さあ踊れ3(漫画版夢主と開闢と帝龍)
「はよーっす」

がらがらがら、と乱暴に扉が開かれる。力任せに扉を開いたせいで、勢いの余り半分以上跳ね返るが、声の主はその間に体を滑り込ませることで直撃を免れた。ホームルームのチャイムがなる5分前である。クラスメイトの視線を自然と集めることになった青年は、人好きのする笑みを浮かべてざっと教室を見渡した。はよ、とか、よう、という声が聞こえてくる。軽く会釈しながら、塊になっているクラスメイト達の間を通り過ぎる。席順のくじ引きで不幸にも教卓の真ん前と言うとっても勉強できそうな最悪の席を引き当ててしまってからというもの、城前は遅刻できないでいた。ああよかった、今日もなんとか間にあった。適当に椅子をひき、カバンをどかりと乗せる。教材は全てロッカーと引き出しにつっこんである城前である。基本的にカバンの中にはいらないものしか入ってない。その中で数少ない必要物であるペンケースと電子辞書を取り出し、後ろのロッカーにカバンごと突っ込んだ。上着は廊下にあるロッカーに丸めて入れておく。ついでに英語の教材とプリントを発掘して、自分の席に戻った。ここでようやく辺りを気にすることができるようになる。

ざっと辺りを見渡す。いつもならこっちに寄ってくるはずの、いつもつるんでいる友達が一人も居ない。ここでやっと城前は友達がみんな休んでいることに気が付いた。

「あれ、今日なんかあったっけ?」

運動部ばかりのメンツである。大会になれば、レギュラーだろうがベンチだろうがそれ以外だろうが、みんな行ってしまう。数日かかる所が会場となれば、その一週間はとても退屈な日々となる。壮行会をした覚えはないから、でっかい大会があった覚えはないのだが。それに何かあれば聞いてもいないのに話を持ちかけてくるほど、無駄に騒がしい奴らばかりだから、いつもより教室は大人しめな気がする。疑問符を飛ばす城前の独り言を拾い上げたのは、隣の委員長だった。

「そうですよ、城前君。今日はサッカーと陸上が大会ですね」

「あー、道理で人が少ない訳だ。あれ、でもなんか少なすぎねえ?」

「そうですね、今日は欠席者が多いようです」

「あ、やっぱそうなんだ?じゃあなんだろ、インフルエンザとか?流行ってんだろ?ニュースでやってたし」

「そうかもしれませんね。前からちらほら休んでる人はいましたが、ここで一気に増えました」

「ちらほら休んでるなあ、とは思ってたけど。やっぱそうか」

「ええ、そうです。気を付けないといけませんね。もしかして、先生が遅いのもそのせいでしょうか」

委員長の視線の先には、ホームルームの5分を消費したことを告げる時計の針がある。職員会議がある日でもないのに珍しいこともあるものだ。ざわざわし始めている教室をもう一度見渡す。委員長の言うとおり、城前の友人たちの他にも、いろんな部活、サークル、城前みたいにバイトをしている子、さまざまなメンツの席が空いている。いつもいるクラスメイトの4分の1も減ったら、結構空席が多いなあと言う印象が強い。

「あーそうかもな。気をつけねーと」

1度目の高校生活ではお目にかかったことのない学級閉鎖の言葉が過る。あと何人休んだら休みになるんだろ、とググろうとしたら、扉が開かれた。いつもの担任ではなく副担任の先生だった。委員長の号令がかかる。あわてて城前は立ち上がった。起立礼着席が流れるように行われ、城前が時期外れの転校生をした年にやってきた2年目の副担任は教卓の前に立つ。

「おはようございます」

小中学生とは違う、なんとなくやる気がない、形式的な挨拶が返される。

「今日は担任の××先生が体調不良のためお休みです。なので、私が代わりにホームルームを行ないますね」

騒がしいメンツが休んでいるせいで、教室のざわめきはそれほど大きくはならない。

「今年に入ってから、寒暖の差が大きくなってきているせいか、お休みする人が多いです。みなさんもインフルエンザには気を付けてくださいね。それではまず……」

インフルエンザではなく流行っているのは事実のようだ。まさか担任の先生まで欠席とは。たしかに朝と昼と夜の温度差はおかしいにも程がある。毎年申年は決まって暖冬みたいな頓珍漢な日がはじまるなあ、と思い出す。ホームルームは終わり、英語の時間が始まる。2、3、4限目まで終わり、空腹と眠気に戦いながら授業を受けていた城前は、チャイムが鳴ったことでなんとか勝利をもぎ取ることができたのである。

「やっぱすくないときっついな」

「インフルなら今週、アイツらずっと休みだろ?どうする、城前。暇じゃね?」

「だよなあ、どうするよ?」

城前の後ろの席を借りている友人は肩をすくめる。たしかにトーナメント方式だったり、タッグデュエルモドキだったり、数が多ければいくらでも出来るがたった二人ではやることは限られてくる。お昼ご飯もそこそこにデュエルをしていたはいいが、さすがに同じ相手とずっと連戦というのもマンネリだ。お互いにデッキの内容はわかっている身内戦である。メタ読み上等なのも1週間となれば飽きはすぐに来てしまう。

「たまにはこれやるか?」

友人が取り出したのはiphoneだった。表示されているのは、デュエルモンスターズのオンラインゲームである。

「あ、やってんだ?」

「ってことは城前やってねーの?意外」

「話には聞いてたんだけどな」

「まあワンキル館なら、これよりすげーのいっぱいあるもんな。それともやったらダメとか?」

「まあ一応連絡くらいは入れといた方がいーかも?ちょっと待ってくれよ」

「りょーかい」

城前は館長に電話を掛ける。一応、許可を仰ぐ。お昼時に電話をかけてくるなと怒られた。どうやらお弁当中だったようだ。向こうからはお昼のニュース番組の声が聞こえてくる。デッキを予め申請すること、IDカードはワンキル館で作ったものを使用することが条件だが、OKがもらえた。めんどくさいのでデッキのデータをそのまま館長にメールで添付する。快諾だった。よっしゃ、とガッツポーズした城前に友人はほっとしたように笑う。隣でiphoneを覗き込まれるよりは、お互いにやった方が面白いに決まっている。

「なあなあ、どれやってんの?無料のやつ?」

「そんなの無料に決まってるだろー。無理だよ、俺には。今月ギリギリなのにさ」

「ですよねー。じゃあ、どんなのか見せてくれよ」

「あ、ちょっと待って。たしか、ゲストにすればデュエルが見れたと思うぜ」

メールが送られてくる。アクセスすると、無料サーバの最大大手のユーザーページが表示された。ようこそゲスト様という言葉が表示されている。その先には友人の苗字をもじったハンドルネームだけが表示されており、デッキを確認することができる。へー、進んでんなあ、と城前は思った。

1度目の高校生活の時には、メールや掲示板、チャットを利用したものがオンラインゲームとして親しまれていた。そのうち、無料のサーバをつかった非公式のオンラインゲームができて、一気に普及した。公式もあとから運営を開始したことを覚えている。どうやらこちらの世界では、レオコーポレーションがその無料サーバごと売却され、有料化したようだ。無料利用したい有志が集まって、いくつかオンラインゲームを運営しているようだから、二極化が進んでいる。

無料のオンラインゲームにも有料と無料があるようで、友人は無料オンリーでやっているようだ。見る限りではそれなりに遊べるらしい。会員制だが、ゲストとして迎え入れれば非会員でも閲覧が可能のようだ。

「やりたかったらアカウントがいるよ」

「IDいれるのか?」

「いんや、これ、非公式だからIDカードは入れなくていいんだ。公式のやつならいるらしいけど、俺、やったことないんだよね。ちょっと見ててくれよ」

「おう、よろしく」

友人はかるく説明を始める。基本的にはログインしてデュエルを待つ人に申請したり、申し込みが来るのを待つ。合意するとデュエルが開始される。自動的にマッチングをすることもある。レーディングやランクはこのゲーム独自のものが反映されており、このゲーム自体の審査は非常にゆるい。あとでデュエルを見直すことができる、と過去の動画を見せてくれた。時場所を選ばず安全に実力に応じた相手が見つかるのが魅力的だが、非公式ゆえに問題も多い。これは匿名のオンラインゲームの宿命だが。荒らしや切断はもちろん、成りすましやコンピュータにやらせているものもあったらしい。アカウントが剥奪されても、またべつの名義でログインされてはイタチごっこになる。良心に任されているところが大きいらしい。

「まあ、怖がってたらオンラインゲームなんてできねーけどな」

「たしかに」

「公式ならもうちょっと居心地いいんだろうけど、有料だろ?高いって、あの値段は」

「おれ達にはちょっと厳しいよなあ」

「うんうん、だから俺はこれしかやったことねーわ」

「なるほど」

「あ、申請きた」

「なあ、横の星マークなんだ、これ?」

「ID交換できるんだ。こいつ、結構つえーんだぜ?見てろよ」

「わかった」

ソーシャルメディアとも連携しているようで、アイコンやアバターは友人が愛用している漫画キャラ風に自分をメイキングしたものが表示されている。相手はデフォルトのままだが、表示されるレーディングやランクは結構高い。友人より上だ。


prev next

bkm
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -