さあ踊れ2-2(開闢と漫画版夢主)
「なあ、開闢」

『なんだよ、克己』

カオス・ソルジャーがテーマ化したころから、デッキを組めと煩かっただけに、彼は上機嫌である。鼻歌すら聞こえてきそうだ。精霊一体の影響でデッキのまわり方がかわるほど、デュエルモンスターズは楽ではない。

でも、ソリッド・ビジョンの皮を被った自称精霊の彼がご満悦なおかげで、ぎゃあぎゃあ喚かれないだけデュエルに集中できるのだ。城前にとってはメリットしかない。おまけにソリッド・ビジョンの演出で気合をいれてくれるのだから、彼のご機嫌をとるのは理にかなっている。

現在、城前が取り組んでいるこのデッキは、儀式軸のカオスデッキである。実際はカオスとは名ばかりのカオス・ソルジャーデッキである。カオスを突っ込んだだけだ。一応、前口上としてお馴染みの台詞と使用カードであるフィールド魔法が奇跡的な合致を見せてた。そのおかげでスタンディングデュエルでしか使えないが、評判はなかなかである。なけなしのカオス要素を強化すべく原子の種を入れてみたり、カオスドラゴンよりにしてみたり。カオス・ソーサラーをどうしようか頭を抱えているが、彼はそれすら嬉しいようで、デッキ調整に苦戦している城前の横でにやにやしている。試行錯誤中で一番しっくりきたデッキがまだまだ遠い城前は、しばらくこのデッキを回す気でいた。

「ホント、このデッキだと生き生きしてんのな、お前。なんでそんな嬉しそうなんだよ?不思議で仕方ねえんだけど?」

「よく言うぜ。あの台詞言えるからってノリノリなのはどっちだ」

「それをいっちゃーおしまいだろ!このデッキは、そのためにあるようなもんだろーが!」

「ちがいねえ」

「って違う違う、おれのことはどーでもいいの。おれはお前に聞いてんだよ、開闢」

「そりゃお前、記憶ねえんだから、由来に関わるモンスターに興味あるのは当然だろ」

「え、なんで知ってんの?やっぱ、いろんな人を渡り歩いてきたからか?」

「お前が言ったんだろうが」

「え、そうだっけ」

「忘れてんじゃねーよ、クソガキ。だいたい、お前より前の持ち主は、みんな大きなオトモダチってやつだ。んなこと、いちいちデュエルとか、デッキ調整で言わねえよ。ショーケースん中でもろくな話は聞かなかったしな。お前がバカの一つ覚えみたいに、どんなデッキにも俺を入れては使ってた時、よく言ってたの忘れたのか?」

「あ、あー、なんかそんな気がしてきた」

「気がするんじゃなくて、してたんだよ。自慢しまくってたじゃねーか。あんとき、お前しか俺持ってなかったしな。何度も漫画読んで練習してたの忘れたのかよ?今でも言える癖に?」

「あ、あ、あー!思い出した!たしかにそーだよ、なんか懐かしいと思ったら!」

「つまりはそういうこった。克己てめえ、あっちでは結局一度も組まなかったじゃねーか。環境デッキばっか組みやがって。おかげで俺はお前とダチが回し読みしてた漫画越しにしか、由来のモンスターを知らないんだよ。こっちでソリッド・ビジョンあるってんなら、お目にかかりたいのが心情だろ、察しろ」

「なるほど!で、どうだった?ご対面した感想は?」

「んなもん決まってるだろ、俺のがイケメンだ」

「あっはっは、なんだそれ!」

「うるせえ、黙ってろ。笑うな」

「いだだだだだっ、つねるな、つねるな、イタイイタイイタイ!!」

ひりひりする頬を抑えながら、城前は涙目で赤く熱帯びたところをさする。ほんの冗談である。なにもそんなに引っ張らなくても。ごめんなさいと言うまで力任せにひっぱられたせいで、まだ感覚が戻らない。自業自得だ、クソガキが、と彼は鼻で笑った。

「記憶喪失なのは悪かったと思ってるよ、あんときのが原因だろ?」

「ああ、たぶんな。あれで全部吹っ飛んだ」

「マジでゴメン。めっちゃ読み取り遅かったもんなあ。やっぱ俺の世界だと様式が違うとか?いやでも、テキストは普通に読み取ってたもんなあ?」

「問題があるとしたら、加工の仕様じゃねーか?俺の加工はあっちだって今じゃやってねえだろ。もし、あの加工の仕方をこっちでやったことねえなら、コピーカードと勘違いされても仕方ねえ」

「あー、そっか。そっちか、イラスト!ウルレア仕様がまさかの裏目に!いやー、ワンキル館に拾ってもらって、マジでよかったな。ソリッド・ビジョンのカードプールに紛れ込ませてもらえて、ホントよかった。これで謎のエラーはなくなったわけだしな」

「ほんとにな。ありゃもうたくさんだ。二度とごめんだぜ」

「あ、やっぱ、実体化する方も負担かかってんだ?……おれのカード使うときは館長にカード登録してもらお」

「おう、そうしとけ、そうしとけ。危うく死にかけたからなあ」

「マジでっ!?初耳なんだけど、開闢!」

「そりゃ言ってねえからな」

彼は今思い出したように、あっけらかんと言い放つ。ぎょっとした城前はかんべんしてくれよと呟いた。盛大にため息をつく。もちろん安堵でだ。OCG次元から迷い込んできたことを証明する同士がへったら、心理的なダメージが計り知れないものとなる。詳しく教えてくれとお願いされて、彼はもう過ぎたことなのに大げさだなと肩をすくめた。

彼にとっての世界の始まりは、デュエルディスクがカードのテキストとイラストを読み込み、ソリッド・ビジョンに構築されていく時に見た情報の濁流だ。無から有になった瞬間はわからないが、気付いたらそこにいた。削除されそうになった。セキュリティシステムには不具合と判断された。膨大な情報のほとんどすべて真っ赤なエラーに塗り潰され、不完全なままでは抹消される。唯一正常に働いたのが初心者として登録したIDカードから読み取れる情報だけ。デュエルディスクとソリッド・ビジョンにはうまく取り込めなかった情報が集積する中で、死んでたまるかと必死であがいた結果今に至る。本来、精霊にあるべき記憶がなくなったとしたら、その時が原因だろう、と彼はふんでいる。城前克己という決闘者のIDカードの情報端末だけ、自己防衛のプログラムが導入されていなかった。入り込む余地があった。そして、セキュリティシステムに感知されるほどの膨大なデータ量。突然発生したソリッド・ビジョンのAIでは成立しないはずの12年にも及ぶ五感の記憶の蓄積。すべてを最適化される形で再構築された。城前が混沌使いのデビュー戦であるあの日、あの瞬間、フィールドに特殊召喚された瞬間に誕生したのだ。記憶との齟齬は彼のアイデンティティの不安定さに直結する、だから彼は想い出話をよくしたがる。城前も思い出話は大好きだから、お互いやりたいことは一致しているのだ。

「セキュリティシステムは、Aiと精霊の区別がつかねえのかよ……!」

「今でもついてねえと思うぜ。つーか、初見で俺をAIと間違えてたその口が言うか」

「それについては触れないでくれよ、開闢!まさか精霊が見えるほど純粋な心がおれに残ってるとは思わなかったんだよ!」

「自分で言ってて悲しくねえか?」

「大人になるって悲しいことなの」

「いってろ」

「痛い痛い痛い、ひっぱらないでくれよ!今度は反対側とか、××兄ちゃんみてーなことしやがって!」

「よくわかったな」

「やっぱり××兄ちゃんの真似かよ、開闢!んなことまで覚えてんのかよ、精霊って記憶力よすぎだろ」

「お前が鳥頭なだけだろ、クソガキ」

「ちげーよ!おれは鳥頭じゃない!道理で偉そうなのに逆らえないと思ったら、××兄ちゃんの真似してやがったのか!デュエル教えてくれた従兄弟の真似とかえげつねーことしやがる!」

「まだ生まれて1年しかたってねえんだよ、誰かの真似しねえと振る舞いわかんねえだろーが。これが不満なら、あんときのガキ共の誰かの真似でもしてやろうか、克己?ちなみにおれが出来るのは、コレクションに入れられる前、克己の周りにいた奴くらいしかいねーぜ?最近のヤツラが分かるほど、俺使ってなかっただろ?」

「その格好で小学生のノリはきっついからやめろください。せめて、せめて開闢の騎士か宵闇の騎士で……!」

「残念ながら、おれはカオス・ソルジャー開闢の使者なんでな。リリースして、第二、第三の俺を生み出すやつらと一緒にすんじゃねえ」

「わかってますとも!カオス・ソルジャーで一番つえーのは間違いなくお前だから。エラッタしてねーのはやっぱでかいわ。そのうち準制限になりそうだけどな」

「そん時は楽しみにしてるぜ、克己」

「2枚になったらいくらでも専用構築考えるよ!サーチ手段死んでるけど!なあ、もう1枚投入しても、やっぱそっちのAIはお前にはできないんだろ?」

「そりゃそうだろ、こっちの世界の俺じゃねーか。そもそも、こっちに精霊っつーもんがいるのかどうかさえ、よくわかんねえだろーよ」

「ですよねー。でもさ、ファントムに関してはAIにしちゃ自律すぎてるとこあるから、案外精霊がソリッド・ビジョンのふりしてたりしてな」

「確かに、そいつは気になる所だな。そういや、アイツにソリッド・ビジョンを作ってもらう約束してんだろ?できたら見せろよ、反応見て確かめようぜ」

「それいいな!精霊か高度すぎるAiか、開闢に見てもらえば一発でわかるよな!なんなら、お前のデータをコピーして、開闢のソリッド・ビジョンに上書きしたら人格増えたりしねえか試してもらうとか?」

「あっはっは、俺が二人か!面白そうだな、やろうぜ」

「魂は1つっていうから無理だとは思うんだけどさー、やっぱ気になるじゃん?」

「お前のそう言うとこ、ホント喧嘩売ってるよな」

「今さらすぎるぜ、開闢。それがおれだろ?」

「まったくだ」

「それは今度遊矢に会ったら伝えるとして、デッキ調整しようぜ」

「よっしゃ、次は何試す?」

「うわーい、開闢がノリノリだ。寝かせない気だよ、こいつ」

「夜更かしばっかしてる癖に俺のせいにすんじゃねーよ、クソガキ」

「そうともいう」

城前は、今日のデュエルは単純な殴り合いだったと回想する。デッキケースとカードフォルダを広げながら、あーでもない、こーでもない、という相談がはじまった。

儀式軸の混沌デッキはまだまだ調整中なのである。聖騎士のカオス・ソルジャーをいれるなら、また大幅に構築が変わるし、いっそのことレベル8でまとめてしまうという手もある。ガーゼットやターレットウォーリアーなんて選択肢もある。どうしても1ターン凌いで超戦士たちでごり押していくことになるので、和睦の使者や威嚇の咆哮、一時休戦などに頼らざるをえない。もっとトレードインとか名推理とかで墓地を肥やすべきか、召喚制限との戦いである。気付いたらカオスドラゴンよりの構築になり、カオス・ソルジャーたちが抜けそうになってしまい、開闢に怒られる。儀式軸と意識しないとどんどんデッキは混沌としてくる。そんなにカオスドラゴンにしたけりゃ、儀式ドラゴン軸でも組めよと余計なことを言ったばかりに、城前は脱線し始めた。ファントムに儀式軸のオッドアイズぶつけたらどんな顔するかな。セイバーとオッP積んだカオドラ見せたら驚くかな。くだらない話が大半だ。あんまり羽目を外しすぎるとオーナーや館長に却下される。目に見える反対をなんとかかわして、ワンキル館の広告塔として違和感ない構築にするにはどうしたら。

「おいこら、超戦士軸の混沌デッキ組むんだろうが。カオスドラゴンは置いとけ」

肩に余計な負荷がかかる。痛い痛いと悲鳴をあげながら、城前はドラゴンに浸食され始めていたデッキを元に戻す。そして試行錯誤は続いたのだった。


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