけどさ、どうしたらいいと思う?開闢。用心棒でもしてもらっていいか?」
大真面目に相談している城前に、開闢は大笑いである。ひとしきり笑い転げたあと、人が心配してんのになんて奴だ、とじと目の城前に、わりいと謝る。にやにや笑っている。全然反省していない。なにやらツボに入ったようで、何度も笑い始める開闢に、いよいよ城前は眉をひそめた。
「安心しろよ、克己。そいつはハッキングじゃねーよ、不法侵入でもねーさ」
「ってことは犯人知ってんだな、開闢」
「ああ、知ってるぜ。お前もよく知ってる」
「まさかあいつらか?」
「ぶっぶー、ちげえよ。ハッキングされた様子がないって言っただろ、不法侵入でもねーよ」
「え、じゃあ、開闢か?」
「なんでそうなるんだよ。だいたい俺なら超戦士軸組むっての。なんでカオスドラゴンなんてカオス要素しかねえデッキ登録するんだよ」
「あ、そっか。……ってことは、まさか帝龍とかいうんじゃねーだろうな?」
「そのまさかだ。やりゃできるじゃねーか、クソガキ」
「はあっ!?なんでだよ、なんで帝龍が!?あいつ、こっちの世界のカードだろ!?」
「違う違う、エラッタ野郎じゃねえ。あっちのだ」
「あっちって、旧テキストの方か?おれのカード?」
「そうそう」
城前はあわてて立ちあがる。ワンキル館のノーリミット大会用に組んだデッキをホルダから取り出す。デュエルディスクに混沌帝龍をセットする。ソリッド・ビジョンによって空間に応じて最適化された帝龍が現れた。
「なあ、開闢がお前がやったって言ってんだけど、違うよな?」
見上げてくる城前に、申し訳なさそうに帝龍は頭を垂れる。その頭に手を当て、覗き込む城前に、帝龍は目を閉じた。
『言い訳はせぬ』
「えっ、マジでおまえがやったの?」
『お前が悪いのだ、小童。なぜあの男ばかり優遇する』
「いやだって、おまえ、エラッタしたじゃん。エラッタ前だと使えないんだよ!」
『ならば我に相応しき舞台を用意することなど容易かろう。このような箱庭を使えばいくらでもできるではないか』
「え?あ、そうなの?まじで?ノーリミットもできるんだ?いやでも、だからって勝手にされちゃ困るよ!」
『何を言う、我が進言しようとした時にはすでに仕舞い込んだではないか』
「まさか開闢以外のカードもしゃべるとは思わなかったんだよ!」
『試しもせぬか、ばかたれ』
「それはごめんだけどさー!」
「あっはっは、戻ってきたエラッタ野郎はなんかよわっちいけどな!やっぱお前にはおよばねーぜ、帝龍。デュエルで使えるのと、禁止で威厳保てるのとどっちがいいんだろうなあ?」
『黙れ、開闢。我は克己と話をしているのだ』
「へいへい、黙ってますよ」
『我が主はただひとり、その名を馳せし克己のみ。この唯一至高の古き盟約は何人たりとも破れはせぬ。誇り高き戦いこそが我が望み。何にせよ、我を無下に扱った報いは受けてもらうぞ』
「ようするに構ってくれって話だろ、相変わらず回りくどいな、てめーは」
『うるさい、黙れ。……時間が惜しい、即決にて話を付ける。克己、貴様には捧げものをしてもらう。貴様に出せるか?』
「……えーっと、ようするに、これの有料版をやれと?」
『まあいい、ひとつ、克己相手に語りでもしてやろう。この箱庭の素晴らしさを』
(めっちゃはまってる…!?)
こうして始まった帝龍の語りは1時間に及んだ。
『むう、つい語りが長引いた。ここで過ごした時の長さゆえか』
「放置プレイはごめんよ、帝龍。ちいっと厳しいけど、なんとかやってみる」
『……捧げものに免じ、特別の慈悲をくれてやろう。我を使うことを許してやる』
「お、おう、わかった。これから定期的に全盛期カオスデッキ使うことにするよ」
『初めからそうしていればいいのだ、ばかたれ』
嬉しそうに目を細める帝龍に、城前はほっと息を撫で下ろしたのである。
「まあ、俺は専用デッキ組んでもらったけどな!」
「おいこら、開闢!」
『ほう?それはどういうことか聞かせてもらおうか、克己よ』
「……お、おう」
全盛期カオスに征竜を積んだデッキを回す羽目になるとは、まだこの時の城前は思わなかったのである。